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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
三章 「小さな少年の、小さな疑問」
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十話

「じゃあ、しっかり掴まって下さい。あ、ちょっと言い方が思い付かないんですけど、えーと。乗っていると結構股が痛いので、そこらへんは自分で何とかして下さい」

「ま、股ですか。了解しました」


 何となくセクハラをしている気分になる。


「では、結界を解くぞ。頑張ってくれ」

「はい」


 俺とギルド組員の女性は、現在杖に二人乗りをしている。よく映画なんかで箒に乗って、空を飛ぶような映像があるが、それを再現する形だ。因みにこの乗り方は非常に肉体的な疲労が溜まる上、股が凄く痛くなるため俺は好まない。しかし二人乗りをするならば、この乗り方しかないのだ。


 ガラスが割れるように、魔王を閉じ込めていた結界が割れる。

 飛行魔法を展開。直進。


「ひゅわ!?」


 後ろから悲鳴が聞こえた。

 ビーストの彼女のようだ。って待った。驚いたからって力を入れ過ぎないで。シャレになってないから。折れる折れる。


「ゴヒョヒョヒョ!」


 近づいた俺。というか後ろに乗っている女性に気が付いた『女の敵』は、聞いていて嫌悪感しか抱かない奇声を上げる。興奮しているらしい。


「ゴヒョォォォォォォオオオオオ!」


 電車の形をしていた『女の敵』は、車窓らしき場所から、男性的なゴツい無数の手を伸ばす。一つの窓から何十もの手が伸びている。そして窓の数もまた何十もある。手の数を合計するなら、間違いなく数百もの数になるはずだ。


「ヒッ!」


 再び悲鳴。今度は別種の悲鳴。やはり彼女は無理をしていたらしい。


「大丈夫ですか?」

「も、問題ありません!」

「無理しなくてもいいですって」


 あの手は、魔王の一部ではない。全て魔物であり、それぞれに僅かな知性が存在する。


 その知性の目的は、女性への痴漢行為という最低でゲスな思考である。もしあの手に女性が捕らえられれば、トラウマどころの騒ぎではない。精神の崩壊だって招く結果になる。そのことは彼女だって散々聞かされたはずだ。怖がるのも無理は無い。


「戦わなければならないのです! 本当は、故郷は自分で守らなければ、ならないのですから!」


 手、震えてるっての。


「──────────ほんと、凄いなぁ」

「え?」


 この世界が半分になったのも、魔王が現れるのも、結局は『俺達』の罪。

 戦うのは、当然の義務。

 いや、義務ですらない。これは贖罪なのだから。


 それなのに、彼女達は、戦うという。


「名前、なんですか?」


 魔王が接近してくる。同時に魔物が手を伸ばす。


 回避。回避。避けきれない手は、弱点である切断系の魔王を放つことで排除する。慣れない魔法だが、手加減が出来る範囲で発動したので、周囲の環境への影響は僅か。ただ問題があるとすれば、発動した手が細かい切り傷だらけになっていくことか。痛い。


「はい!? い、いま何と?」


 後ろに乗っている彼女もまた、迫り来る無数の手に怯えながらも、その手を手刀て切り裂いていた。よく見ると衝撃波的なものが出ている。さすがはビースト。パワフルである。


「名前。教えて下さい」

「ピピです。ピピ・アートです!」

「あれ? お姉さんか妹さんいる?」

「はい。妹がお世話になっていますぅぅぅぅううううう!?」

「やべっ」


 魔王が蛇のように体をくねらせて、正面に回り込んでいた。このままぶつかれば、ピピさんと心中である。

 両腕に魔力を集中。強化、硬化、付与。

 再び集中。結界の壁を形成。結界の属性は、反発。


「どすごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお、い!」

「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!」

「ひやぁぁぁぁぁああああああああ!」


 両手に形成した結界と、魔王が正面衝突。やってくる衝撃を、結界によって反発。そのまま魔王へと返していく。しかし途中で崩壊。瞬時に新たな結界を形成。今度はただの壁と同じ。最初の結界によって防ぎきれなかった力が壁と相殺。そして更に魔法を放つ。


「うらぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」


 何と言うことはない。俺が、魔王を押す力を何倍にも跳ね上げただけ。ただ魔王が俺へと向けた力は全て結界で相殺していた。つまりは力への抵抗がゼロの状態。かといって、今起こっているように、電車のような形と質量を持つ魔王を押し飛ばせるか。と言われれば信じられないかもしれないが、魔法の力は偉大であるというわけだ。


 ただ代償として腕の筋肉と骨が、魔力に耐えきれずに壊れてしまった。

 治癒魔法で回復をはかる。魔王は現状が理解できていない様子。

 無事に回復に成功。


「末裔様! お言葉ですが戦闘に集中してください!」

「うん。ごめんなさい。というか、自己紹介も終えたところだし、ヒロって読んでくれればいいですよ? 敬語もいらないです」

「話を反らさないで下さい! そ、それに、末裔様を呼び捨てになど出来ません。寧ろ、末裔様こそ私をピピと呼び捨てて下さい。敬語も勿論不要です」

「あ〜。じゃあ、ピピ。君達はそっくりの姉妹だね」

「はい?」


 俺が担当するエリアのLINKで働いている、兎族のビーストであるクク・アート。どうやら彼女はピピの妹のようだが。なるほど納得。今のやり取りが、俺がククを呼び捨てにした経緯とまったく同じである。顔もよく見れば非常に似ているじゃないか。


 この世界の住人は他の種族と夫婦にはならない。ビーストも同じ。種族間で子供を作る。


 ならビーストは、肉食系と草食系。またリッチの狐族やら、ピピの猫族やら、ククの兎族やらの様々な分類のようなものがあるが、それが夫婦になる。もしくは子供を作るということに関係があるかと言えば、まったくない。


 それはビースト達によって些細なことであり、俺達の世界においての髪の色や肌の色。もっと砕けて言うと、血液型の違いのようなものだ。


 猫族と兎族が結婚して子を生んだとして、子は猫族になることもあれば兎族になることもある。また先祖に他の遺伝子が混ざっていれば犬族や狐族にだって、なる可能性は十分にあるのだ。そもそも猫族にはライオンやら虎やら様々な種類がある。ビーストは十人十色なのだ。


 しかし、昔からよく言われているように。家族は似るものだろう。後ろの彼女とククを比較すると、それがよく分かる。


「ま、末裔様! アイツが起き上がりました!」


 しみじみと考え事をしていた俺の肩を、ピピはバシバシと叩いてくる。痛い。

 どうやら少し遠慮がなくなったようである。


「んじゃ、第二ラウンドということで」

「ゴゴゴゴゴゴゴゴ!」

「お願いですから、他ごとを考えるのだけは止めて下さいね」

「あはは……了解」


 なんで初対面の子に怒られてるんだろう、俺。


 ま、俺らしいといえば俺らしいけれど。

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