表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
一章 「半世界の友人」
6/79

三話

 その後、俺はマリーナに三本の動画を見させてもらった。一本は同じく父の動画だったが、残り二つは違う末裔の動画だ。


 最初の動画と違って三本は戦闘時間が長く、俺は結局三時間ほどそこにいることになった。途中でマリーナに意見を聞いていく。こいつは長く生きている分、多くの戦闘動画を見てきているし、その戦いの手伝いをしたこともある。俺よりよっぽど戦いのイロハを知っているので、アドバイザーとしてかなり優秀だ。


 罵倒し合ったことを除けば、非常に有意義な時間である。


「じゃあな。また来る」

「二度と来んなゴミ」

「何だとコラぁ! 今はその罵倒だけは許せねぇぞ!」

 

 そして更に五分ほど玄関先で言い合ってから、俺は暗くなった道を歩き始めた。

 ここは地区の中でも人が少ない。街灯すらないので、殆ど前は見えなかった。


「コーン」


 狐の鳴き声。辺りが青白い光で照らされる。一人のビーストが闇の中から浮かび上がった。ホラー映画が苦手な人からすれば、恐らく絶叫するような現れ方だ。こいつはそれを狙ってやっている節がある。他者を驚かせたりするのが大好きなんだろう。だが、俺はもうなれたものだ。


「末裔様~。夜道は危険ですよ?」

「この世界で、魔王以外に大した危険はねぇよ」

「おお~! それは僕達ギルドの手腕を遠回しに褒めて下さっているのですね~?」

「そんなわけねぇだろうが。まだ俺はあのとき手伝ってくれなかった恨みを忘れてないからな」

「末裔様は、心がとてもお広いようで」

「だろ?」


 光の発生源、宙に浮く狐火を纏いながら、リッチはニコニコと俺に笑いかけてくる。相変わらず胡散臭い笑みだなと思いながらも、釣られて笑っている自分がいることに気が付く。


 こいつもまた、マリーナと同じ貴重な友人の一人。


 俺はそのまま、リッチと共に町中を散歩することにした。とても下らない、意味の無い会話を繰り広げながら。

 

「狐火は、鬼火と一緒にされますが、僕としてはそれは止めて頂きたいのです」

「だいたい一緒じゃねぇか」

「まったくもって違いますとも、言葉の響きからして違います。狐火と、鬼火。───ほら、溢れ出る優雅さが違うでしょう?」


 そう言われるとそうかもしれない。試してみる。

 狐火。鬼火。


「だいたい一緒じゃねぇか」

「一緒じゃあ、ありません。では、見た目を思い出してみて下さい。僕のこの、品がありながらも荒々しい恋のような狐火。そしてハイオーガ達が作り出す、あの下品で淫猥な鬼火。───ほら、比べてみると一目瞭然でしょう」

「だいたい───」

「どうやら、末裔様にはセンスというものが無いようですね。いえ、結構。僕達、狐族のこのこだわりは、他種族のみならず同じビーストにも、理解を用意には得られませんから」

 

 あ、拗ねた。

 

「悪い悪い。う〜ん、綺麗じゃんじゃない? 狐火の方が」

「そのあからさまな気遣いは、どうにかなりませんかねぇ〜?」

「じゃあ、鬼火の方が綺麗だ」

「それだけは寛容できないな〜!」


 表情をまったく変えずに、リッチは俺に狐火をぶつけてくる。


「ちょっ! 熱ッ! 狐火なのに熱ッ!」


 狐火って、熱は無いんじゃなかった!?


「僕の狐火は特別製だよ〜」

「た、たんま! 悪かったって! 熱ッ!」


 本日の教訓。親しき仲にも礼儀あり。











「で、何の用だ?」


 体中に出来た火傷を必死で治しながら、俺はリッチに問いかける。


「あらあら~。ばれていましたか?」

「お前は嘘が上手だが、本心を隠しきるのは苦手だろう」

「……それは知らなかった」


 リッチは本当に驚いたようで、普段なら見ないほどにその細い目を見開いた。

 逆に俺が驚いたわ。


「灯路、君は……君達、末裔は、一体、どうして戦っているんだい?」

「どうして、と、言われてもなぁ…」


 俺は後頭部をボリボリと掻いた。少し恥ずかしい気分になったのだ。何せ、いつもの会話が全てふざけ合っているようなもの。隣に歩くこいつとの間に、嘗てこのような雰囲気になったことがあっただろうか。あったとしても、それは数えるほどしかないだろう。


