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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
四章 「おじいちゃんの、昔話」
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二話

 昔。世界が半分になる前の話。


 その世界に生きる、様々な種族はお互いに干渉をすることがない。


 『人間』もまた同じく。同族同士が集まり一つの大きな王国の中で暮らしていた。始まりは小さな村といってもいい。ただそれは日々成長を遂げて、国となり、その時の王国はかつてないほどの栄光栄華を極める。


 なれば当然、人口は拡大する。その人々が住む場所が必要になる。当然のように『人間の王国』は領土を徐々に拡大していった。それは即ち、他種族を脅かすことを意味する。


 人間は、それを理解していた。けれども彼らは、家族のために進まざるを得なかった。例え他の種族の住処を犯しても。


 そんなことを繰り返した人間の中に、いつしか『それが当たり前』という意思が生まれ出す。始まりは、ただ一人の少年の中。とても小さな、小さな疑問だった。


 『どうしていけないの?』


 何も知らなかった少年は、ただただ純粋に、父に問う。

 父は、王国の王は、その時彼を叱った。


 しかし王の頭には、その日からその問いが離れなかった。

 そして王は、自問自答を開始する。答えが出るときが、世界が半分になる始まりだった。


 少年、王子は、美男子へと成長を遂げる。剣の腕も一流であり、頭脳明晰。それでいて優しい心を持つ彼は、次代の王として、国民の大きな支持を得ていた。現状に満足しない彼は常に上を目指し、努力を惜しまない。


 その日もまた、日課である剣の訓練をしていた。基本に忠実な彼は、素振りを何度も繰り返す。


 話し声が聞こえたのはそんな時だった。


 『王が禁術を解放した』


 王子は耳を疑った。嘗てドラゴンより授けられた知恵から、人が生み出してしまった悪しき術。


 決して使用することは許さない。そう決められていたはずだった。あの父が、その法を破るはずがない。王子は信じた。聞き間違いであると判断した。


 しかしそれは、息子という立場の色眼鏡から見たにすぎない。本当は王子も理解していた。


 王が、おかしいということに。

 狂気が王国を侵食し始めていることに。

 それを信じたくなかったのだ。目を、背けたのだ。


 初めての政務である、長い長い遠征から帰ったときには、もう遅かった。

 王子が、王に、父に、問題に向き合う決意をした時には、狂気は王国を飲み込んでしまっていた。


 誰も彼もが信用できぬ。王子の言葉は耳に届かぬ。唯一彼の誠意が通じた友の騎士は、反逆罪で処刑されてしまった。あれほど自分を慕ってくれた国民もまた、自分を訝し気に見つめる。あれほど精錬な父の、王の姿は見る影も無い。心は混濁してしまっていた。息子である自分すら、邪魔な存在と認識し始めている。もう、遅いのだ。


 全ては自分が悪いのか。父を信じた自分が悪いのか。

 幼い頃、浮かび上がった疑問を問うた自分が悪いのか。

 ならば自分が罪を償えば、狂気を払うことができるのか。


 いや、もう遅い。遅過ぎる。


 この国を救うことは出来ない。贖罪すら行えない。


 無能な王子だ。結局自分は、何処かで驕っていたのだ。


 無能な自分にできることは一つ。

 更なる罪を、重ねること。


 この国を、壊すことだけだ。


 その日人間の王国に、『狂い始めた王子』が国外へと消えたという噂が広がった。

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