十七話
今年も残り一ヶ月を切った。
それは即ち二学期の終わりが近づいていることを意味していて、そろそろ学期末テストが行われることを意味する。
別に授業をちゃんと聞いていて、復習を軽く行えば平均点は余裕で取れるので問題はないのだが、この時期のテストは例外。
魔王が現れない場合は、通常ならば時間が出来ることもあるので勉強を行えるのだが、この時期は更新の手続きのために常に走り回っている。小さなミスも許されないため、結構精神的に疲れるのだ。地図と地図を見比べたり、広いエリア全体のことを考えるのは大変だ。少しの復習も出来ない。—————と、自分で言い訳をして、ついサボってしまう。ほら、勉強ってやりたくないじゃん? 仕方ない仕方ない。
そして太陽の位置が低くなっているため、窓から教室に光が多く入る。
二学期がそろそろ終わるにも関わらず最近行われた席替えにて、俺はその窓辺の席を確保した。つまり俺は現状昼寝を行っている最中である。
こんなに快適な場所で昼寝を行わないのは、この席を取れなかった生徒達への冒涜ではないだろうか。だから俺は寝る。それは仕方のないことなのだ。うん、仕方ない。
最近の俺は昼休みに寝る。というか机に突っ伏して微睡むのが定番になっていて、救太と会話をすることが少なくなってきた。彼は当然のようにこのクラスに来ていたのだが、今はこない。聞いた話では救太のクラスもまた席替えを行ったようで、彼は俺の同類になったのではないかと推測する。
この太陽の包容から逃れられる学生はいない。少しばかり制服が光を吸収しすぎて熱くなることがあるのだが、寒い廊下と教室間を出入りする扉が開いており、教室内は肌寒いぐらいなので丁度いい。廊下側にいる学友達には同情を禁じ得ないのだが、戦いに勝ったものの特権としてこれを享受させて頂こう。ざまぁ。
くすくす。
笑い声が耳に入る。どうやらこちらに向けているようだ。
別に笑われるようなことはしていないのだか。
気になった俺は顔を上げて、瞳を開く。
前方を見ると俺の同類。
後方を見ると俺の同類。
窓辺の席が一列、同類で埋め尽くされていた。
確かにいくら昼休みだからといって、綺麗に一列の生徒が並んで寝ている様子は、端から見れば滑稽だ。
笑われるのは少しだけ不快に感じたけれど、俺は再び微睡みの中に沈んだ。
こんなに気持ちいいんだ。仕方ない。
笑われるのも、この安らぎを得られるなら、気にするほどのことじゃない。
「勉強しろよお前ら……」
誰かが言った。
知るかボケ。現実逃避だよ、悪かったな。
平均点。皆で下げれば怖くない。
ああ、凄く安らぐわ。
テスト前日になって、俺がとんでもなく焦ったのは言うまでもない。
そして同じように目の下に隈を作った同類達と、心の中で慰め合った。
仕方ないんだ。仕方ない。
——————————俺達が、悪いんだ。
窓から太陽が俺達を誘惑する。お眠りなさいと、俺達を誘う。しかし昨夜にからシャープペンシルを使用し過ぎた結果、手に生まれたペン胼胝の痛みが、俺達を引き止め、誘惑を振り払う。俺達は機械のように答案に記入していった。
テスト前にカーテンを閉めればそれで良かった。テスト中に誘惑が俺達を惑わすことはない。けれども俺達は、事前に打ち合わせたかのようにカーテンを閉めようとはしなかった。
それは、自身への罰。
過去の自分が犯した罪と、向き合うための手段であった。
くすくす。
誰かが笑う声が聞こえる。
鼓膜を震わせているのではない。それでも何かが、愚かな俺達を笑っている。
こんなに苦しいんだ。仕方ない。
笑われるのも、この苦しみを生み出したは自分なのだから、気にしてはいけない。
だから言ったのに……。
そんな声が、聞こえた気がした。
「はい、終了〜。後ろからテスト集めて〜」
—————————————————————————終わった。