二十一話
店が多くあるため、非常に人の多い俺の担当するエリア。
特にクリスマスイブの夜である今日はいつも以上に多く、ワイワイと賑わっている。イルミネーションの輝きに目を奪われ、歓声を上げる。ここのイルミネーションは特別性だ。
何せ動く。
光で作られたトナカイであったり、蛍のように舞う小粒のような光であったり。
光の種類も豊富で、夜の闇に輝くそれらは本当に美しい。職人芸である。
冬の花火と住民達に言われるのも、確かに納得。ただ派手さは決して無く、闇に寄り添うような御淑やかな光。優しい光だ。
中には自分の魔法をその中に混ぜようとする住民もいる。しかし今回は職人達の邪魔になりかねないので、そういう住民のために特別な時間を取ってある。イルミネーションの数を少なくして、空中に自由に魔法を放てる時間。これが中々盛り上がる。勿論、職人が作り上げたイルミネーションには劣るものの、手作り感が出て良いのだ。一種の連帯感が出て、放たれる魔法が一つのジャンルに統一されることがある。あの時の盛り上がりは最高だ。
因に、現在の俺のテンションは最低だ。
もうなんと言うか、自分が嫌。ほんとに嫌。
「あ〜、楽しそうだな畜生」
「何言ってんのよ。最近どんどん根暗になってない?」
「「「ゴブ!」」」
とあるビルの屋上で体育座りでイルミネーション達が空を駆けるのを見ていると、一人の長身で綺麗な女性。に、見えるホビットの女、ベティが助手ゴブリン達を引き連れてやって来る。
ベティはとても冷やか且つ高圧的な視線で俺を見ているが、ゴブリン達は心配した様子で俺に声を掛けてくれる。正面から見ると恐ろしく感じる彼女達の形相に、少しときめいてしまったのは俺だけの秘密。
心は綺麗なんだよ、ゴブリンは。
ああ、もう何かゴブリンが美少女に見えて来た。
ゴブリンたん。かわいいよゴブリンたん。—————ってか?
ないない。さすがにない。
だから鳴り止まれ俺の心臓。さっきからうるさいんだ。
「今日はサンタの格好か。安直だな」
「定番って大事よ? 奇を衒ったって、引かれたらどうしようもないじゃない」
ベティ達の格好は、いわゆるサンタのコスプレ。よくある女性用のコスプレである。
ミニスカートが作り物の長い足をよく引き立ていて、全体的にモコモコとして愛らしい。例えそれが幻想だとしても見惚れそうだ。
彼女と同じように、半世界は寒くないため、辛い思いをせずにコスプレを楽しむ者は多い。ゴブリン達も同じようにサンタの格好をしていて、さながら妖精のようだ。
———ん? どうした俺? 妖精? どこにいるんだよそんな生物。
『は〜い。それでは〜、フリータイム〜! 皆さん魔法の容易は出来ましたか〜?』
リッチのアナウンスがエリアに流れる。住民達による自由な演出タイムの始まりだ。先程まで空を飛んでいたイルミネーションは地上に降りて、町の建物に装飾された物も光が弱まる。
時刻は後三十分ほどで零時を迎える。しかし町には子供も元気に空を向いて、自分の魔法を披露しようとしている。
俺達の世界的には問題に見える光景だが、こちらの世界では問題無し。別に法律なんてものもないし、安全面でも問題はない。更に子供達の健康面だが、人間よりも圧倒的に丈夫且つ健康的な彼らを心配をする必要はない。それに夜更かしは今日だけ。教育は格親がしっかり行ってくれるのでそれも問題ないのである。
『さぁさぁイベントを更に盛り上げるために、盛大に魔法を放ちましょう〜!』
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉ!」
先程までのシットリとした歓声から、雄叫びのような元気な歓声へと切り替わる。
ここら辺の空気の切り替えは、ちょっと尊敬するレベル。一体感が違う。
放たれた魔法。今年は全体的に寒色、それもフクロウの形をした魔法が多い。それを察したのか、他の魔法もまた段々とフクロウへと変わって行く。沢山のフクロウが夜の闇に輝く様は、中々壮観だ。少々歪で不器用な動きをするフクロウも多いが、それでも全体を見ると規則的に動いて統一されている。
途中、赤いフクロウが現れた。
赤いフクロウが一匹の青いフクロウにぶつかると、青いフクロウは発する色を赤に変える。すると赤くなったフクロウは同じように青いフクロウにぶつかると、そのフクロウもまた赤く変わる。
そこからはちょっとしたゲームが始まった。
赤フクロウと青フクロウの勢力争い。赤が青に変わり、また赤も青に変わる。
どうやら先に攻撃した方の色に変わるようで、同時に攻撃がぶつかると色が紫に変わる。紫に変わったフクロウは数秒後に弾けると、赤と青の二匹のフクロウに別れた。二匹のフクロウは別々の勢力に加わると、再び争いを始める。
「貴方は参加しないの?」
「俺が参加したら、そっちの勢力の勝ちが決定しちゃうじゃないか」
仮にも『魔法使い』の末裔。それも、竜庭で修行をしたnew俺。
一応魔法の実力は高いのである。警戒すべきは、エルフのフクロウか。
「言い切るじゃない。貴方ってそんなに自信家だったかしら?」
「成長したんだよ」
「そう。———ならさっさと成長して、その鬱陶しい落ち込みぐわいを何とかしなさい」
「………無理。だって、無理だもん」
「ウザッ—————」
ウザイか、そうか。きっと文月さんも、お礼を言わない俺のことをウザイとか思っているんだろう。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺のクソ野郎ぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」
「うるさいっ!」
頭を抱えて発狂する俺を、物理的に止めようとするベティ様。痛いのは嫌なので回避。
そこからちょっとした攻防を繰り広げている内に、フクロウの攻防も終わったよう。見ると視界には青い光が満ちている。先程までは赤が優勢であったが、どうやら巻き返したらしい。フっ、俺が参加していれば赤が勝っていたな。
今からでも参加しようかな〜。とか考えてみたものの、俺の警戒網にソレが引っかかる。
『では住民の皆さん。そろそろ始まりますので、準備をお願いします』
アナウンスを掛ける。先程と同じように、空気がガラリと変わった。
子供達が更に色めき立つのに反して、大人は真剣な表情で、魔法を使いエリア中を移動し始める。出来るだけ人がいない場所に移動しており、先程まで一カ所に集まっていたのが嘘のようだ。
『決して無理をしないように。お子さんのためにも、無傷でいましょう。………あ、それと準備体操は忘れずに』
救世の武器を召還。木のような感触を確かめて、それに魔力を通す。
俺達の世界から来た想いの力。
その力が集まって、形になる。
『ギルド組員さん。子供の警護をお願いします』
言ってて気持ち悪い。
『それでは、始めましょう!』
シャン、シャン、シャン、シャン。
ベルが鳴る。