表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
五章 「末裔の年末は忙しい」
56/79

六話

 フワフワと浮いているのは、最近人気だというゆるキャラ。魔法の力によって操られたそれは、生きているかのように動いている。自画自賛だが、とても滑らかな動きである。


 こういう魔法は本当に上手く操れていると思う。観衆のチビッ子達も、一挙動一挙動に歓声を上げてくれている。


 中には自分でも出来ないかと俺の真似をする子もいるが、急にやって出来るようなものではない。そこら辺は、努力次第。意外とこの魔法は高難易度なのだ。


 まず姿形をイメージ通りに作り出すもの大変だし、ましてやそれを明確に動かすのは困難だ。現に、真似をしている子が生み出したキャラは、決してゆるくない。ゴワゴワである。


 しかしその中でも、比較的綺麗に作り出すことの出来た男の子がいる。


「末裔様! 出来ましたッ!」


 とても無邪気で愛らしい笑顔を向けてくれるのは、頭皮に悩みを抱えるエルフ、アルさんの孫。祖父には似ず、将来は間違いなくイケメンになるだろうことが予測される。しかし魔法の腕は受け継いでいるのか、それとも教えられたのか。とにかく、生み出した結果は素晴らしい。辺りの子供にも賞賛を受けていた。


「フォトは凄いなぁ! すぐに超えられそうで怖いよ。皆も、努力すれば出来るようになるからな」


 サラサラとして触り心地の良い頭を撫でると、フォトは照れくさそうにする。なんとも愛らしい。そんな表情をするなら、アルさんがあそこまでデレデレになるのも無理はない。俺もニヤけてしまいそうだ。


 表情を引き締めて、周りの子供達に声を掛ける。するとやる気になった子供達は、フォトに続けとばかりに魔力を操り始めた。折角魔法が使えるのだ。是非ともその無限の可能性と、そこに秘めているロマンを感じてほしい。


 ハッキリと言ってしまえば、こんな魔法はまるで役にも立たないし、無駄だ。


 けれども出来れば楽しい。だから俺も、攻撃魔法の修行をサボってまでこんな意味の無い魔法を磨いた。とんでもなく怒られたけれども、後悔もしているけれども、子供達が笑顔になっているのだから、それで良いような気がする。


 どうやらこの世界で、魔法の練習というものは勉強に近いものがあるようだ。

 魔法とは世界から受け取っている祝福。ならば、それに感謝するために、その技術を磨かなければいけない。


 そう教えて育つらしい。悪いことではないのだが、結果的に、アンタ勉強したのッ!? 今からしようと思ったんだよッ! 的なやり取りが交わされる。最近では少なくなってきたようだけれど、親が押し付ける形で、練習をさせることがあるらしい。それじゃあ、やる気が出ない。それに、何の面白みもない魔法を練習なんてしたくはないだろう。


 だから、こんなくだらなくても、楽しい魔法を練習するのは良い事だと思う。


 元々魔法というモノがない場所から来た俺ならば、その楽しさを伝えるのに適役だろう。もっと『俺達』は、それを教えても良いんじゃないだろうか。当然俺は部外者であり、口を挟めるような立場の存在ではないのだから、決してその意見を口には出さないけれど。


 あくまで、子供達に頼まれた時にのみ、教えるのだ。


「末裔様~? そういえば、それ何?」


 子供の一人が指を指すのは、俺の額。


「ん? 絆創膏だよ。怪我をしたら、貼るんだ」

「変なの。傷が出来たら、魔法で治せばいいのに」

「あッ! 僕治せるます!」


 やって見せると言わんばかりに、ピンと手を伸ばすのはフォト。治療魔法も行えるとは、本当に彼は優秀なのだろう。しかし、残念ながらこの傷は魔法では治せないのだ。


「向こうで付けた傷だからね」

「あ、そうなんですか」


 この世界の形は、俺達の世界に依存する形になっている。その結果俺達の世界が偉そうな顔をし始めたのか、上下関係が更に明確化した。形を借りているこの世界が下で、貸している俺達の世界が上。何が変わったと言えば、大して変わってはいないのだが、俺達の世界が妙なプライドが強くなった。


 下の干渉は受け付けぬッ!


 そんな感じで、小さな干渉も許さなくなったのだ。

 俺達の世界で起こった変化は、決してこの世界の干渉によって治すことが出来ない。


 つまりは、怪我をすれば魔法では治せない。壊した物も、直らない。


 意味が分からないのが、この世界で出来た、魔法で治せる傷をそのままにして向こうに戻ると、更新されてその傷もまた治すことが出来ないということ。


 勿論自然治癒なら治るのだが、どうも向こうの世界に普段から存在しながら、この世界にやって来ることの出来る俺達は、そこら辺の法則が曖昧らしい。それにご飯を食べれば、お腹は膨れるし、栄養は摂取出来る。元の世界に戻っても、その栄養が無くなることもないし、腹の物質が無くなることもない。意味不明。


「じゃあ、僕がそんな傷も治せるような魔法を作ります!」

「おお、頼もしい。超大変だと思うけど、作ってくれると嬉しいね」

「はい。絶対に作ります!」


 自信満々に宣言をする少年、フォト。彼は、それがドラゴンを超える偉業であると分かっているのだろうか。普通に考えれば、絶対に不可能だ。


 それでも綺麗な瞳を見ていると、もしかしたら出来るかもしれない。という気になって来るから不思議である。これが子供の持つ、無限の可能性というものなのかもしれない。いや、俺もまだまだガキだし、それなら俺にもあるのか?


「まぁ、とにかく。俺も頑張るとするよ」

「一緒に頑張りましょう!」


 にしても、この子は最近やけに懐いてくる。


 子供に好かれる男は、女性に好意的に見られるのだろうか。なら文月さんにも────。


 あ、駄目だ。子供に好かれるのは、この世界限定なのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