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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
三章 「小さな少年の、小さな疑問」
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一話

 半世界にも学校は存在する。現代的な社会を形成している限りある程度の知識はとても重要だからだ。昔は知識は親から子へ継承していくものだったが、やはり学校という場でより知識の深い者から教えてもらった方が非常に効率的である。


 よって、義務というものは存在しないものの住人の子供達は学校へ通い、学問を学んでいるのだ。教師は知識欲が大きく、聡明な者なエルフがなることが多い。他には草食系のビーストも教鞭を取っているし、保健医はホビット。体育の先生は肉食系のビーストが主に担当している。また女性のドワーフは家庭科の授業を教えていることが多いし、男性のドワーフは化学や物理などの教科の、より専門的且つ実践的な知識を教えることが多い。


 俺はそんなこの世界の学校を、久しぶりに訪れていた。


「えっと、何か分からないんですけど今日は臨時講師に来ました。香木原灯路です。よろしくお願いします?」


 困惑を隠せない自己紹介をすると、俺の方を真剣に見つめる生徒達から盛大な拍手が送られた。とても照れくさい。なんだこの状況は。


 顔を赤らめていると隣にいた、アグレルファー・ゴルディアーノという頭皮の寂しい老齢のエルフが話を繋いだ。


「うむ。皆知っての通り、このエリアを守って下さる末裔様じゃ。攻撃魔法は少々難はあるものの、魔法の腕はピカイチ。今日はその技術を、一つご教授して頂くことになった。決してこの時間を無駄にせず、必ず何かを学び取るように!」


 生徒達はとても元気よく、はいっ! と返事をする。うん。何も学ぶことなんてないと思いますが? というか貴方方は俺よりも年上でしょうに……。


 彼らは俺の世界でいう大学生に相当する。この世界は飛び級みたいなことはいくらでも出来るが、普通はしない。つまりは全員年上。かつ俺より頭が良い。東大的な立ち位置の大学生達。一体俺に何を教えろと? 恥でもかけと言っているのか?


「──────アルさん? 俺は貴男に育毛剤を渡しに来ただけなんですが、どうしてこうなったんでしょうか」

「し、仕方がないじゃろうに。生徒からの強い要望じゃて」

「だからって何を教えば良いのか皆目検討が付かねぇんだけど!」

「抵当でいいわい。彼奴らなら、末裔様のありがたいご教授ならなんでもありがたく感じるじゃろう。後はかってに学んだ気分になるわい」

「……アンタ、最低だな」

「知らん。ワシの教えに満足しない彼奴らが悪いんじゃわい!」

「拗ねてんの!? そして八つ当たり!? いい迷惑んですけど!」


 とりあえず元凶に詰め寄ってみるものの、解決策は出ない。


「あ、あの末裔様? どうなされたんですか?」

「……いや? 何でも?」


 咳払いをして教室内に流れ始めていた空気を一新すると、俺は生徒達を真剣な目で見つめた。

 しかし何を話せばいいのかまるで分からない。

 ああもう。ヤケだ。


「まず、基礎だ! 基礎が大事なんだ!」

「なるほど。僕達は気づかない内に、基礎を疎かにしていたんですね!?」


 ──────何か乗って来た。


「そ、そうだ! そこで俺は、あえて皆が理解しているであろう、魔法の基礎を始めから教えたいと思う! 異論は、許さないぞぉ!」


 何故か沸き起こる歓声。それでいいのか、エリート諸君。


「じゃあ、始めっから!」


 『魔法とは』と、ホワイトボードに記入する。


 まず魔法という言葉を説明するならば、世界に接続し、マナを一時的に肉体に留めてそれを操る技術。それでいい。つまりはそもそも魔法というのは、起きた現象のことではなく、起こすための技術だということだ。だから魔法が上手い。というのは多種多様な現象を起こせるという意味ではなく、どれだけ体内に留めたマナ。別称魔力を巧みに操作できる。という意味になる。


 そもそもマナというのは、何にも属さない上位エネルギー。


 ちょっと切っ掛けを与えてやるだけで、何にでもなる尻軽なヤツだ。俺達はそんなマナを体の中にそっと包み込んでやり、その切っ掛けを与えてやればいい。ただし、マナはとんでもない我が侭なので注意が必要。放っておけばすぐに家出はするし、切っ掛けを与えてもそれに逆らうこともある。


