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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
四章 「おじいちゃんの、昔話」
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四話

 朝日に照らされたエルフの集落は、とても美しかった。


 原初、生命は自然より生まれた。生命は自然の一部でしかない。ならば知性を得てもなお、このような姿であるべきではないだろうか。自然と共にあり、自然の恵みを感受する。勿論それは、自然のもつ危うい一面もまた甘受するということ。エルフはその全てを理解し、受け入れているのだろう。


 集落に家はない。木と木を結ぶ丈夫な蔓が作り出す、ハンモックのような自然のベッド。それを利用して、エルフが長い髪を垂らしながら寛いでいる。雨が降れば木々の大きな葉がそれを防いでくれるのだろうが、降水量が増えれば完全ではなくなる。魔法の力で防ぐことも可能だが、寝る時もそれを維持するのは難しい。恐らくその場合は濡れることを受け入れるのだろう。それが自然から生まれた生命にとって仕方の無いことなのだから。


「付いて来い」


 青年のエルフは集落の中を淡々と進む。周囲を見回していた王子など、自分を見逃して迷ったのならばそれまでだ。と言わんばかりにその速度は速い。王子は少し焦りながらも彼に付いていった。


 王子が興味深そうに集落を見ていたように、そこに住むエルフ達もまた王子を興味深く見ていた。いや、王子よりもその目は鋭い。視界から少しでも情報を引き出そうとしている。王子はたくさんの視線を浴びることに慣れているが、国民達が自分に向けるものとエルフの今の視線は別種であり、困惑を覚えた。


 足を進めると、朝日が一際入り込んでいる眩しい場所に辿り着いた。思わず目を閉じる。


 目を再び開くと、驚愕が王子の身体を突き抜けた。


 久しぶりに見た青空の下の広場。中央にあるのは、落ちた木の枝や蔓や糸。そして魔法によって紡がれたであろう、大きな机が置かれている。その周りには同じ製法で作られた椅子が五つ。正五角形を作るように並んでいる。


 椅子は既に四つが埋まっていた。


 王子から見て最も奥に座っているのは、老齢のエルフ。髪が既になく、髭もない。顔には多くの皺が見え、まるで枯れ木のようである。ただ此方を見つめる瞳に宿る生命の力は大きい。王子は彼を見て、不思議と巨大で雄大な大樹を連想した。


 老齢のエルフの右隣に座るのは、豊かな体毛に包まれたドワーフ。エルフが大樹ならば、彼は山だ。長い髪と長い髭によって覆われた顔は、王子から窺うことは出来ない。しかし彼の放つ雰囲気から、魁偉でありながらも温かみのある顔付きをしているのだろうと、容易に想像できた。


 左隣に座るのはビーストの女。獣のような耳が頭の上から生え、臀部からは尻尾も生えている。腰と胸に巻いているのは、獣の毛皮だろうか。他に身に着けているものはなく、日に焼けた肌が露出している。ただ厭らしさはまるでなく、自然と鍛えられている肉体は勇ましく、惚れ惚れとする。


 ドワーフの右隣に座っているのは、まるで少女のようなホビット。足の短い椅子に座っているにも関わらず、それでも足が地に着かずにブラブラと動かしている。王子に手を振っており、行動もまた幼い印象を得る。ただ間違いなく成長をしたホビットであり、王子もまた彼女から成人した女性の持つ、包み込むような母性のような温かみを感じた。


 王子が協力を求めようとしていた、全ての種族の一員がそこにいた。


「客人よ。まずは、そこに座ってくれ」


 老齢のエルフが、涼しくも重く響く声で王子を催促する。

 王子はその声に操られるように、呆然とした頭で椅子に座った。


「何故────?」


 ようやく溢れた言葉はそれだけだった。ただし、最もよく王子の心情を表した言葉であった。


 視界に案内をしてくれた若いエルフが、老齢のエルフの側へ寄る姿が入る。そして、気付いた。何故彼は、『鉄の矢』を持っていたのだろう。先程見た集落の中で、鉄で作られたものは見られなかった。森で生きるエルフは、製鉄技術を持ち合わせてはいないはず。


 答えは即ち、この場に四つの種族が揃っていることに他ならないのではないか。


「もはや『人間』だけの問題ではないということだ」

「ツケが来たんだよ。手を取り合わなかった、ツケがねぇ」

「だからこそ。私達はここにいるのです」


 王子の問いに、ドワーフ、ビースト、ホビットが答える。

 そして再び、老齢のエルフが口を開いた。


「我々は貴方に力を貸そう。貴方の罪の、犠牲となろう。────『人間』よ、我々を導いてくれ」

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