第一話 お母さんとハンバーグ
えぇ、1話目ですね。今日次に続き2作目でも、あります。これは友人からの依頼の作品なんですが、なかなかですよ☆
〜第1章 僕と母とハンバーグ〜
ざわめきの残る学校を後にした僕は、一人早い下校途中だ。
本当なら、楽しみにしていた部活動をしていたはずなのに…。
僕の中学校生活は、あの日から決まっていたのかもしれない――。
「ただいま。」
もちろん、「お帰り、遼ちゃん」などは帰ってこない。
紹介が遅れたけど、僕は星川 遼 (ほしかわ りょう)。今年から中学に入学した。
家族は、お父さんと二人暮らし。お母さんは、僕が、小学校のころに亡くなった。
病気だった。お母さんは小さいころから、病弱だったらしい。でも中学校生活はとても楽しかったそうで、死ぬ前には中学校の友達を呼び続けていたそうだ。これは僕のおばあちゃんから聞いた話。僕のおばあちゃんは隣町に住んでいる。それに時折、遼ちゃんと呼ぶのだ。確かに息子である、僕の名前を呼ぶのは不思議ではないが、なにか違う感じがしたそうだ。
僕は冷蔵庫をあけ、適当な飲み物を出してからいすに座った。リモコンをいじりながらテレビを見る。それでもこんな時間から面白い番組はやっていなかった。
「4時30分か・・・。」
いろいろなサスペンスはやっているものの、途中から見たって分かりやしない。
僕は、ゴクッと牛乳を飲んでから、自分の部屋に向かった。
部屋を空けると、日光が目に入ってきた。
「ん…んん。」
何をしようか迷ったが、お父さんが帰ってくるまでまだ時間があるので寝ることにした。
いつもは、宿題を済ませたり、本を読んだりするのだが、今日はやけに眠かった。
ベッドに入ると、1分もしないうちに深い睡魔が襲ってきて、自然にまぶたは閉じていった。
「遼!帰ったぞー。」
! 突然の声に目が覚めた。 時計を見ると7時半をさしていた。 お父さんが帰ってきた。
「お帰りなさい〜。」
眠そうな目をこすりながら、僕は玄関に向かって歩いていった。
「おお、悪かったな。起こしたか、でももうご飯にするからテーブルに座ってなさい。父さん、着替えてくるから。」
お父さんは、そういい残すと自分の部屋に消えていった。
僕はお父さんに言われたとおり、居間に向かいテーブルに座った。
すると、3分もしないうちに、お父さんがやってきた。
「今日は、何弁当?」
「今日は、ハンバーグ弁当だ。遼、好きだろう?」
!
「食べたくない…。」
僕は答えた。お父さんは気づいてくれる。そう、信じた。
「え…!?」
お父さんはいかにも意表を突かれたという感じで、唖然としている。それに更に腹が立った。
「僕が、僕が、お母さんの作ったハンバーグしか食べないこと忘れたの!?」
僕はつい怒鳴ってしまった。
「あ…!ごめん!忘れてたんだよ。お父さん、疲れてて…。ほら、じゃあ今から買いに行こう?何でも買ってやるから。遼の食べたいやつな――」
「ひと時でもお母さんのこと忘れたの?」
もうこのときの僕に自我はなかった。必死に弁解する父親が許せなかった。
僕は、必死になだめようとする父親を置いて、自分の部屋に向かった。
「おい、待て!遼!」
お父さんも怒っているらしかった。
そりゃそうだ、仕事で疲れて帰ってきて息子のために買ってきた弁当を『食べたくない』だもんな…。自分が悪いのは分かっていた。今まで、育ててもらったことには感謝してる。でも、今回のは許せなかった――。
そんなことを考えている間に、僕は自分の部屋に着いた。そして、一目散にベッドに飛び込んだ。
「お母さん…。」
ふと、お母さんの作ってくれたハンバーグを思い出した。裕福ではないうちで、時々出てくるハンバーグ…。
「遼ちゃんには大きいのをね…。」
そういって、いつも大きいのを僕にくれた。
そんなことを考えると、何故か涙が、あふれてきた。きっと、学校での出来事もあって、無性に悲しくなったのだろう。
「ううう…お母さん…。ううわぁ…」
それでも、大声で泣くのはお父さんがいるのでまずいと思い、枕にしがみつきながら、一人、静かに泣いた――。
気がつくと、朝だった。どうやら、そのまま眠ってしまったらしい。
居間に向かうと、お父さんからこんな、メモがあった。
「遼へ 昨日はごめんな。お父さん、遼の気持ち何も分かってやれなかった。
ほんとにごめんな。お父さん、あれから反省した。もうハンバーグ弁当なんて買わないよ。
朝ごはんは冷蔵庫にあるから、あっためて食べてくれ。 父」
分かってる。悪いのは僕なんだ――。ごめん、お父さん。
それでも、「ハンバーグ弁当なんて買わないよ」の文には少し笑えた。
「そういうことじゃないだろっ…。」
そのあと、僕は朝食を済ませ、制服に着替え、玄関で靴を履いていた。
いつも、このときになると、気分が落ち込む。それでも今日は晴れやかだった。
「さてと…。」
玄関の鍵を閉めると僕は、学校に向かった。
なにかいいことありそうな予感がする――。
なぜか心が踊った。