 友人は、真剣に答えを求めているようだった。その気持ちに応えるために。俺も、一つ真剣に考えてみることにした。


 俺は末裔の一人だ。

 だから戦っている。

 以上。

 

「うーん。どうしてかぁ──────」


 友情を壊さないためにも。もう少しだけ考えてみる。けれども答えは出てこない。


 そもそも、俺にとって魔王を倒すという行為は、生活サイクルの一つだ。


 勉強なんて面倒くさいけれど、行かなければならないから学校に行く。それと同じような感覚なのだ。どこかで勉強は大切だと理解しているし、やらなければならないことだと諦めている。どう考えても魔王を倒すことは大切だし、末裔である俺達がやらないといけないことだ。

 

 迷った俺はそのままの気持ちをぶつけてみた。

 リッチは僅かに表情筋を動かすだけで、見事に感情を表現してみせた。


「君はやっぱりバカなんだろうかね〜」

「…おい」

「半分ぐらいは良い意味だよ」

「良い意味というなら、俺は前半の言葉は聞き流して、素直に喜んでおこう」

「君らしいねぇ~」

「だろ? 俺は俺だよ。俺だから、戦うんだ」

「その答えは、予想できなかったな」


 友人は、いつも通りにニコニコと笑って、空を見上げた。つられるように見上げると、丸い月が見返してくる。急に闇が襲ってきた。リッチが光源だった狐火を消したのだろう。もう頼れるものは、降り注ぐ優しい光だけ。その光はとても頼りなかったけれど、悪い気にはならない。


「たまには、月明かりだけの道を歩くのも悪くないね」

「──────ああ。……満月か?」

「いや、それは確か明日じゃなかったかな」


 俺には満月との違いが分からなかった。幻想の月は、とても綺麗な円に見えたのだ。


 しばらくの間、俺は友人と共に月を眺めながら歩き続けた。そして町の光が月光を覆う頃に、俺はなんだか気恥ずかしい気分になって、頬を掻いた。隣を見ると同じ動作をしている。それが更に恥ずかしさを増徴させた。


「僕はね。この世界は、僕達が守るべきだと思うんだよね~」

「……」

「僕達は、戦える。なら、戦うべきじゃないのかな?」

「戦っているじゃないか。住人の避難は、お前達がいるから安全に行える」

「そうじゃない。魔王を倒すのは、僕達の役目じゃないかと、言っているんだよ」


 町の光に照らされて、多くの半世界の住人が歩いている。そこに俺達は、いない。 

 この世界は、彼らの、彼らだけのものなのだ。

 

「疑問はいらないんだ」

「……」

「俺達は末裔だ。俺は俺だ。だから戦うんだ。それで、いいんだ」

「論争は、出来ないみたいだね」

「論争? なんで言い合う必要がある? 答えは、初めから一つ。お前もそれを知っているはずだろ?」

「────────────そうだね、君はバカだ。その答えは一つだった」

「…おい」


 俺の冷たい視線をものともせず、リッチは笑い出した。何とも不愉快なことだ。


「本当に、君達は、バカだ」


 失礼なヤツ。


「そんなことを言うなら、今度『ゴミ溜め』が出たときは必ず手伝ってもらうからな」

「え~!? 僕はビーストだよ~? アレは僕達の敏感な嗅覚には、本気で死に直結するんだけど……」

「なら、その代わりに今手伝ってもらうとするか」


 警戒網に引っかかったそれが、俺に存在を主張し続けていた。この感覚からすると、『パワハラ』だろうか。なんでこうも面倒くさい魔王が連続して現れるのだろう? 日頃の行いは決して悪くないはずなのだが。


「悪いが、俺は一人で戦うのは辛いし、寂しい。一人で全ての魔王を倒せるほどの実力もない」

「うん」

「戦うのは、俺達の役目で良い。だから、お前達は俺達を助けてくれ」


 リッチはニヤリと笑うと、やけに様になっているお辞儀を披露してくれた。


「了解しました、末裔様」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