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ファンタジーは意外と近くにある  作者: くさぶえ
二章 「食欲の秋は恐ろしい」
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四話

 ゴブリン。もしくは小鬼。


 彼らはホビットと同じ位小さい生き物で、少し、いやかなり知能は低いものの、その小さな身体からは想像がつかないほどの力を持っている。


 この世界が俺達の世界に繋がれるより前。彼らは有害な存在として、他種族に駆除されていた。知能が動物なみで、欲望に忠実な彼らは、腹が空いていれば他種族を襲うこともあったというのだから、それも仕方のないことなのかもしれない。


 しかし、ここが半世界となってからは、話が違った。

 彼らの有り余る力を、貴重な労働力として扱うことになったのである。


 長い対話とすら呼べないコミュニケーションの結果。幸い彼らの小さな脳みそでも言語を理解することは出来たようで、なんとその中には一言二言ながら、喋れる者も現れた。ゴブリン界の大革命である。


 そこからは話が早かった。安定した食料の供給を約束に、労働という手段で彼らは他種族との交流を開始したのである。


 更に彼らの上位種である、オーガやハイオーガなどの説得にも成功。


 鬼族と呼ばれ、敵と認識されていた彼らもまた、現代では半世界の住人として普通に馴染んでいるのである。


「「「ゴブ!」」」 


 そして現在。ゴブリンはキモかわいい説が浮上しており、女性の間でゴブリンがブームになり、最近では一家に一ゴブ。というのが常識のなりつつあるのだから、世の中とは分からないものだ。


 買い物の荷物運びがとっても助かるのよ〜。と、エルフの主婦談。


「──────ああ、昨日ぶりだね。え〜と、ラブに、キラに、ベロ?」


 大規模な封印処理を脳内に行った俺は、ストレスを和らげるためにエリアの中を散歩をしていた。その中で出合ったのは、知り合いの三人のゴブリン。


「ペロたん、よ。他の娘にも、ちゃんと後ろに『たん』を付けなさい。女性の名前を間違えるなんて、失礼じゃないかしら?」

「知るか。バカみたいな名前付けるお前が悪い」

「あら酷い! とってもかわいいじゃないの! ね〜?」

「「「ゴブ!」」」


 ベティの一言に同意するように、ベティの助手である彼女達は抗議の声を揚げた。確かに俺の言ったことは失礼かもしれないが、それで良いのかゴブリン達。明らかにペットにつけるような名前じゃないか。いや、ペットの名前としても酷いぞ。


 それでもベティの趣味の一つである、裁縫によって作られたフリフリの衣装に身を包んだ、花も恥じらうゴブリン達は日々を満足して生きているらしい。やはり種族は違えど、乙女は乙女同士で通じ合う者はあるのだろうか? ……俺には一生理解することはできないだろうが。何故ゴブリン達にはそんな服装をさせて、自分はシンプルな服を着ているのかも理解できないな。


「今日はなんだ? 買い物か?」


 まぁ、店の多い区域に来ている時点でだいたい検討は付くが、話題を反らすために当たり障りのない世間話をふっておく。そんな俺の意図を察したのか、仕方がないわね。とでも言いたそうな顔をしてから、ベティは俺の質問に答えた。


「違うわ。三人の食事はとってもおいしいけれど、たまには外食をしたくなる時もあるでしょう?」


 そう。ホビットらしく手先が器用なベティだが、何故か家事はからっきり。助手であるゴブリン三人娘に任せている。


 俺はその話を聞いた当初はゴブリンに繊細な料理ができるのか? という疑問で頭の中がいっぱいだったが、一度彼女達の料理を食べたら全てを悟った。ゴブリンだって、やれば出来る。


