魔術学園
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学園に通う主人公の何気ない日常となります。
リューイの通う学園は都市部から少し離れた山の上にある。彼の住むマンションもその近辺にあり、徒歩で一五分程で通える距離だ。
今は学園に向かう途中の緩やかな坂を上っている最中である。周りはリューイと同じ制服で身を包んだ生徒が数人歩いていたり、自転車で追い越したりといつもと変わりのない風景だ。
「よう、リューイ」
「おはようー、亮介」
後ろから掛けられた声にリューイは挨拶を返した。
隣には、自転車から降りた男子生徒が共に歩いていた。
彼の名は神崎 亮介。
知性的なメガネを掛けており、その奥に潜む瞳は鋭い。賢いように見えるが、少し制服を着崩しており、おしゃれに気遣っている部分もある。
IVCの機能の一つに視覚補正があり、メガネを掛ける必要はないのだが、亮介のようにファッションとして掛ける人は少なくない。
そしてリューイと同じ学園に通い、同じクラスでもあるのだ。
「くっ……ふぁー……」
亮介はあくびを噛み殺せず、そのまま盛大に大口を開ける。
「どうしたの? 徹夜でもした?」
「あぁ、オークションで竸っててな」
亮介が徹夜するときは大体勉強なのだが、理由が理由なだけにめずらしい。
「へー、何が欲しかったの?」
「フッフッフッ」
亮介は、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりにメガネを中指で押し上げる。
「聞いて驚けェ!! 見て笑えェ!!」
周りの生徒を気にせずそう高らかに叫ぶと、IVCを操作してリューイの方へウィンドウをスライドさせるる。
するとリューイの視界には、一件のメッセージが届いたと知らせるアラームが鳴った。
リューイは視界に表示されるメールアイコンをタッチする。すると読み込み中を知らせるゲージが表示され、右端まで溜まったとき、亮介から送られてきたメールが表示される。
「…………」
リューイはメール内容を見た瞬間、なぜか頬を引きつらせていた。
「そうかそうか、黙るほど驚きなんだな!」
亮介は笑いながら、リューイの反応を自分なりに解釈していた。
おそらく解釈し間違えているだろうが。
「……このきわどいズボンは何かな……そういう趣味?」
リューイの手元にはでかでかとブルマの写真が映し出されていた。
どうやら亮介はこのブルマのオークションのために、夜ふかししてまで竸っていたらしい。なんともバカバカしい話である。
ここまでの話で感づいたとは思うが、亮介はれっきとした変態である。
「お前はわかっていない。ブルマの良さを!!」
リューイは、語り始める亮介を尻目に先ほどのメールをそっと削除する。
「現代ではそれを知る者は少ない、が、一部には盛大な支持があるのだ! 太ももをさらけ出し、そしてさらにそれを際立たせる。それこそがブルマである。あぁ、世間一般でのブルマはブルマーとも言ってだな――」
亮介がこうなってしまうとなかなか歯止めが効かない。友人の長話と長い坂道に思わずリューイは溜息を付いてしまう。
こうして学校に着くまで延々とブルマの話を聞かされるのであった。
――聖クラレチアン学園
リボルガルド魔術五大学園の一つと呼ばれるそれは、敷地面積や生徒数は多いものの、周りはそれに似つかず木々に囲まれている。
それもそのはず、この学園は都市部から離れたところにあり、かつ山の中腹部分にあるからだ。
近辺には公共の乗り物はなく、学園近辺の生徒のほとんどは徒歩か自転車である。
また離れた地方から通う生徒も多く、寮生活の者も多い。
大きな校舎は三棟に分かれており、一年生は一棟校舎、二年生は二棟校舎、三年生は三棟校舎という具合に分かれている。
長い坂を上り終えたリューイたちは、ようやく校門をくぐる。
亮介はというと、
「――パンツの中では縞パンが最高とされ――」
いつの間にかブルマからパンツの話へと変わっていた。ここまで着くのに、リューイたちにどれだけの冷たい目線が向けられたのやら……数えるだけ無駄である。
――ピロリーン
突然リューイにしか聞こえない着信が鳴る。
