第四話 想いそれぞれ
大変遅れました。
申し訳ございません。
「僕の…、話を聞いてくれる?」
僕はささやくように聞いた。
「もちろんよ、何でも話してみて――。」
彼女の穏やかな笑顔に僕は決心した。
ふと、風がやさしく吹いた
あれは、僕が入部してすぐだった。
そう、部長が1年生の実力を見たいからとかで…、僕たちは、各テストをやらされた。
僕は小学校の頃からやっていたから、みんなより抜群にうまく出来たんだ。
ひょっとすると先輩たちよりうまかったかもしれない…。
僕は喜んだ―。
でも…やっぱりそれを快く思わない先輩もいた。
その先輩たち何人かに取り囲まれて…友達と思っていた同級生も敵になった。
やっぱり、先輩には敵わなかったんだろうね。
「もう、来るな。お前がいると、俺たちも試合に出れなくなる!」と、そう言われて…。
それ以降、部活に行ってない…。
怖いんだよ。部活だけじゃなくて…僕の日常生活が壊れていくのが…。
それでも、やっぱり変わっていった。
僕はクラスでも一人になってしまったんだ。
それは君も知っているよね。
そこまで一気に話し終わった。
僕は緩やかな開放感とともに、これで彼女がどう思うのか心配になった。
すると、ゆっくりと彼女の口が動いた。
「それは、可愛そうだね…。でも、君だって何からも逃げているんだよ?そのままじゃ変われないよ、何も。」
強い風が僕らを揺らした。
「なんだよ!お前に何が分かるってんだよ!僕だって努力したよ…!それでも…!」
僕は、怒鳴ってしまった。自分のした事に気づき彼女に謝ろうとしたとき、そこにもう良子さんの影はなかった。
その後のことはよく覚えていない。
普通に授業を受けて家までまっすぐ帰った。
途中、静香が声をかけてきた気がしたが、全然反応も出来なかった。
ただ、自分のしたことを悔いていた――。
次の日の学校に彼女の姿はなかった。風邪を引いたらしい。
謝ることも出来ない。
クラスのやつらがちょっかいをかけてきたり、ふざけて殴りかかってきたりしたが、全く何も感じなかった。
それでも昼休みに静香が来てくれたときは、少し嬉しかった。
「遼〜?最近元気ないけど、どうしたん?」
「なんでもないよ、それより静香も元気?」
本当になんでもないよ、という口調で話した。
「うそ…!うそでしょう!?なんで、私に隠すの?遼が嘘をついてるかどうかなんか見れば分かるよ…、何年の付き合いだと思ってるの!?」
せき立てるように詰められた。久しぶりに聞く静香の怒鳴った声に、僕は少し驚いた。
「だって…、ゴメン…。全部、話すよ…。」
僕は、部活のこと、クラスのこと、良子さんのこと…すべてを話した。
「ありがとう…、話してくれて…。ゴメンね。遼が苦しんでるのに気づいてあげられなくって…。それと…良子ちゃんの家に今日行ってみたら?お見舞いにでも…。」
静香が良子の話を出したのは意外だった。僕が一番話したくないことだったのに…。
「うん…、そうするよ!ありがとう。」
僕はそういって教室に戻っていった。
幼馴染もありがたいんだな――。
「また、言えなかった…。遼にアドバイスすることしか…。なんで気づいてくれないの?私のこの思い…。」
静香が一人遠くへいく遼を見てつぶやいた。
僕はその日、良子さんの家に行った。
あんまり行ったことのないところだったから、住所を聞いても分からなかった。
それでも、周りの人に聞いて何とか着くことが出来た。
良子さんの家は、なんだか懐かしい感じのする家だった。
「よし…!」
僕は意を決して、家に入ることを決めた。
「失礼します。」
「あら、いらっしゃい。良子のお友達かしら?」
やさしい口調で話す、おばさんはとても好感の持てる人だった。
「はい、あのー、良子さんはいますか?少し会いたいんですけど…。」
「2階にいるわ。今はすっかりよくなってるから行ってあげて。きっと喜ぶわ。」
僕はその言葉を聞いて、階段を上がっていた。
心臓はドキドキしている。
「こんにちは。良子さん元気?」
ドアをあけて、先手必勝で話しかけた。
「あっ、遼くん?来てくれたのね。嬉しい!」
良子さんは、一瞬戸惑いながらも笑顔で迎えてくれた。
それからはいろんな話をした。
良子さんも、元気そうに僕と…、そして楽しそうに話してくれた。
それでも、病人なので大方の時間に帰ることにした。
「ねぇ、今日は何ももってこれなったけど何か欲しいものある?」
「ハンバーグ…。あのハンバーグもう一回食べたいな!」
その答えに一瞬僕は戸惑った。
「え?そんなものでいいの?それなら明日持ってくるよ。」
「本当?嬉しい…!私、明日も念のために学校休むから持ってきてくれる?」
小さな少女のように話す彼女に、僕はあきれながらも心が躍った。
「もちろん、同じ時間に来るね。」
僕はそう言い残して、良子さんの家を後にした。
明日のために帰ったらおいしいハンバーグ作らなくちゃな。
そう思う遼の体を夕焼けがきれいに染めていた。