十一話
「ざけんなぁ! お前は手加減というものを覚えろ!」
「いやぁ。結界張ってたし、大丈夫かなと。そして俺に手加減を求めるな」
「──────ああ、そうだ。こういうヤツだった……」
どうした? 何故頭を抱えているんだ? 悩みなら相談に乗るぜ、親友。
「この話は後にする。今はアイツを倒さないと」
救太が目を向けるのは、俺の魔法で混乱している魔物達と、それを食す、魔王。
『食べ過ぎ』は脂肪のようなブヨブヨの物質で出来た、球体のような形状をしている魔王である。その球体は全てが口であり、触れたものを全て補食し、自らの強化の糧とする。
そう、この魔王は特殊な成長する魔王なのである。不思議なことにそれは自分の分身であるはずの魔物を食べたときがそれが顕著に現れる。この例はもしかしたら、今までの通説を打ち消す要因となるやもしれない。だが、そんなことは大勢いる俺よりも頭の良い人間に任せるとしよう。今は、ヤツをどのように倒すのかが重要だ。
「これが『大漁』だったり、『大豊作』だったら良かったのに…………」
「無いことを言って仕様がないだろう。俺達の前にいるのは、食べ過ぎる魔王だよ」
「まぁ、な」
苦笑をして、そっと目を閉じた。
切り替えだ。
「どう攻める?」
「いつもと同じで」
「却下。今回は魔物の数が多い。お前でも捌ききれなかっただろう?」
「ならどうする?」
「俺が捕まえる。お前が、檻ごと斬れ」
「無茶言うね〜」
「異論は?」
「ない」
作戦決定。行動開始。
飛行魔法を展開。杖に乗り、突撃。
「キルルルル!」
視界を取り戻した魔物が俺に襲いかかる。だが、前進。
両手に魔力を集中。熱、運動エネルギーに変換。前方を掻き分けるように、爆発魔法を発動。後方に流れる爆風が、障害であった魔物を押し流し、更に俺の推進力となる。
更に加速。
爆発によって火傷だらけの手で、次に結界魔法を展開。対物質用の、自慢じゃないがダイヤモンドより堅い俺特性のこの結界。
簡単な質問を一つ。頑丈な壁に思いっきりぶつかったら、どうなる? ─────勿論、無事じゃあ済まない。今俺がやろうとしていることも、同じこと。
ただし先端は平面ではなく、鋭角。俺は決して壊れぬ結界の槍となって、突き進む。
この魔法なら、手加減はいらない。ただ全力で硬く。それだけで良い。
魔物が俺にぶち当たる。グロテスクに体をバラバラに吹き飛ばしながら、魔物達は消滅していく。
結果から見れば非常に効果的な、最近編み出したこの戦闘方法。
問題点は一つ。
直進は良いのだが、進行方向を曲げる際。とんでもないGが掛かる。
「ふんがぁぁぁぁぁぁああああああ!」
体中の骨が軋む音を聞きながら、方向転換。魔王へ、突撃。
何もなかった表面が突然裂け、口が開く。
問題ない。
「どおぉぉぉぉおおおおおっせいやぁぁぁぁぁあああ!」
自分の中に生まれようとしていた感情を、意味の分からない咆哮でかき消す。口内へ突入。魔王は口を閉じて俺を食べようとするも、それよりも俺がその肉体を貫く方が、速い。
「ギャァァァァアアアアアアアアアア!」
魔王は女性のような甲高い声で悲鳴を上げる。これは元々が女性の持つストレスだということに由来するのかもしれない。
俺は魔法を解除して、近くの住宅の屋根に降りる。その瞬間に高速で治癒魔法を発動。体中の痛みという痛みが嘘のように消えてゆく。魔物が接近。解除。飛行魔法を再展開。今度は操作の出来る範囲にし、魔物は避けてゆく。
「やっぱり、その程度の傷はすぐ回復しちゃいますよね〜」
魔王は既に元通りであった。しかしまぁ、俺も無意味にあんな怖い思いをしたわけではない。仕込みは完了した。
怒りを覚えたのか、魔王は俺に狂ったかのように突撃をしてくる。動作は単調。読むのは用意。しかし、先程までの動きよりも速い。避けるのは難しい。避けたとしても、その隙に魔物に体の肉を食われてしまう。生きたまま食われるのは、とても気持ち悪い。
「ッ! 耳を食うなよ、聞こえ辛くなるだろうがッ!」
もう嫌だ。
嫌なので、俺の周囲全域に爆発魔法を展開。全身大火傷を代償に、魔王達の動きを止める。
魔力を集中。放出。同時に先程魔王の中へ突入した際に、体内に埋め込んだ魔力球へ干渉。知能の無い食欲と怒りしかない『食べ過ぎ』は、それでも気がついていない。バカだから。
魔法、発動。
魔王を取り巻く魔力は、ヤツを閉じ込める檻。ヤツの体内で暴れる魔力は、ヤツを縛る鎖。それもヤツの取り柄である再生力を停止させる、特性の鎖だ。
「やれッ! 救太ァ!」
「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!」
莫大な魔力を感知。それは今まで救太が全快まで溜めた、マナ。
二本の大剣が輝く。多過ぎる魔力が一カ所に集中したことによって、その一部が外へ逃げようと、光エネルギーへと変換した結果。
魔力自体が拒否反応を示すような膨大な魔力を集結させて、救太は大剣を振り下ろす。
そして、俺が作った檻も、魔王も、呆気なくバターのように切り裂かれる。
これでも全力で作った、つまりダイヤなんか比にならない位堅い檻なんだがな。
「これにて無事終了。お疲れ様」
「無事って様かよ。ボロボロじゃねぇか。つか、耳なくね?」
「俺はいつも、こんなもん何だよ」
ああ、また担当医様に怒られるな。そんなことを思って、俺は苦笑する。
そして耳のない部分を触ろうとしてくるアホを、必死で止めるのだった。