八話
有名になる人というのは、必ずいる。テレビや雑誌などで人気を得る人。という意味ではなく。自分は全くそんな気はなく普通に生活しているつもりでも、自然の周りにいる人々の口によって、有名になっていく人間のことだ。
「激かわぁぁぁぁぁあああああああ」
誰にも聞こえないように叫ぶという芸当をやっている、俺のことでは決してない。
好きな娘にメロメロになっている、俺のことでは決してない。
好きな娘の可愛さに悶え苦しんでいる、変態のことでは間違いなくない。
ピリリリリ。
有名な人。そしてカリスマを持っている人。
驚くべきことに、俺に電話を掛けて来たのはそんな人物。同じ末裔だ。という繋がりが無ければ決して知り合うことはなかった人。加藤神那。『武道家』を襲名した、強く凛々しい女性である。
「もしもし? どうしたんですか?」
『ああ、灯路君。君に救援要請を出したい』
末裔というからには、祖がある。祖とは即ち始まりであり、俺達が俺達である原点だ。
原点は『救世主』と呼ばれていた。そして原点は一つではなく、多く存在していた。
彼らは他の原点の名を知らなかった。知る必要もなかった。
だから彼らは渾名で呼び合った。救世の武器という仰々しい名前の力の結晶と、それを携えた彼らの姿を現した渾名。
彼らが子を作り、子が子を作った後。彼らの力を受け継いだ末裔達の中で、その渾名はより彼らの意思と力を受け継いだ者の証となった。誰かが決めることではない。名誉でも栄光でもない。ただ自然と、その名は受け継がれていった。勿論、何年も襲名する者がいない名もあった。
しかしその中。
電話の先にいる彼女は一年前。十七歳という若さで、それに相応しいと認められのだ。
その気高い精神も。精錬された力も。
そんな彼女からの、救援要請?
俺と同じく半人前の、救太からの救援要請とはまるで意味が違う。
彼女から、その言葉が漏れる。
それは即ち──────────────最強クラスの魔王が現れたということ。
頭が冷えた。あの夢のようだったひと時が、遥か昔の出来事だったかのように思えた。幻想だったかのように感じた。体に力が入り、冷や汗が額から流れる。
俺は半人前だ。攻撃魔法を、正しく制御することもできない半端者。そんな俺が、彼女が助けを求めるほどの魔王に勝てるのか?
不安だった。自信がなかった。だからつい、聞いてしまった。
「僕が、力になれるのですか?」
喉から出た声は、とても情けない声だった。あまりにも頼りない。きっとこれでは、彼女も幻滅したことだろう。
涙が出そうだった。こんな自分に。
『ああ─────君なら、出来る』
けれども彼女は、そう声を返してくれた。
鼓動が激しくなる。先程とは違う種類の、高揚があった。
俺は彼女を尊敬している。人としても、末裔としても。
認められた。そんな人から。
『ヤツが現れた』
「………ヤツ?」
『女の敵だ』
───────────────────ああ、そっち……。
事件型、痴漢電車。通称女の敵。
女性を相手にするときだけ、戦闘力がとんでもなく上がるクズ魔王。
男の俺なら、確かに倒せる。