視界のウィンドウには着信を知らせるメールアイコンが表示されていた。
リューイは亮介の話など無視してアイコンをタップ。
新着に一件表示され、「リリア」と記されている。
名前からして女性というのは読み取れる。
しかし、朝一に異性からのメールだからといって一切そういう関係ではない。
ただの幼なじみである。
その幼なじみからからのメール内容はこうだ。
件名:おはよう。
内容:ちょっと用事があるから一棟校舎の裏まで来てくれるかしら。
どうやら送信主は彼に用事があるらしくメールをしたようだ。
しかしなぜ一棟校舎という人気のない場所を選んだのか、それは不明である。
だがリューイは気にした様子もなく、亮介の話の腰を折る。
「ちょっとごめん亮介、呼ばれたから行ってくるね」
「――ちなみに聞こう。誰とどこで待ち合わせをしている」
一体亮介はリューイのなんなのか。
まるで彼氏の浮気を疑っている彼女のようなセリフだ。
「リリアと一棟校舎裏だけど……」
「けしからん!!」
正直に答えてしまったリューイに喝を入れる。
「女性と人気のないとこで待ち合わせなど……貴様に抜け駆けはさせんぞ!!」
「別にやましいことなんてないと思うんだけど……幼なじみだし」
「お前はわかっていない。幼なじみだからこそってのが今の流行りだ」
「流行り?」
「コホン、気にするな。だが俺も同行させてもらう」
「は、はぁ……」
渋々了承し、亮介も同行することになった。
一棟校舎は校門から一番遠い位置にある校舎であり、一年生の校舎でもある。
その裏は木々ばかりで人気がない。
なので告白する場所にはうってつけの場所でもある。
「もう一度言うけど、何もやましいことなんてないと思うよ?」
「あぁ、お前は鈍感だから気づかないだけだ。それにな、そういう鈍感な奴に限ってラッキースケベによく遭う! そばにいる俺もうまうま出来るってわけだ」
「意味がわかんないよ……」
弁解したのがバカバカしいと思いながらうなだれるリューイであった。
「「――!?」」
突然感じる殺気。
リューイと亮介は同時に身構えた。
「リューイ、感じたか?」
「うん、明らかに僕たちを狙ってる」
二人はすでに校舎裏に入り込んでしまっている。
なので逃げようにも厳しいだろう。
人目は少なく、少しばかり木々が茂っているため、襲撃するにはもってこいの場所であるのは間違いなかった。
「亮介、数はわかる?」
「そうだな……数は一人ってとこか」
亮介が変態ということは確かなのだが、同時に魔術者として優秀でもある。
彼は属性魔術をい得意とし、特に風と水の魔術には長けている。
ちなみに風の魔術を用いて、敵の数を認知した。
「気配が消えた……」
「ああ、俺の魔術でも感知出来なくなった」
亮介の魔術をもってしても感知出来ないほどのステルス。
なぜ最初からそれを実行しなかったのだろうか。
いや、殺気をわざと出すことで宣戦布告をしたのかもしれない。
木々を吹き抜ける風。緑の葉と共にリューイたちのそばを通過する。
「リューイ! 右だ!」
「了解!」
リューイは亮介の掛け声と共に、右側に手を突き出す。
そして青く淡い光を浮かばせる陣が現れた。
「痛っ」
亮介の指示通りに動いたはずなのに、なぜかリューイの背後に敵の攻撃を受けていた。
背中には痛々しく少し光を帯びた矢が刺さっている。
恐らく魔術で生成した矢なのだろう。
「亮介……全然逆方向から来てるんだけど?」
「はっはっはっ、何を言っている。俺から見て右だ。すべては俺の主観にあり!」
二人は襲撃を警戒すべく背中合わせになっていた。だからお互いの左右は逆となる。
彼らは本当に親友なのだろうか。
誰が見ても思うことだろう。
しかしながらリューイの背中に矢が刺さっているというのに、一切血が出た様子もなく、最初だけで今はリューイは痛がる仕草もない。
実は学園の敷地内には精身変換装置といって、身体的ダメージが精神的ダメージへと移行するようになる装置がある。そのためいくら凶器で刺そうが殴ろうが、すべて精神的ダメージへ変換される。
だからよほどのことがない限り、学園内で魔術を人に仕掛けようが死ぬことはない。もちろん今まで学園で人が死ぬような事故はない。
