第二話 転校生
第二話になりました。
今回は、文脈も丁寧に日常の何気ない話から発展させていきたいと思ってます。
「おはようっ!」
後ろから、大きな声がしたので思わず振り向いた。
「なんだ…。静香か…。」
「なんだってなによー、せっかく挨拶してるのにー!)
ウサギが噛み付くように、この女が言った。
彼女は、花井静香。
僕の近所に住んでる、いわゆる幼馴染というやつだ。
いつも元気でテンションが高く、顔も可愛いので男の子からも人気がある。
クラスは別々になったが、 家が近いのでこうやって時々会うんだ。
「ねぇ、学校は楽しい?」
「えっ?」
ふいに、質問が飛んだので僕はあせってしまった。
「うん。楽しいよ。毎日学校に行くのが楽しみ。」
嘘をついた。いや、つかざるを得なかった。
だって――彼女の前であんなこと…言えるはずもなかった。
「それなら、嬉しいな。私もね、毎日が楽しくて!」
太陽のようにまぶしい笑顔で話す天使に、僕の胸は針が刺さったように痛んだ。
あの後僕は、学校まで彼女と行って、その後、昇降口で別れた。
クラスが別々だからも、理由であったが、彼女が僕と学校に行ってるなんて知れたら、彼女に迷惑がかかるに違いない、そう思ったのだ。
「じゃあここで。」
「え…、あ、うん。またね。」
そう話す彼女の顔は悲しそうにも見えたが、別に気にしなかった。
彼女と別れて歩いた廊下は、太陽をなくしたように冷え切っていた。
キーン、コーンカーンコーン…。
チャイムと同時に先生があわただしい様子で入ってきた。
「おはよう、みんな!さっそくだが、今日はいい知らせがある。」
そういうと先生は、廊下に向かって手招きした。
「ささっ…おいで」
すると、可愛いセーラー服を着た子が、緊張した面持ちで入ってきた。
「今日から、君たちの仲間になる三波 良子さんだ!お父さんの仕事の都合で、わが中学校へ転向してきた。みんな、仲良くしてあげなさい!」
中学校にもなってそんな説明は要らないだろ…と、思った。でもおかしいな。普通、転校生なら入学式の日にこればいいのに…。
「席は…、そうだな。星川の隣が空いてるな。ささっ、あの空いている席だ。」
先生は優しい口調で促した。
「えー、星川の隣かよー。」
「可愛そうよー。」
そんな罵声が飛んでいたがもはや僕には気にならなかった。
良子と名乗るその女性が、僕の近くまでやってきて軽く微笑んだからだ。
近くで見ると、本当に可愛い。なにか懐かしい印象も受ける。母性本能をくすぐるというか…。
ガタッ!
席に着いたとき、僕の心の音符はドからシまで高鳴った。
でも、ただ興奮しているというわけではない。
なにかを感じさせてくれる女性だった。
しかし、その思いも一瞬のものだった。
ホームルームが終わると、男子、女子関係なくみんなが良子さんのところに来たからだ。
そして、いろいろな質問を浴びせている。良子さんも困ったような顔をしながらも、丁寧に返答していた。そのおかげで僕も周りのやつらからちょっかい出されることもなかった。
その日は一日がものすごく早く感じた。
なにか、早く感じたのだ。
気がつくと、下校途中だった。
「あら、遼じゃない?」
聞きなれた声だ。
「おっ、静香か。」
声のトーンが高い、さすがにこれはまずいと思った。
「なにか、幸せそうね。そんなに転校生が来たのが嬉しいの?」
鋭い声で問い詰められ、僕はたじろいだ。
「うるさいなっ…。関係ないだろ。それより部活はどうしたんだよ?」
話を転換する作戦だ、これはわれながらよい作戦だと思った。
「ああ、今日は休みなの。あんたこそ、部活は?」
「僕も休みなんだよ。」
「野球部練習してたわよ?」
「自主休暇!」
僕は思わず大きい声を出してしまった。話を変えるつもりが逆に痛いところを突かれてしまった。
「あらそう…でもサボってばっかりじゃだめよ。先輩厳しいみたいだから。」
「分かってるよ!」
僕はそういい残すと、その場を去っていった。
「バカだな…、なんで言い争いになっちゃうんだろ…。なんで、もう少し優しくしてあげられないのかな…。一番辛いのはあいつなのに…。」
静香が、ゆっくりそう呟いた。
「ただいまっ!」
僕はそう怒鳴るなり、玄関の戸を開けてかばんを放り投げた。
そして、一目散に自分の部屋に向かった。
「ちぇ…、せっかくいい気分だったのに台無しだよ…。人の事情に首突っ込むなよ…。でもあいつ…僕のこと心配してくれてるんだろうな。ちょっと、言い過ぎちゃったかな。」
そう後悔した。そんな後悔で昨日のお父さんに対する行為もよみがえってきた。そして、一つの提案を思いついた。
お父さんの為に、ハンバーグを作ってあげよう!
自分でも意外な提案だった。あんなに昨日までハンバーグの事で怒ってたのに…。ないたことで吹っ切れたのかもしれない。もう甘えてはだめなんだ。そう、考えた。
早速、本棚から料理に関する本を出した。お母さんが使っていたやつだ。今も大事にしまったある。本を出したときにかすかにお母さんの香りがして、また涙がこぼれそうになったが、さっき甘えてちゃだめって決めたばっかりじゃん。と、考えて持ち直した。
幸い、材料はそろっていた。早速、本を見ながら始めた。
作り始めて30分がたとうとしたころ、2つ分のハンバーグが出来た。後はこれを焼くだけだ。
こう見えても、お父さんと2人暮らしになってからは度々、夕飯を作っていたのでそれなりに料理は出来た。なので、ハンバーグもなかなかの出来だと自負した。
お父さんが帰って来るまではまだ時間があるので、帰って来る直前に焼こうと思った。
焼きたてのほうがおいしいと思ったからだ。
お父さんの喜ぶ顔見たいな!昨日のことも誤らなくちゃ!
そう思っていた。