騎士、酒に溺れる。
初めまして、小匙と申します。
拙い文ではございますが、自分の好きな物語を自分の形で表現していけたらと思います。
騎士アグニスといえば聖国の第三王子の親衛隊の騎士として有名であった。
燃えるような赤髪、美形とまでは行かないが、数々の窮地を掻い潜って来た彼の実力は確かな物で、王家への忠誠心も厚く、また王家側からも信頼されていることで有名だ。
先の帝国との戦争では、親衛隊ながらも戦場へ赴き、尚且つ先陣を買って出て武功もあげている。
鍛え上げられた彼の体躯を持ってして放たれる剛剣は岩をも両断すると隣国にもその名は知られていた。
その情報に似た男が、城下町の酒場で周りの大男達と競うように大ジョッキを煽り続け、5人目を打破した時、酒場の扉が乱暴に開かれた。
「おい、こんな所に居たのか、探したぞ!」
現れたのは流れるような金髪と、空のように澄んだ碧眼の美男子だった。
彼――エルバート・ユーゼリウスもアグニスと同じく親衛隊の一員だが、その護衛対象はアグニスと違い、第一王子であり、有名貴族の嫡男という立場と整った甘いマスクで、貴族のご婦人方や、その娘達に大変人気がある本物の貴公子である。
しかしその甘いマスクが今は切迫としていて、アグの座る席へとずんずんと進んでいく。
「何だ、煩いと思ったら第一王子様のお気に入りの騎士様ではないですか。こんな汚い所へ如何なご用件で?」
酒が入り、呂律の回らない口でヘラヘラと締まりのない顔で男が答えた。
「お前の口からそんな軽口を聞く日が来ようとはな……、アグニス」
そんな男の皮肉が込もった物言いに、金髪碧眼の美男子も皮肉気に返す。
酒場で一緒に飲んだ暮れていた男達全員が一斉に驚きの顔に変わる。
まさかこんな城下町の、それも貴族街からも離れた、冒険者や傭兵等が集まる汚らしい酒場に騎士が来ようとは夢にも考え付かない事だからだ。
飲み始めこそ、アグニスの髪の色を見て本人に騎士アグニスの髪の色と同じという話題こそ出たが、まさか当の本人『騎士アグニス』であるとは誰も思い至らなかった。
「俺も偶には息抜きが欲しいってことさ」
アグニスは持っていたジョッキを静かに置いてから親友と視線合わせ、それに、と言葉を続けた。
「――俺はな、騎士を辞めたんだよ」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。