しかし最初は痛みを感じるため、やりすぎるとショック死の可能性があることは、実験ののちわかってきたようだ。
やがて彼の背中に刺さた矢は光となって散布していった。
また不気味に静かになり、風が吹き抜ける。
「亮介危ない!」
リューイは彼の左側に身を乗り出すと、咄嗟にさっきと同じように陣を展開する。
飛んできた矢は陣の中に吸い込まれるように入っていく。
「ナイスだ、リューぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
これが彼特有の防御魔術。
空間を展開させ、受けた攻撃は違う場所へと出現させる。
逆にそれがアダとなり、防御した矢は亮介の右目に刺さっていた。
「目がああああああああああ!!!!!!」
「ふぅ、危なかったね亮介」
「俺が悪かったです俺の主観から指示したのが間違いでしたごめんなさい許してください」
目に矢が刺さってることも気にせず、リューイに土下座をくり返す。
どれだけリューイが根に持つタイプかわかっただろうか。
人間見かけによらずとはよく言ったものだ。
二人のそばの茂みがガサガサと音を鳴らした。
呆れた声と共に、女性が姿を現す。
「ったく、アンタたち漫才でもやってんの?」
ふんわりとしたショートボブにスラリとした容姿。スカートから見える脚は白く細い。
綺麗に整った顔にある双眸は、鋭いながらもどこか妖艶さを感じさせる。
何もない森の中に、まるで一輪のバラが咲いているようにその存在感は圧倒的。どこか魅力的なオーラを身にまとっている。
そんな彼女の名はリリア=ランヌ・エリーダ。
リューイにメールを送信した本人であり、彼の幼なじみである。
「あれ、襲撃者の正体ってリリアだったの?」
「そうよ。今日から武器を使用した実習が始まるから練習してたの。でも一人で練習するのも手応えがないから、身近にいた知り合いに頼んだの。練習にもならなかったけど」
その証拠に左手には赤い弓が握られ、右肩から腕にかけて防具を付けている。
この一式は中学の頃、アーチェリー部に所属していたリリアの愛用弓である。
ちなみに現在いる場所は校門から一番遠い校舎の裏。
リューイたちからしてみればいい迷惑である。
しかしそんなことは気にしていないのか、リューイはにっこり笑う。
「リリアは勉強熱心だね」
「そ、そんなことないわよ」
褒め言葉をリリアは顔を赤くして否定するのであった。
その二人のやり取りを尻目に、周りの木々は少し強めの風に揺れている。
まるで何かを呼び込むように。
亮介は右目に矢を刺したまま顔色を変えた。
「来る……ッ!」
また別の襲撃者でもいたのだろうか。
三人の離れたところから大きな風が、ゴォーっと音を立てている。
そして本日最大の風が三人のそばを物凄い勢いで通り抜ける。
亮介はこの期を逃さなかった。
風が吹くことで起こる不慮な事故を。
女子生徒の制服はスカート。つまり目の前にいるリリアもスカート。
その先に起こりうること……それは――
「おおおおお!! 見――」
「させないわよ」
「――んぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!」
今まさにスカートがまくり上がろうとしてた瞬間、リリアの咄嗟の判断により、亮介の左目に矢を放った。
「まったく……この変態には気を付けないと」
「……」
「? どうしたの、リューイ?」
不自然に静かなリューイをリリアは不思議に思ったらしい。
「~~~~ッ!!」
思いつくことがあったのか、リリアは急に顔を真っ赤にし、スカートの裾を押さえた。
無論、時すでに遅しではあるのだが。
「あははー……」
リリアはスカートがまくり上がることよりも、亮介の目潰しを優先したのだ。
目潰しにあっていないリューイには、スカートの中が丸見えだったことは言うまでもない。
「み、見た?」
「見てないって言う方が無理あるよね?」
リューイは見たくて見たわけでもなく、不慮の事故に遭ってしまっただけなのだ。
決して彼は何も悪くない。
「し、しししし……死ねえええええええええええ!!」
理不尽に放たれる矢を必死に避ける。
なんとも騒がしい朝を迎えたリューイであった。
閲覧ありがとうございました。