少年、剣士と出会う。
訓練所に来る村の大人の中にも勿論剣を扱う者はいる。
しかし、アグニスの求めるそれとはまた違っていた。
中にはアグニスよりも優れた箇所を持つ者もおり、盗む所は徹底的に盗むアグニスだったが、アグニスが本当の意味で手に入れたい技術を持った者はいなかった。
訓練所で修練しているのは、主に村の自警団の人達や、魔物に襲われた経験を持つ村の農民であるのが殆どで、アグニス達が来る前までは子供の姿は全く無かった。アグニスの父、アグートは、村人の中でも魔法を扱える者に指南しており、それを知っている者も多い為、顔が広い。
そのお陰もあって、アグートの息子であるアグニスと、その友達であるベッグ達はすんなり受け入れられる事が出来たのだった。
アグニス達が如何に腕に自信があり、技術を持つであろうと、大人達の腕力の前では不利であるのは仕方の無い事である。
しかし、実践での戦闘では対人は勿論、魔物との戦闘ともなると、力の不利な点は殆どの戦闘で起こり得る次第なのだ。
ただでさえ魔物はその存在だけでも脅威であるのに、それに対抗しようとするのであれば、大人達との腕力の差を理由で片付けてしてしまっては成長出来ないのは当然のことであった。
それでも村人からすれば、アグニス達の歳齢でここまで動けるのは驚きに値するというのも事実。
アグニスが未だ勝てない理由が腕力であるのも間違いないが、それを覆す事が出来る術を知らない事もアグニスは分かっていた。
「――僕に、剣を教えてください」
アグニスは冒険者が泊まる宿屋の前で、剣士である、赤髪の男に頭を下げていた。
アグニスの燃えるような赤髪に良く似ており、隣に立っているその光景は親子に見えなくも無かった。
その事からも、男の歳はアグニスよりも一回り以上である事は間違いなさそうだ。
腰に掛けた剣は見える範囲でよく使い込まれているし、手入れも届いている。
アグートよりも背も高く、程よく鍛え上げられた肉体からも、男の放つ雰囲気は間違いなく実力者のそれをアグニスに感じさせた。
「またお前か。何度来ても答えは同じだ。悪いが諦めてくれ」
アグニスが頭を下げるのはこれで三度目だ。
ケニーからの知らせを受けた翌日に一度。その次の日に一度。
そして三日目である今日で三度目である。
「僕は騎士になりたいんだ! あなた達は村に一週間しか滞在しないんでしょう? 時間が無いんです。お願いします、僕に剣術を教えてください!」
「俺達の滞在期間を誰から聞いたかは知らないが、何度も言った筈だ。子供のお遊びに付き合う気は無い」
男は内心、酷な事を自分が言っているのを自覚していた。
子供が騎士に憧れるのは当然といえば当然の事である。
親に読み聞かされる童話の物語に登場するのは『勇者』や『魔法使い』そして『騎士』だ。
自分も幼い頃は憧れを抱き、周りに騎士になるんだと絵空事を言っていた事を思い出す。
「いいじゃない、ルーファス。少しぐらい教えてあげたら?」
アグニスが男と話していると、宿屋の扉が開いた。
そこに立っていたのは良く手入れされたブロンドの髪を後ろで一つに結んだ、勝気な女性であった。抜群のプロポーションのその人を見れば、殆どの者が美人だと答えるだろう。
ベッグやケニーがいたら鼻の下を伸ばすに違いない。
「その子、――アグニスの友達のロイっていう子も中々筋が良いから教え甲斐があるわよ?」
女性の名前はアルエル・ナテリーゼ。
アグニスが焦る理由はこの女性が既に、ロイを指南している為だ。
アグニスもルーファスに断られたその日は、ロイと共にアルエルに魔法の基礎を学んでいるのも事実だが、アグニスが本当に求めているのは、彼、ルーファスの持つ剣技であった。
そのアルエルの言葉にルーファスが折れてくれれば良かったのだが、残念ながら気持ちは変わらないらしい。
「駄目みたいね、……その頑固な所、直したほうがいいわよ。アグニス、訓練所で待っているからね。ルーファスは諦めて、さっさと来なさいよ?」
アルエルのその言葉にアグニスは肩を落とし、訓練所に向かった魔法使いの背を追った。
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