三話
「ドラゴンかっけー!」
「うわっ! いいな~、レアじゃん」
クソ寒いにも関わらず、少年達は元気に騒いでいる。手には俺も昔に集めたカードゲーム。どうやら一人の少年がドラゴンが描かれたレアカードを手に入れたらしく、周りの少年達に羨まし気に見つめられている。手に入れた少年は得意げだ。学校に持っていって、先生に怒られて没収されても文句は言うなよ、少年。
そういえば、俺が集めたカード達は何処へ消えたのだろうか。俺は学校への道で、そんなどうでもいいことを必死で思い出していた。当然現実逃避である。絶対に考えてなるものか。ドラゴン? 何それ? フルーツの話ですか?
「どこだったかな~、どこだったかな~、いや本当、どこだったかな、いやマジで」
気になるわ。何が何でも思い出さないと気が済まないわ。
「おはよう不審者。爽やかな早朝から何をブツブツと呟いている」
「おはよう。俺はとある難解な謎を解き明かすことに集中しているんだ。邪魔をするな」
「怪しい雰囲気を撒き散らして周りの清々しい心を邪魔しているのはお前だから」
何のことやら。
「救太。お前は俺の境遇を知っているはずだが?」
「だから現実逃避をしようとしている友人に、前を向いてもらおうと努力している」
「いらん世話だ!」
ああ、想像してしまった。まるごとパクりと食べられる姿を。
「頼む。変わってくれ」
「絶対に嫌だ」
どうやら俺はこの友人との関係を考え直さなければならないようだ。全ての恥とプライドを捨て、土下座をした友人を見む気もしないなんて。この土が付いた額が目に入らぬか。
俺の心情を完璧に表す言葉は、絶望である。
「嫌だ〜! ただでさえ日々胃が悪くなっているのに、父さんはトドメを刺すつもりなのか!?」
胃薬を常に備蓄している俺の身にもなってくれ。一体なんの意図で俺を推薦なんてしたのか。そして周りもこれ幸いと便乗してんじゃねぇよ! まさか神那さんまでも乗ってくるとは思わなかった。しかも悪意がなく、俺ならば確かに適任だ。と本気で言っているから困る。
「良い経験になるとでも思ったんじゃないか? 実際、その通りになると思うし」
「それが本当だったら、嬉しいけど。───でも、やっぱり嫌だ」
「うん。それはそうだよな」
猛獣と触れ合うのは、良い経験になるかもしれない。しかしやろうと思うヤツはいない。そして自分の子供にやらせるヤツはいない。ましてや、それ以上。彼らには俺達では到底及ばない知性があるのだが、間違って踏まれてペシャリなんて事例も過去にあったらしいし、バカな発言をして、ドラゴンから軽いお仕置きとして、一生消えない恐ろしい呪いを掛けられたこともあったらしい。男性としては恐るべき呪いである。体が震えて仕方が無い。
「だけど、腹を括るしかないだろう」
「他人事だと思って簡単に言いやがって」
「他人事だからな。次に会うときに、お前が不能になっていないことを祈る」
「洒落になってねぇんだよぉ………」
将来の夢は、一姫二太郎の素敵な家庭を築くことです。