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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
三章 「小さな少年の、小さな疑問」
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八話

 有名になる人というのは、必ずいる。テレビや雑誌などで人気を得る人。という意味ではなく。自分は全くそんな気はなく普通に生活しているつもりでも、自然の周りにいる人々の口によって、有名になっていく人間のことだ。


「激かわぁぁぁぁぁあああああああ」


 誰にも聞こえないように叫ぶという芸当をやっている、俺のことでは決してない。


 好きな娘にメロメロになっている、俺のことでは決してない。

 好きな娘の可愛さに悶え苦しんでいる、変態のことでは間違いなくない。

 

 ピリリリリ。

 

 有名な人。そしてカリスマを持っている人。


 驚くべきことに、俺に電話を掛けて来たのはそんな人物。同じ末裔だ。という繋がりが無ければ決して知り合うことはなかった人。加藤神那。『武道家』を襲名した、強く凛々しい女性である。

 

「もしもし? どうしたんですか?」

『ああ、灯路君。君に救援要請を出したい』

 

 末裔というからには、祖がある。祖とは即ち始まりであり、俺達が俺達である原点だ。


 原点は『救世主』と呼ばれていた。そして原点は一つではなく、多く存在していた。


 彼らは他の原点の名を知らなかった。知る必要もなかった。


 だから彼らは渾名で呼び合った。救世の武器という仰々しい名前の力の結晶と、それを携えた彼らの姿を現した渾名。


 彼らが子を作り、子が子を作った後。彼らの力を受け継いだ末裔達の中で、その渾名はより彼らの意思と力を受け継いだ者の証となった。誰かが決めることではない。名誉でも栄光でもない。ただ自然と、その名は受け継がれていった。勿論、何年も襲名する者がいない名もあった。

 

 しかしその中。


 電話の先にいる彼女は一年前。十七歳という若さで、それに相応しいと認められのだ。


 その気高い精神も。精錬された力も。


 そんな彼女からの、救援要請?

 俺と同じく半人前の、救太からの救援要請とはまるで意味が違う。


 彼女から、その言葉が漏れる。

 それは即ち──────────────最強クラスの魔王が現れたということ。


 頭が冷えた。あの夢のようだったひと時が、遥か昔の出来事だったかのように思えた。幻想だったかのように感じた。体に力が入り、冷や汗が額から流れる。


 俺は半人前だ。攻撃魔法を、正しく制御することもできない半端者。そんな俺が、彼女が助けを求めるほどの魔王に勝てるのか?


 不安だった。自信がなかった。だからつい、聞いてしまった。


「僕が、力になれるのですか?」


 喉から出た声は、とても情けない声だった。あまりにも頼りない。きっとこれでは、彼女も幻滅したことだろう。


 涙が出そうだった。こんな自分に。


『ああ─────君なら、出来る』


 けれども彼女は、そう声を返してくれた。


 鼓動が激しくなる。先程とは違う種類の、高揚があった。

 俺は彼女を尊敬している。人としても、末裔としても。


 認められた。そんな人から。


『ヤツが現れた』

「………ヤツ?」


 『女の敵だ』


 ───────────────────ああ、そっち……。


 事件型、痴漢電車。通称女の敵。


 女性を相手にするときだけ、戦闘力がとんでもなく上がるクズ魔王。


 男の俺なら、確かに倒せる。

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