十八話
女神からの贈り物を手にした俺は、ご機嫌な気分のまま半世界へと移動し、ご機嫌な気分で会議を終わらせて、現在もご機嫌な気分を維持している。
「ふふ〜ん。ふふふふふ、ふん!」
鼻歌なんか、歌っちゃったりして。
時刻は十一時五十一分。俺達の世界ならば補導対象になりそうな時間である。
通常ならば、この頃にはもう床に就いている。起きていたとしても、睡魔が襲っているはずだ。
しかし今の俺にはそんな攻撃は効かない。気分が高揚しすぎているのだ。
「ご機嫌ですね〜、末裔様?」
「ははは! そうかい? そう見えるかい?」
もう何だか踊りたい気分だ。俺は空中で不細工なダンスを開始した。
いつものニヤニヤ顔を凍らせているリッチも巻き添えにしてやる。手を取って強引に踊らせる。
「か、勘弁して下さいよ末裔様〜! 僕は男と楽しく踊る趣味はない!」
「気にするな! 俺もない!」
ふははは! 楽しいな〜!
俺達のダンスに感化されたのか、ギルド組員達が音楽を奏で始める。テンポの良い軽快な曲で、それが俺の高ぶり過ぎている気持ちを更に高める。
下を見ると、俺達と同じようにぎこちないダンスを披露している者達で溢れかえっていた。ちょっとしたダンスパーティーの始まりだ。いいぞ! もっと踊れぇ!
「ははは! 最高だよ、最高!」
「僕は最低なんだけどな〜!」
空気の読めないヤツめ。でもいい。今日の俺はそんなことは気にしないッ!
曲が移り変わること、二回。気付けば時計の針は、日付が変わっていることを明確に示していた。
そして感じる暖かい感覚。魔王が現れるときとは全く違う感覚。
俺は各所にあるスピーカーに干渉した。
『さぁ、さぁ、皆さんやってきました! とうとうアレがやってきました! 皆さん空に向けて、花火の準備をお願いします!』
曲が止まる。住人達も不出来なダンスを止めて、空を見上げ、手を掲げた。
力が集まる。末裔ではない住人達にも分かるほどに、鮮明で強力で温和な力が。
それは空の一点。まるで新しい月が生まれたかのようだ。
住人達は、見惚れるように静かにそれを見つめる。先程までの騒ぎが嘘のように、音が無かった。
ポン。
そんな嘘のような軽快な音を周囲に響かせて、新しい月はエリア中に弾けとんだ。
『Happy Halloween!』
──────────瞬間、歓声が轟く。
住民達の手から放たれた魔法は、各々の形でエリアの空を彩っていく。
そして月の欠片は、『ハロウィン』の代名詞とも言える、『カボチャのランタン』となって、幻想的な光を放ちながら、エリア中に降り注いだ。
再び演奏が始まる。
踊りを再会する者。花火を空に打ち続ける者。『カボチャのランタン』から現れる、お菓子を手にして食べ続ける者。誰も彼もが、皆笑顔だ。
「本当に、最高だ」
─────俺は、行われたことの無い神那さんとの門答を、思い出していた。
『願いを叶えるなら、何を叶えますか?』
俺はそう聞いた。
『何も思いつかないな。───戦える毎日が、彼らを守れる毎日が、ここにいられる毎日が、幸せ過ぎて』
彼女はそう答えた。
「……その通り」
幸せ過ぎる。
俺は、ここにいられるのだ。いられるのだ。
「な〜に笑っているんですか〜? そろそろ手を離して下さいよ〜、持ち場に戻らなくちゃいけないんですから」
「いいじゃねぇか! 『イベント』最高! もっと踊ろうぜ!」
「はぁ、ウザイ」
この世界、最高。─────だから、守る。
そう、俺は末裔なのだから。
俺は、俺なのだから。
それが、俺がここにいられる理由なのだから。