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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
三章 「小さな少年の、小さな疑問」
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十五話

 交わした言葉は少ない。いや、何も起きてはいないのだ。言葉は無かったのだ。それでも俺の心は晴れやかになっていた。


 現在。俺達は再び戦闘の準備を行い、魔法による周囲の警戒を行っていた。


「妙だな。魔王の反応が複数ある」

「複数? それはまた珍しいタイプですね」

「姿が見えない。潜伏しているようだ。気をつけてくれ」

「了解です」


 戦う相手は、当然魔王。


 俺達が談話していた時間は長かった。しかしながら、本来ならばその程度の時間で、再び新しい魔王が現れることは殆どない。けど神那さんが担当するこのエリアは例外だ。


 『橋』と呼ばれる魔法がある。


 それはストレスの通り道。担当する末裔のいないエリアのストレスを、別のエリアへと移す魔法。安全なエリアを作る対価として、より多く、より強力な魔王が生まれ易くなる。俺のような半端者の末裔に、捌ききれるものではない。


 神那さんのような、襲名をするほどの強さがなければ。


「───ッ!」

「そこだッ!」


 手甲と脚甲。それが神那さんの救世の武器。


 彼女の背後を狙った、人形の魔王。神那さんはそれを、回し蹴りによる一撃で葬った。足が空を切る音が、人間の出せる限界を確実に超えている。絶対にあの一撃は喰らいたくない。


「どうやらかなり弱い魔王のようだ。隠れるのは得意のようだが、警戒していればどうということはない」


 何てことはなさそうに言うが、本当だろうか。

 少なくとも、索敵魔法を全開にしている俺には魔王の居場所が分からない。そういうサポート的な魔法は俺の得意分野。それで見つからない存在とは、それだけで脅威ではないか。


「左だ!」

「うへぇ!?」


 魔王が手に持っていた一本のナイフ。それが俺の首を的確に狙っていた。フードのようなもので、顔がある位置が隠れている。しかし俺には、こいつが笑ったような気がした。


 突然のことに驚いた俺は、いつも使っている爆発魔法を展開。

 爆風により魔王も俺も吹き飛ぶ結果となった。

 命は助かったけど、とても痛い。俺はバカか。


「ハァッ!」


 慌てて体勢を整えると、その間に神那さんが倒している。俺が手伝う必要はないんじゃないだろうか。寧ろ足手まといにしかなっていない。


「大丈夫か?」

「はい。めちゃめちゃ恥ずかしいですけど」

「それは良かった」

「この魔王の大本は、やっぱりアレですかね」


 俺はいつぞやに見たニュースを思い出す。長らく世間を脅かしている、一つのニュース。


「ああ、『通り魔』だろうな」


 怒りが沸き上がってきた。

 一体犯人は、どれだけの人を脅かしているんだ。

 許せない。人を傷つけることも、人を脅かすことも。


「もう一気にやっちゃいましょう」

「だが方法は?」

「いつも使っている、敵意を俺達に向ける魔法。アレを最大にして、俺を襲わせます。神那さんはそれを倒して下さい」

「───無茶をするな」

「信頼してますから」


 了解を得ずに、さっさと魔法を発動。


 その瞬間、俺の周囲に何十もの魔王が現れた。それら全てが、手にもったナイフを此方に向けて襲い掛かってくる。


 正直予想外。あと数体だと思ってたのに。超怖いんだけど。


「はぁぁぁぁああああああああ!」


 自分でやったことに速攻で後悔しつつ、助けを求めて神那さんを見ると──────────分身していた。状況が理解できない。目が飛び出るとはこのことか。


 魔力の動きを感じないから、実際は分身じゃなくてただ高速で動いているだけなんだろうけど。そう錯覚してしまうって、この人はどれだけ速い速度で動いているのだろう。


 ポーンポーンと、魔王が宙を舞う。

 何だか少し可哀想だ。ざまぁみろ。


「ふう。少し疲れたな」


 あれだけの動きをして、少しですか。そうですか。


「まったく。何と言う危険な真似をするんだ」

「すみません。でも、早く倒してしまいたかったんです」


 もう二度とやりません。


「別に、魔王を倒した所で、現実の通り魔が掴まるわけではあるまい」


 それは正論だが、気分の問題だ。


「はぁ、まぁいい。早く帰って、シャワーでも浴びるとしよう」

「今日はありがとうございました」

「何がだ? 手伝ってもらったのは私だ。礼を言うのは私の方だ。ありがとう、本当に助かったよ」


 ああ、俺はいつになったら、この人のようになれるのだろうか。

 きっとそれは、まだまだ先の話だ。

 精々、努力をするとしよう。


「そういえば、そろそろあの時期だな」

「あの時期?」

「忘れたのか? ─────────ハロウィンだ」

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