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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
三章 「小さな少年の、小さな疑問」
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十三話

 溜息を吐いた後。今は何故か、愚痴合戦に発展してしまっている。


 LINKにて、魔法で会話が他者に漏れないように徹底してだ。俺はともかく、神那さんも結構溜まっているらしい。意外だ。


 俺は先程のことを思い出す。このエリアを担当している、ピピさんではない別のギルド組員がやって来たとき。その女性の組員は、ピピさんに説教を始めたのだ。







「見ていましたよ。何ですかあの不甲斐無い姿は!」

「も、申し訳ございません」

「私に謝るのではありません。末裔様方に謝罪をするのです!」


 ピピさんも相当真面目な方であったが、あの彼女はそれ以上。どうやら神那さんにとっても、悩みの種の一つであるとか。悪人ではないのが、より厄介だということだろうか。それに自分を慕ってくれるのに、嫌いになれるわけがない。


「まぁまぁ、ピピは役に立ってくれましたよ?」

「……灯路様でございますね? 始めまして、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」


 頭が足に付いている。凄く体が柔らかい。


「灯路様がそう仰って下さるのはありがたいのですが、この子が灯路様のお邪魔をしたのは事実でございます。私の汚れた瞳と、薄汚い頭でも分かるのでございます」


 その言葉を聴いて、言葉に詰まってしまった自分が恨めしい。ピピに申し訳ない。


 けどピピがいなければ、あの変態魔王が強化されることはなかったわけで。容易に倒せたのは事実。勿論後悔なんてしてないし、攻撃魔法が本気で撃てて気持ち良かったから寧ろ満足しているわけだけど。

 たとえそれを伝えたとしても、この方は聞いてくれそうにない。 


「ピピ。末裔様がこう仰って下さっておられます。しかし、反省すべきことはそのままにしてはいけません。分かりますね」

「はい」

「では何処を反省するのか、それをこれからどう生かすのか。その旨を纏めて提出しなさい。期限は明日です」

「かしこまりました」


 だが彼女は、俺の顔を立ててくれたみたいだ。やっぱり中身はいい人なのだろう。彼女は再び足に頭が付くお辞儀をしてから、背筋を伸ばしてキビキビと歩いていった。


「灯路様。神那さま。本日はご迷惑をお掛けしました」

「気にするな。それに、私には何の迷惑も掛かってはいない。怒りはしないさ」

「俺も気にしてないよ。凄く楽しかったし。寧ろ、ピピには迷惑を掛けちゃったかな。主に心労を」


 ピピは暗くなっていた顔を、少しだけ明るくする。


「ありがとうございます。でも事実は事実です。これからは、今日のような失態を犯さないように日々精進してまいります!」


 頭が足に付くお辞儀をするとピピはキビキビと歩き出す。もしかしたら、先程の彼女を尊敬しているのかもしれない。何気ない仕草が一緒だ。

 そのまま帰ってしまうのかと思ったが、ピピは数歩だけ歩いた所で振り返る。


「妹に、謝らなければいけません」

「へ?」

「怒ってしまったのです。まるで友達の話をするように、灯路様の話をするのを」


 口角が上がったのが、自分でも分かった。


「そっか」

「ええ」


 ピピさんも、釣られたように微笑む。


「でも今は分かります。妹の気持ちが。…………だって灯路様は、とっても可笑しいですから」

「おいおい! それは酷いんじゃないか?」

「申し訳ございません」


 また深いお辞儀。そしてピピさんは、先程よりも深い笑みを見せてくれた。


 歩を再会して、彼女は去っていく。少しだけ惜しい気持ちになったが、またいつか、会う機会もあるだろう。それまでの、小さな別れだ。


「私の前では、あんな笑顔は見せたことがないのだがな───────────」


 そして、神那さんのスイッチが入った。






 ドリンクバーで注いできた、何杯目か分からない炭酸飲料を飲む。ゲップが凄い出そうになる。神那さんの前でそれは避けたい。なら何故飲んだ、俺。けど美味しいんだよな、炭酸飲料。次もやっぱり、それに手が伸びそうだ。


「はぁ。すまなかったな、灯路君。聞き苦しい愚痴など聞かせて」

「いいですよ、気にしないで下さい」


 寧ろ、尊敬していた神那さんの弱い一面が見れて、こっちとしては嬉しい。やっぱり上る先が輝きすぎていると、手を伸ばし難いものだ。


 こんなことを考えるのは、いけないだろうか。けど嬉しい。


 暗いものが絡み付いている俺としては、眩し過ぎて、先を見ることも儘ならなかったのだから。うん。やはり俺は性格が悪い。


「本来であれば、君に早く担当のエリアに帰るように言うべきなのだろうが、引き止めてしまった本人が私では意味がないだろう。そこで、御礼と言ってはなんだが、君がよければ君の愚痴を聞こうじゃないか。というか聞かせてほしい。私だけ秘密を喋ってしまったようで、何だか悔しいのだ」

「あ〜。神那さんも何だかはっちゃけて来ましたね」


 普段の姿からは想像できない言葉だ。このエリアのギルド組員が聞いたら、どれだけ驚くのだろうか。ちょっと見てみたくなった。聞かせないけど。


「うむ。君に愚痴を聞いてもらったら、気が抜けたのだ。勿論、良い意味だぞ? しかし、責任はしっかりと取ってほしい」


 美女に責任を取ってと言われるほど、ドキドキするものは無いと思う。

 俺は文月さん一筋だけど。


「まぁ、魔王が現れたとしても余裕で間に合いますし、大丈夫ですよ」


 信号も車の渋滞も、この世界では関係ない。何せ空を飛べる。転移も出来る。多少の時間はそれでも掛かるものの、警戒網に引っかかってから魔王が実際に現れるまでの時間があれば、自分の担当するエリアに行くことは余裕だ。


「では聞かせてくれ。因みに恋愛相談は、大好物だぞ?」


 乙女だ。

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