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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
四章 「おじいちゃんの、昔話」
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十二話

「後は、フォトも知っていることじゃろう」


 語り終えたアグレルファーの表情は、フォトにとって見たこともないものであった。幼いフォトは知る由もないが、その表情は、過去の戦いにおいて常に見せていた顔。簡単に言えば、若かった頃の彼は尖っており、今の彼は丸くなった。過去を語る上で彼は、当時の心境を思い出したのだろう。


 あの頃と現在は長命なエルフにとっても長い時間。しかし彼にとって当時の記憶は鮮明で、瞳を閉じれば昨日のように思い出す。それは濃密な時間が流れていたということもあるが、全てが変わる瞬間。その時の誓いが大きい。


「救世主達はワシらを再び救い、そして徐々に現れ始めた魔王もまた、退治してくれているのじゃよ」

「そっか……」


 フォトはある種の虚無感に襲われていた。楽しかった映画が終わった瞬間に感じるものが、近いのかもしれない。彼の祖父から聞かされる話は語り口の上手さもあり、とてもドラマチックだった。戦いによる悲劇もまた教えられたものの、やはり平和に生きているフォトにとっては非現実的。アグレルファーもまたフォトがそう感じるように話していた。


 過去は過去。その唯一の価値は教訓を得られるということ。賢い孫は、例えどんな話し方をしたとしても、そこから価値を見出すことが出来る。彼はそう考えている。だからこそ、孫の記憶に残るように記憶を語った。


「『人間』って、凄いんだね」

「ああ。人間ほど、圧倒される種族はいない」


 あの時ドラゴンを見た。当然、その姿に圧倒された。しかし彼はドラゴンを見たとき、やはり。という感想もまた抱いたのだ。


 ドラゴンは頂点に君臨する生物である。幼い頃から耳に胼胝が出来るほどに、何度も教えられたこと。エルフは多くの知識を継承している。当然のように、他の種族よりもその恐ろしさが伝えられてきた。


 だからこそ。ドラゴンは想像通りであった。


 頂点は頂点、というわけだ。


 けれども人間は違う。とても不確かで、移ろいでいる。あれほどに不可思議でありながらも、単純な生物は存在しないだろう。目指す道が見えていないからこそ、見つけた後は潤滑。風よりも速く、目標へと突き進む。そんな彼らに驚かぬはずがない。


「結局末裔様は、どうして魔王と戦うのかな。僕はそれが分からない。だって、『更新』をしてもらう必要があるけど、それ以外でこの世界に来る義務なんてないはずなのに。末裔様には、末裔様の世界があるのに。そこで普通に生活しているんでしょ? なら別に、来る必要はないはずなのに。なんで? どうして?」

「そうだの。それはきっと、本当の意味でワシらが理解するのは、無理なのかもしれぬ」

「無理なの?」

「そうじゃ。ドワーフにも、ビーストにも、最も近いと言われる、ホビットにもな」

 

 なら仕方のないことなのか。尊敬する祖父にそう言われて納得はするものの、諦めきれないフォトは首を捻る。


 その様子を見たアグレルファーは、苦笑をしながら言葉を繋いだ。


「ただの。真実ではないかもしれないが、見解はあるぞ?」

「なに? 教えて!」


 誕生日のプレゼントを貰った時よりも、彼がずっと喜んでいるのは、やはりエルフだからだろうか。


「進んでいるのじゃよ。自分の目指す先へとな」

「───────────────────────────分かんない」

「ワシもよく分からんさ。友がそう言っていた。それだけが根拠じゃよ」


 消えてしまった人間の友。その姿を、その在り方を、そしてその言葉を。今でも。鮮明に思い出す。


「不思議だの~。まったくもって、人間とは不思議な種族じゃ。しかし、もっと深く知りたいとは思わん」

「え!?」


 知りたいとは思わない。それはエルフにとって、絶対に有り得ないと言われることの一つ。


「心地良いのじゃ。彼らの生きる姿はな。規則性という枠に当て嵌めるのは、どうにも無粋な気がしてのう」

「おじいちゃん、お熱でも出たの?」

「ははは。安心せい。ワシは元気じゃよフォトや。しかし老衰は、したかもしれんのぉ………」


 何故か彼は頭皮に手を添えると、小粒の涙を流す。


 その意味が分からないフォトは首を傾げた。可愛らしいその仕草に、祖父が研究の成功への決意を再認識していることには、フォトが気付くはずもなかった。


「まぁ、なんじゃ。己で見て聞いて得た情報に勝る知識はない、それは分かるな?」

「………うん。分かるよ」

「つまりは、後は自分で調べて見るといい。ここのエリアの末裔様は、なんやかんやで御人好しだからの。側にいても、邪険にすることはないじゃろう。まだまだ幼いが、芯は強い。─────────ほれ、噂をすればじゃ」



 窓の向こう側、遠い所に見える『人間』の姿。



 話しの中に出てきた王子のような輝きもなく、王のような邪悪さもない。聖女のような涼しさもなければ、騎士のような熱さもない。


 それでも何か、引き込まれる魅力がある。きっとそれは、彼が『人間』であることに帰するのだろう。


「おじいちゃん。あの人の名前、なんだっけ?」

「灯路。皆の道の、灯火であれ。確かそんな理由で、付けられた名前だったはずじゃ。少しばかり、格好を付けすぎじゃのう。あやつには、過ぎた名前じゃて」

「そうかな。太陽よりも月よりも星よりも、ずっとずっと小さいけど。あの人は確かに光だよ。夜道ではきっと、何よりも頼りになる」


 フォトは、知っていた。

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