十九話
休日。即ち休む日。ダラダラしてもいい日である。
俺は布団に包まっていた。最近本当に駄目人間になってしまっている気がする。でも心地いい。この温もり。
ちょっとだけ布団から体を出してみる。うん、無理。寒い寒い。
時計を見てみた。もう昼である。
冬の太陽は低いから、この時期は俺の部屋にも光が差し込む。待っていれば、部屋の温度も上がって来るだろう。それまでは出ません。絶対に。だって寒いから。超寒いから。そして布団が気持ちいいから。
「こら、いつまで寝てんの!」
「寝てるんじゃない。微睡んでるんだよ」
「寝てるじゃないかぁー!」
ギャー! 無理矢理剥がすのだけは御勘弁をお母様ぁー!
熱いお湯でジャバジャバと顔を洗うと、ようやく目が開いて来る。
いやぁ、寝過ぎた。反省。鏡に映る俺の髪は、寝癖でグシャグシャである。取りあえず水で戻そうとしてみるものの、まるで効果がない。もう後でワックスでも使って直すとしよう。
俺は寝癖を付けたまま、リビングへと移動した。
「ほら、朝ご飯兼昼ご飯」
「いただきます」
椅子に座って、母さんの作ってくれたうどんを頂く。母さんもまた向かいの椅子に座って、麺を啜り始めた。鰹出汁のシンプルなうどん。栄養バランスを考えてくれているのか、具は野菜が多め。白菜が美味しいです。自家製とは思えない。
「あ、沢庵あるわよ」
「是非下さい」
母さんは台所へ行くと、冷蔵庫から沢庵を取り出して一口サイズに切ってくれた。
因にこれも自家製。大根も庭で作ったものであるし、母さんが漬けた沢庵である。これが美味いんだ。俺の好物の一つである。熱い緑茶と合わせるともう最高。
ポリポリと口にしていると、途中で母さんが嗜める。
「食べ過ぎ」
「美味いから仕方ない」
「そっか、それは仕方がない」
そう言い返すと、あからさまに機嫌が良くなる。ちょろい。
俺には分からないのだけれど、父さんと俺の声は殆ど同じらしい。多少の違いはあるものの、家族である母さんにも意識して聞き分けないと分からないほどに類似しているのだとか。そして母さんは父さんの声が好きなのだとか。別にたいして良い声でもないと思うのだけれど。母さんの好みは分からない。
別にそれはいいのだけれど、ただ悶えるのは止めてほしい。貴方はもう四十代なんですよ?
「あ? 何か言った?」
「いえ、何も」
思っただけです。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
よし、二度寝をしよう。
「あんた、向こうには行かなくていいの?」
「一応やる事のスケジュールは立ててある。今日は休みにした」
「けど色々と出るかもしれないんでしょう?」
「まぁ、そうだけど……」
魔王とか魔王とか魔王とか。
彼奴らはゴキブリのように湧いて来る。誰か是非とも、このストレス社会を改善してほしいものである。何で学生の身分である俺が、社会を憂いなければならないんだ。次代を担う若人だから、本来なら当然? 知らん。
「だったら行きなさい。あんた最近怠け過ぎ」
「自覚はしてる」
「ならとにかく、動きなさい。向こうに行けば、多少は気合いが入るでしょ」
眼光が怖いです。
「————————分かったよ」
俺は休日出勤に行くサラリーマンの気持ちで、身支度を整えた。
外が寒い。心も寒い気がする。
冬は好きだ。布団とかコタツの中限定で。