「分かる。俺の母さんの料理は正直な話プロ並だが、やはりLINKのスペシャルサンドイッチは食べたくなるしな」


 あれは本当に中毒性のようなものがある。

 あのサンドイッチが食べれなければ俺は毎日を幸せに生きてはいけないだろう。


「何か話が食い違っている気がしないでもないけれど、まぁ、そういうことよ。この娘達もたまには休ませてあげないといけないしね」


 うんうん。と頷き合う俺ら。

 そんな俺らの何が気に入らないのか、呆れたように話しかけてくる声が二つ。


「何と言いますか……貴方方はいつもそのようなのですか」

「────────ガフ」


 ズシン、ズシンと重量感の伝わる足音を響かせながら現れたのは、巨大な一人のオーガ──────────と、その肩に乗っているホビットの男。


「ミタじゃないの。それにマリーちゃん。どうして貴方達がこのエリアに来ているの? マリーちゃんはともかく、貴方には私の視覚に入ってほしくはないのだけれど」

「やぁ、ベティ。相変わらず貴女は幻覚など使っているのですね─────愚かな」

「愚か? 言うに事欠いて愚かですって!? 貴方みたいにその小さな体を隠そうともしない恥さらしに言われたくないわ!」

「僕は自分の体と向き合っているだけです。常に医術的、魔術的立場からこの肉体的欠陥を補おうと研究を続けています。現実から逃げてばかりの貴女とは違うのです」

「な、なんですって!? 私が逃げてる!?」


 ホビットの男と、幻術で体をごまかしているホビットであるベティは、視線を合わすや否や人目を憚らずに言い合いの喧嘩を始めた。いつものことである。彼らの助手であるゴブリン三人娘とオーガのマリーも慣れているのか、二人を放っておいて再会を喜び合っている。

 

 ミタ・ビースとマリー。


 彼と彼女もベティと同じく、末裔の担当医とその助手である。勿論末裔一人に一人の担当医が付けば十分であるから、ミタは俺を担当しているわけではない。隣に位置するエリアの末裔、俺の友人である川村救太を担当する医師だ。


 担当医も末裔と同じく、担当する末裔のエリアからあまり出ないことが暗黙の了解となっているらしい。かといって治癒魔法が使える者が多い末裔が、担当医の力が必要になるような大怪我を負うことはとても珍しい。俺はその例外に入ってしまっているわけだが……まあ、それを考えるのは悲しくなってしまうから止めるとして、俺よりも優秀な救太もまたその例に入るというわけだ。


 つまり、仕事があまりないミタのような通常の例に入る担当医は、ある程度なら他のエリアに行くことも可能であるということ。それにあくまで絶対な法律ではないのだがら、生活する上で買い物などに行くことはどう考えても必要である。

 

 特に救太の担当するエリアは住宅地が多く、ショッピングには適していない。結果。店などが多い俺の担当するエリアにミタはたまに来る。そこで彼とベティは出会うことがあるのだが……。


 仲の悪い。というか意見が食い違っているベティとミタは、出会うたびに今のように口論になってしまうのだ。

 

 第三者から見た彼らの喧嘩は、五十歩百歩。


 お互いに身長にコンプレックスを抱いているものの、ベティはそれを幻覚で補えば良いと言っているのに対し、ミタはそんなものは逃げであると現実的に見て、医術や魔術を使って本当の身長を何とかしようと考えている。そしてベティはそんなことが出来るわけがないと、現実的に見ているわけである。


「もういいです。貴女と議論を交わすのは無駄であると悟りました」


 それはもう、何度目の悟りだ?


「ふん。逃げるわけね、卑怯者」


 お前も自分の身長から逃げているだろうに。


 ミタはベティの非難を無視すると、俺の方に歩いてくる。ここで注意しなくてはならないのは、会話の方法である。子供と会話するように、しゃがんで視線を合わせると、彼らホビットは非常に不愉快な気持ちを覚えるらしい。それを回避するために俺は立った状態で挨拶をするわけだが、視線だけを下に向けるような真似はしてはいけない。当然だが、見下すような形になるわけである。かといって頭を下に向けすぎると、気を使わせてしまった気分に相手をさせてしまう。この微妙なラインがとても難しいのである。


「お久しぶりです、灯路様」

「うん、久しぶり」


 彼の顔には微笑みが浮かんでいる。どうやら今回も成功したらしい。


「お変わりないようで、安心いたしました」

「相変わらず、怪我ばかりだよ」

「またまたご謙遜を」


 ミタの物腰はとても柔らかく、どこかのエセ敬語使いである狐族に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい所である。


「そろそろ真世界では秋を迎えているのだと、救太様からお聞きいたしました」

「そうだな。朝が寒くなってきた」

「羨ましい限りでございます。半世界では、それを感じることはできませんから……」


 残念そうに目を閉じて、ミタは少しの間沈黙した。彼の心を計ることは、末裔である俺には出来そうにはない。

 ミタはハッと目を大きく開くと、俺に頭を下げる。


「これは、失礼しました。つい感傷に浸ってしまいました。申し訳ございません」

「────いや。けっしてミタが悪いわけじゃない。謝る必要はないさ」

「ですが……」

「だからいいって。ミタは真面目すぎるんだよ」


 俺が苦笑すると、彼は釣られたように笑って、救太にもよく言われるのだと話した。そこからは空気も変わって、ミタとベティが喧嘩をしながらも俺達はたわいもない会話を続けた。


 そう。秋はもう、この世界にも、やって来ているのだ。

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