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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
五章 「末裔の年末は忙しい」
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七話

 さて、とうとう向き合う時が来た。


 無機質な室内には、巨大な転移魔法陣。竜庭への玄関。


 そして中央には俺。魔法陣の周りには、末裔の先輩方。俺を失礼のないように、送り出す役目である。同時に、俺がビビッて逃げないように監視役も併用である。当然のように、俺がこの世界に移動する前からそばにいた。


 とんでもなく逃げたいけれど、さすがに本当には逃げない。俺にも責任感というものはある。いくらなんでも、警戒し過ぎだ。しかし、この人達の気持ちが分かってしまうから憎めない。信用できる男の息子だからといって、もしものことがあれば大変なことになる。今から彼らは俺を送り出すのだが、気が気じゃないだろう。かと言っても、間違いなく俺の方が心労は大きいが。


「香木原君。分かっているね?」

「はい」

「ドラゴンの方々は、寛大だ。君が多少の失礼な行いをしても、許して頂けるだろう。もしも愚かな行いをしたとして、誠心誠意謝罪をすれば身体の一部程度で何とかなる」

「決して安心出来ない助言をありがとうございます」


 意外にも、俺の中には緊張がない。


 それは文月さんから貰った絆創膏の力なのかもしれないし、俺を明るく送り出してくれたチビッ子達に勇気を貰ったからなのかもしれない。ドラゴンに会いに行くと言ったら、純粋に俺を凄いと言ってくれたのだ。そんな目で見つめられて、進むまない訳がない。帰ってきたら、どれだけドラゴンが大きかったか伝えるとしよう。そして何より、文月さんに御礼を言わなければ。


「あれ、これって死亡フ─────いやいや、現実でそんなの無いっての」


 でも魔法とかあるしな~。何となく、何となくだけど、陰険な引きこもりドワーフを思い出す。


『そんなもんねぇよ中二病のクソ餓鬼ッ! はいはいお前にはきっと気持ち悪いエロハプニングがいつか起きるでしょうよ!』


 もしも本当に死んだとしたら。


『マジで死んでやんのッ! ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!』


 確実に言うな。俺の葬式で終始大爆笑してそうだ。そして命日には墓石に平気で唾を吐く。間違いない。


 絶対に生きて帰ろうと思う。


「それでは、送りますよ」


 決意を固めた俺の真剣な瞳に、若干引いている先輩が俺に語りかける。するとその一言を言い終わる頃、この部屋にある唯一の扉から、一人の男が現れる。他でもない、父だ。


「一言だけ、良いかい?」

「………少しならば」

「ありがとう。感謝するよ」


 先輩の中でもリーダーのような存在である人から了承を得ると、父さんは此方を向く。


「学んで来なさい」


 口にしたのはそれだけだった。昔から、父さんは口癖のように俺にそう話す。


 学ぶことを忘れるな。どんな状況でも、どんな時でも、必ず学べることがある。いかに小さなものであれ、いかに下らぬものであれ、一つでも多く学べ。末裔としての心構え以外で、唯一俺に伝える教訓だった。


「うん。無駄にはしないよ」


 ドラゴンに会うのは嫌だったけれど、それでも父さんの気遣いは大切にしようと思う。昔、父さんもまたこの役目を担ったことがあるらしい。そこできっと、大切な何かを学んだのだろう。だからと言って、俺もまた同じく大切なものを学べと強制しているわけでもない。恐らく父さんは、機会を与えてくれたのだ。父として。


 その気持ちは決して無駄にしない。超怖いけど、質問でも何でもして、何かを学んでみせる。


 父さんは満足そうに頷くと、末裔の先輩方に感謝をして部屋を出る。振り返って、俺を見ることはなく。俺に背中を向けたまま。


 扉が閉まったのを合図に、転移魔法陣の起動が開始した。この特殊な魔法陣は、世界から隔離された竜庭へ繋ぐ特殊な魔法陣。竜庭に住むドラゴンに許可を求め、ドラゴンの方から招き入れる形で発動する。ただ申請をするだけでも、多くの優秀な末裔達の力が必要。


「許可が、通りました」

『歓迎しよう。人間の客人よ』


 温かい光に包まれる。偉大な声が頭に響く。


 ああ、これは確かに、頂点だ。


 それほどにドラゴンは、圧倒的であった。

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