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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
五章 「末裔の年末は忙しい」
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十八話

 コタツがある限り、世界は平和だと思う。


 何なのだろうこの温もり。まるで聖母の抱擁。

 ああ、休んでもいいんだ。俺、頑張ったもんな。そんな気分にさせてくれる。


「あ〜」

「あ〜」


 座っていると背中が寒く感じることもあるが、そこは綿入りの袢纏を着ることでカバーである。


 現在俺は引きこもりドワーフの家の中にいる。用事は当然更新に関するお知らせ。コイツも俺より長く生きていて大体分かっているが、面倒くさがってやるべきことをやらないということが、コイツの場合有り得る。けれどもしっかりと話そうと思って、扉を開いた先に魔法の家具があったのが運の尽き。俺は見事にそこに吸い込まれ、コタツの温もりを楽しんでいるのである。


 この世界は常に快適な気温に調整されているのに、この引きこもりドワーフはコタツを楽しむためにわざわざ部屋の気温を下げているようだ。コタツの温もりが心地よく、それでいて寒くないような絶妙の室温に。まったくけしからん。よくやった。


「みかん食うか〜?」

「さんきゅ〜」


 いつもならば争うように言葉をぶつけ合っている俺達だが、コタツの中に入っている今は家族だ。みかんだって分け合う。


 正確にはみかんじゃなくて、元々この世界に生きていて半分になる際に方舟で避難させた木を品種改良したみかんっぽい果物なのだが—————————それは良いか。美味いし。正式名称はあるらしいが、これはもうみかんだろう。


 因みに俺は白いヤツは取らない派。マリーナは取る派である。


 面倒くさく感じて俺は嫌なのだが、コイツはそういう細かい作業が好きのよう。元々は職人だからそれも頷ける。白いのが完璧に取れた時のコイツの表情は、中々愛らしいものがある。


 いや、待て。愛らしい? コイツが? それはない。いくら何でもコタツの魔力に毒され過ぎだな、俺。


 マリーナは白いのを綺麗に取り終えたみかんを俺に渡すと、また新しいみかんを手に取って白いのを取り始めた。


 胃が小さいコイツはあまり多くの量を食べない。しかし白いヤツを取る作業がしたい。そして俺はもっとみかんが食べたい。利害関係は完全に成立している。俺は綺麗なみかんを口に運んだ。果汁が口の中で広がる。甘酸っぱく、美味い。


「そういやぁ〜、お前、竜庭に行ったんだって?」

「おお、行ったよ。ドラゴンすげぇデカイわ。超ビビった」


 テレビにはアニメが流れている。マリーナの持っている中でもオススメなのだとか。そういえばアニメを見るのは久しぶりである。あ、パンツ見えた。無駄に作り込んであるな〜。


「やっぱお前も泊まったのか?」

「おう」

「親子揃って奇怪だな。正気とは思えん」

「俺は何か流れで決まっちゃってな。でも一年ぐらい一緒に住めば意外と慣れるもんよ?」

「そんなにいたのかよ!」

「これが竜庭って超快適でな。後十年はいてもよかったかも。さすがに迷惑だから帰ったけど」

「懸命だな」


 いつの間にか手元のみかんが無くなっている。マリーナの方を見ると丁度剥き終わっていたので、手を伸ばして受け取った。


「魔法の練習したから多少は腕が上がったんだぜ?」

「修行編終了ってか」

「新俺、誕生だ。これでようやく痛い思いをせずに魔王と戦えるよ」

「遅過ぎるっての」


 あ、乳首見えた。いや〜ん、てアホか。


「くっだらね〜」

「バカみたいだろ?」

 

 画面を見てマリーナはゲラゲラと下品に笑う。

 安定した性格の悪さである。逆に落ち着く。


「ほれ、注意事項の紙」

「あん?」

「更新のだよ。一応、今日はこのために来たんだ」

「ああ、そう言えば去年も渡されたな。鼻水を拭くのに有効活用させてもらったよ」

「そんなお前のための、こっち」


 俺はククとピピが作ってくれた紙を渡す。


 何度見ても、やっぱり見やすくて良い。マリーナも興味を惹かれたのか、俺達末裔が作った方の紙を捨てて、それを手に取った。


「せめてそれだけでも読んでくれよ」

「暖かみがあるな。誰が作った?」

「知り合いの姉妹。俺のために作ってくれたんだよ」

「お前には勿体ないくらいの子達だな。優しさが伝わって来る」

「そうだな。俺を慕ってくれるなんて勿体なさ過ぎるほどの、いい人達だよ。俺にはお前みたいな性悪な知り合いが丁度いい」

「まったくだな」


 マリーナは再びゲラゲラと笑った。いつも通り、性格の悪く下品な笑い方。でもそれが魅力的に見えてしまうのは、コタツの魔力のせいだろうか。

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