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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
五章 「末裔の年末は忙しい」
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一話

 寒い寒い。もう冬だ。


 制服の下には薄いセーターを着用している。そのせいか、静電気の被害に会う確率が上がっている気がする。しかし脱ぐわけにもいかない。凍える。


「いらっしゃいませ~」


 相も変わらず、学校帰りの俺はLINKへと到着した。店内は空調が効いていてとても暖かい。生き返るようである。俺は寒いのは嫌いだが、今のように暖かくなる瞬間というのは好きだ。布団に包まっているときなど、もう最高。因にコタツでダラダラするのは、もはや楽園。そこから出られないのは仕方が無いと思う。不可抗力というヤツだ。だからあんなに怒ることは無いと思うんだよね、母さんや。


 そんなことをツラツラと考えながら、流れるように個室に入り、世界を移動する。ここまではいつも通りだが、今日は少し違う。


 俺は個室にある、パソコン。を、改造した魔法具に干渉。通信を開始する。直ぐに画面に、ゲームのアバターのような小さな俺が映る。魔力によってそれを操作すると動き出し、目の前にあった扉を開くとそこへ入っていく。画面が切り替わり、大きな部屋のような場所が現れる。中央には大きな机と多くの椅子があり、部屋の内部にいた同じような小さな末裔達がその椅子に座っていた。


 これから行われるのは、日本に住む末裔、それも現役で魔王と戦っている者だけではなく、数名の統治側の者まで参加する大会議。全国各地のLINKから接続した末裔達が一堂に会するのである。例え画面越しで、更にはお互いの顔すら見えない状態での会議だとしても、緊張感はとてつもない。


『やあ。寒くなって来たね』


 語りかけてきたのは、画面に映る小さな神那さん。声はスピーカーではなく、耳に直接聞えてくる。


 目の前のこれは形だけはパソコンだが、その機能は残念ながら皆無。ならどんな意味があるのかというと、これは魔力を遠くへ飛ばすための媒介のようなもの。


 飛んだ魔力は一箇所、マザーコンピューターのような物に集まり、魔力の溜まりを作る。そこでお互いに魔力は干渉し合い、一つに融合。全ての魔力の情報を含んだその魔力の一部が、元の場所へと戻ってくる。するとその情報はこの魔法具によって演算され、今のように映像に映し出されるのだ。


 しかしあくまで映像。音声が出ないため、音声情報を取り入れるために、俺達末裔は常にこの魔法具に干渉し続けなければいけない。それはどうせ会議をするためには常に干渉して情報を送り続けなければいけないので、別に気にはならない。送る魔力の量もまたさほど多くもないし、この会議は末裔内でのもの。別にやましいことをしているわけではないが、大っぴらにするのが良いわけでもない。音漏れによって筒抜けになる可能性を考えれば、このままで構わないだろう。


 因みに映像の机やら椅子やら小さな俺達は、作ったドワーフのお茶目と趣味。


 俺は魔力に伝えたい言葉とその対象、今回は神那さんをイメージして、それを覚えさせる。そして送信。直に画面上の小さな俺が口を動かす。こんな小さな所に拘っているのは、実にドワーフらしい。


『こんにちわ。急に寒くなりましたからね。風邪は引いていませんか?』


 小さな俺はそう言ったはずで、神那さんはそれを聞いているだろう。ただ漠然と声だけの情報を届ければ、画面の部屋全体に声が響くだろうが、今回は対象もまた選択した。彼女にしか声は届いていない。個人的な会話はこのようにするのがマナーである。


『大丈夫だよ。無駄に体は丈夫だからね』


 そのまま俺達は拙い日常会話を繰り広げる。途中から救太も参加して、会話は少しだけ盛り上がりを見せた。会議に参加する人間は非常に多い。それも日本中から集まらなければならないため、どうにも始まるまでに時間が掛かるのである。


 当然魔王なんかが現れればそちらの退治を優先しなければならない。結果として現在のように待ち時間がとても長くなるので、この時間は普段会うことがあまり無い人との友好を深めるのに適切である。俺は救太とは毎日顔を会わせているが。


『諸君。そろそろ会議を始めるとしよう』


 威厳に満ちあふれる声が響く。俺達はその声を聞くと直ぐに椅子へと着席した。空席になっているのは、魔王の退治をしている者や、他の理由で欠席となっている者だろう。あまりにも遅れそうだと判断された者は会議に欠席することを許可され、後日統治側の者へ訪ね、色々な手続きの後、会議を録画した映像を見ることを強制される。


 これが凄く面倒くさい。嘗て俺も欠席したことがあったが、出来れば二度と欠席はしたくない。


 声の主はこの会議の議長。議長と言っても、ただの司会進行のような役割だが発言力は大きい。二番目に発言力が大きいであろう副議長が俺のお父様なのだから、とても落ち着かない。決してこの場では親子関係であってはならないので、上司のような存在なのだがまだ心の線引きが難しい。父さんが副議長に抜擢されたのは、最近のことなのである。にしても仕事も忙しいはずなのに、体は大丈夫なのだろうか。無視してそうで心配である。


『当然内容は、年末に行われる更新に関してだ』


 さて、もう別事を考えるのは止めよう。今は集中しなければ。

 駄目息子だと思われて喜ぶ、趣味はないからな。

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