 知っての通りマナの可能性は二種類。下位エネルギーである、熱や光や電気もしくは力学的なエネルギーへと変わる道。そしてマナをマナのままに、上位エネルギーとしてありのままの力を発揮させる道。


 後者は転移魔法陣や方舟などが代表的な例だが、これは当然ドラゴンの魔法。俺達はそれを教えを請う形で何とか使用できているに過ぎないのだから、今日はこれは考えずに、前者の可能性について考える。


 さて、マナを下位エネルギーへと変換させる切っ掛けだが。これが何とも感覚的で説明するのは難しい。そもそも皆魔法は使えるのだから説明をする必要もないと思うのだが、あえて説明をすると、意思だろうか。


「意思、ですか?」

「そう。つまりは、こんなことがしたい。という、感情や思いかな? あ、それとここらへんは俺の独自解釈みたいなものも入っているから、間違っているものもあると思う。そこらへんの情報の選択はしっかりしてくれ」

「分かりました!」


 先程も言ったが、マナというのは尻軽。言葉を選ぶと、感受性が高い。


 俺達の世界にはよくいるんだが、周りの意見に左右され易い性格なんだ。

 集団の意見が、あたかも自分の意見であるかのように、誤解してしまうんだな。マナはそういう性格が強い。


 そして体内にマナを取り入れると、マナは入った者の意思に更に影響され易くなるんだ。例えば俺が火がほしいと思うと、マナは火にならなければいけない気分になる。勿論それで火になってしまうことはない。ただそんな気分になっただけ。ああ、今日は散歩に行きたい気分だ。と思うのと、実際に散歩に出かけるのは、別問題。ということだ。


 変わるほどの切っ掛けを作るには、こちらも強い意思を示さなければならない。


 渇望するんだ。どうしてもほしい。喉から手が出るほどに、欲しくて欲しくてたまらない。そんな意思を示すんだ。


 反抗的な、良く言うと自主性が高いマナもいる。しかしそれほど、強い意志を示せば、仕方がないな。とその重い腰を上げてくれる。そう、ツンデレだ。


 覚えておこう。基本的にマナはチョロい。強引なヤツに騙されるタイプ。


「はい、復唱」

「マナはチョロい。強引なヤツに騙されるタイプ」

「よく出来ましたね。ここ、テストに出るから」

「────お主、遊び始めておるな?」


 そしたら後は、道を作るだけだ。


 道を通して、魔力を体外へ吐き出す。その途中で、具体的な形を忘れてはならない。つまりは先程言ったように行動させなければ意味がないということ。どのように散歩をするのか、丁寧に教えてやることが重要だ。とはいえ、そこまで重要視する必要もない。


 マナは世界の一部。世界は何でも知っている。俺達なんか想像が付かないほどに。


 だから火に変わる方法なんて何通りも知っている。ただ、知り過ぎてどの方法を選べばいいのか分からない。火と一概にいっても、温度やら規模やら色々とあり、同じ火は存在しない。


 俺達は分子の振動がどうたらとか、酸素の燃焼がどうたらとか、そういうことを教える必要性はない。こちらも同じく、意思。言い換えればイメージ。どんな火にするか。そんなイメージをマナに教えてやれば、後は思い通りの姿へと変わってくれる。


 マナは健気。相手の理想像になろうとするタイプ。


「はい、復唱」

「マナは健気。相手の理想像になろうとするタイプ」


 注意しなければならないのは、そんな健気な尻軽のマナでも自然界に逆らうのは非常に難しいということ。例えば魔法陣を使わず発動する結界なんかは、ドラゴンの魔法を擬似的に再現しているだけで、色々と反則を犯しているため維持が困難。


 まぁ、一方向の力を維持し続けるなど大変なのは目に見えているし、酸素の無い場所で火を維持するのもそりゃあ、難しい。何せ不可能なことを可能にするのだから。


「逆に言ってしまえば、魔法は不可能を可能にすることもできる」


 だから魔法に依存してはいけない。特に俺達のような、人間は。

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