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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
五章 「末裔の年末は忙しい」
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十六話

 俺の担当するエリアの人口は多い。ビルやお店が多く建設されており、学校もある。

 一軒家は少ないものの、マンションなどの居住施設も整っているため、非常に暮らしやすい町なのだ。


 それは嬉しいことだが、そのエリアを担当する末裔としてはちょいとばかし大変だ。建物が多いということは更新に際しての手続きがその分多くなるということであり、人口が多いということは挨拶周りの時間が長くなるということで、もしも一年以内に俺達の世界で住宅が壊されたりしていたら、住居者の新しく住む場所を探すのが大変だ。最悪、他のエリアに移ってもらうしかない。その場合は救太などの比較的近い他のエリアを担当する末裔と連絡を取り合って、調整をしなければならない。大変なのだ。


 けれども今年はありがたく、リフォームされた住宅があったものの、取り壊された家はなかった。


 一年で細かい変化は当然のように沢山あるが、これはいつものこと。今年の手続きは、比較的楽である。


「はい、この家は今年も大きな変化なしですね。で、注意点としましては———」

「内装とか、家具が変わるかもしれない。でしょう? 大丈夫、分かっているわよ」

「あはは。さすがです。でも面倒くさいかもしれませんが、一応御聞き下さいね」

「末裔様も大変ですね〜」


 目の前にいるのは、ビーストの女性。女性としては珍しく、動物的な特徴が多い。気を使っているのか毛がフサフサで、撫でれば心地良さそうだ。失礼だから絶対にしないけど。


「更新の前に、大事なものは方舟に収納するようにして下さい。申し訳ありませんが、更新の際に消滅してしまえば、決して戻って来ることはありませんのでご注意を」

「はいはい。準備は進めていますよ」

「そして更新後は、出来るだけ早く家の点検をするようにお願いします。おかしな点がございましたら、直ぐに連絡をして下さい」

「了解しました」


 毎年のことなので、聞く方の住人も既に内容を承知している。なので対応は雑だ。無理を言って時間を取ってもらっているのはこちらなので、不快には思わない。


 永遠を面倒な説明を淡々と続け、終わると注意事項をまとめた紙を手渡す。


「以上で注意事項の説明を終わります。必ずこの紙を熟読するように」

「はいはいお疲れ様でした」

「では方舟の点検作業に入りますね」

「その前にお茶でも飲んで行くかい?」

「あ、それじゃあ。点検が終わったら頂戴します」

「あいよ」


 女性は嬉しそうに台所へ歩く。それも見る俺も、喜んでもらえるので嬉しい。

 お腹は既にタプタプだが、美味しいことには変わりないのである。











 家から出て町を見ると、イルミネーションが着々と設置されつつあった。


 クリスマスはまだまだ先のことだけれど、それまでも空気感を楽しむのはこの世界も同じ。カップルが鬱陶しくイチャイチャすることはないものの、住民達はイルミネーションに心を奪われる。


 未完成ながらも試験的に点灯されており、暗くなってきた町に映える。


 夜に家を訪ねるのはさすがに失礼であるから、今日の巡回はこれでおしまい。

 同じ事を何度も何度も繰り返し話すのは結構疲れる。さっさと家に帰って寝る事にしよう。凄く寝たい。もう寝る事しか考えられない。睡眠最高。


「いらっしゃいませ〜」


 というわけで俺はLINKに直行。

 素早く個室に入って世界を移動しようとする。


「末裔様、待って下さい」


 そんな俺に話しかけるのは店員であり、草食系兎族のビーストのクク。

 手には何か紙の束を持っている。


「どうした?」

「これ、作ってみたんです。エリアのいろんな場所に張ったらどうかなって思いまして」


 見てみると、書かれているのは更新に際する注意事項。俺が各家庭を回って話していることの、重要な点だけを切り出している。それにイラストが多く盛り込まれており、色使いも多彩で、非常にポップで分かり易い。末裔が作り出した堅苦しい紙とは大違いだ。


 パッと見て目を惹かれるし、そこから情報が入り易い。読んでみたくなる魅力もある。


「凄いね。一人で作ったの?」

「いえ、姉と二人で休日に作ったんです。少しでも末裔様のお役に立てればいいかと思いまして———」

「ありがたいよ。正直、住民の皆さんは聞き流しているからね。こういう読み易い紙があると、説明が耳に入り易くなる」

「本当ですか? 良かった……。姉も喜びます。何かお礼をしたいと言っていましたので」


 姉とは、神那さんの担当するエリアにいるビーストのことだ。彼女は今もなお、俺に恩義を感じているらしい。


「お礼なんて、俺がしたいくらいだよ」


 この紙は、かなり作り込んである。きっとかなり頑張ってくれたのだろう。


「それでは、明日また末裔様が来られるまで預かっていますね!」

「うん。よろしく」


 ククは眩しい笑顔のまま、去って行く。

 彼女達姉妹の好意が、とても温かかった。


「うし! 明日も頑張ろう」


 単純な俺は、やる気に満ちあふれて自身の頬を叩くのであった。

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