五話
夕日が差し込んで来た学校。俺は竹箒で、落ち葉を集めていた。この時期は集めても集めても上から葉が降ってくる。だからといって手を休める気にはならない。最近俺はこうして掃除をしていると非常に心が落ち着くことに気が付いたのだ。
集めた落ち葉を袋に詰め込む。落ち葉はその殆どが、桜の木から生まれたものだ。他の学校のことは大して知らないが、学校というものは桜の木が異常に多い気がする。何故だろう。
別に俺は桜の木が嫌いというわけではない。春の花は愛らしいし、夏の若葉は鮮やかで見ていると元気を貰える。この時期の葉も、果敢な気でありながら生命の息吹を感じる。冬の何も無い木は一見とても寂しいが、どうやら春に見れる花のピンクはこの頃から木の中で作られていると聞いたことがある。何とも感慨深い。
一言で俺の桜に関する気持ちを表すなら、好きだ。
だがしかし、こうも狂ったかのように植え付けなくても良いだろう。学校、入学といえば桜。みたいな意味の分からないイメージがあるのは分かるが、それなら一本だけでも悪くない気がする。
確かに満開の桜が、学校中に咲き誇るのは圧巻と言って良いほど、美しい。けれどもその光景よりも、他の木々が光を求めようと必死に緑へと変わった中、一本だけ、そっと桃色の花が咲いている。そんな光景の方が、学校という場には似合う気がする。
生徒達は、きっと春になると、その木の元へ集まるのだ。
「うん。いい」
想像の中で教師になっていた自分は、窓からその木に集まりる生徒達を見つめていた。
いや、待て。俺は見つめられる側だろう。
大変だ。俺はもしかしたら、精神的に老けているのかもしれない。
「うーん。いや、しかし大人びていると考えれば───」
「──────なに、してるの?」
「おぉう!」
突然声を掛けられて、その人は自分の好きな人だった。
そんな状況で驚かない人がいたら教えてほしい。
「ふ、文月さん!? あ、えっと、こ、こんにちわ?」
「……こんにちわ」
背筋を真っ直ぐに伸ばして立つ、好きな人。かわいい。
こうして改めて見ると、女性としては身長が高めだということが分かる。スタイルもいい。しかし細すぎないか? 少し心配だ。主に無理なダイエットをしていないか。
ああ、それにしても美人だ。
「なに、してるの?」
見蕩れていたのを、質問が聞こえなかったと判断したのか、文月さんはもう一度俺に問いを投げかけてくれた。
その言葉で我に返った俺は、慌てて答える。
「えっと、その、えっと、何って、その、掃除? あ、落ち葉拾い? うん、そんな感じ、です」
「そう。いつも、してるよね」
「ええ!? し、知っているで、ご、ござりますか!?」
「─────うん。有名」
ああ、うるさいぞ俺の心臓! 彼女の綺麗な声がよく聞こえない! あ、彼女って。そういう意味じゃないんですよ? って、俺は何を考えているんだ。
駄目だ。思考が正常に回らない。口も正常に動かない。
「偉い、よね」
女神の微笑み。
俺は、学校生活を掃除に捧げることを誓った。