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異世界への第一歩

「……ッ、…ここは…何処だ?」


気付くとタツミは、太い大きな木の下で倒れていた。



辺り一面には深々と生い茂った森。先程の裏路地とはまた違う居心地の悪さがタツミを襲った。



「この森は夢なんかじゃないんだよな…。そうだ、ヴェルカさんは!」



タツミは周辺を探してみるがヴェルカらしき人物を見つける事が出来なかった。



「やっぱりいないか…」



タツミはまた眠っていた木の下へ戻り腰を下ろした。



「まさかこんな事に巻き込まれるとはな…。未だに頭の整理がつかない」



「……ノ」



「しかも寄りによって飛ばされた先がこんな山奥で…」



「……の」



「そう言えばヴェルカさんの言ってた飛ぶって何だったんだろう。ここは日本とは違うだろうし…一体何処に…」



「あのー!」



突然木から声が聞こえた。



「木が喋った!?」



「違いますよ!私です私!」



木の陰から顔を出していたのはタツミと同い年くらいの布地のローブを着た少女だった。



「お、脅かさないでくれよ。木が喋る世界にでも来ちまったかと思った…」



そう言うタツミに少女はきょとんとした顔で言った。



「え?喋るも何も、人を襲ってくる木だっていますよ?だからさっきは私ともども木を両断されるんじゃないかって焦りましたよ」



やはりこの世界は日本どころか、もっと根本的に違う場所らしい。



「それにしても、君はなんでこんな場所に?」



「私、ティア・マイリスっていいます。ティアって呼んでください。ここは私の…思い出の場所なんで良く来るんです。あなたこそこんな所で何してたんですか?見たところ丸腰みたいですし…さっきは独りでブツブツ呟いてたし…」



そう言ってティアは目を潜めた。



「雨宮タツミ。俺もタツミでいい。今の現状何が起きているのかわからない。気付いたらここにいたんだ…」



タツミは変に怪しまれるような事をさけ、今の状況だけを伝えた。



「そうでしたか。それにしても良く武器も持たずに無事でいましたね」



タツミは森を見渡すと少しぞっとした。



ドン



「この森、そんな危険な場所だったとはな…」



ドン



「そうですよ。ここは凶暴な木だけでなく狼とかの獣だって出るんです。…て、あれ?タツミ?どうしました?」



タツミはティアの後ろを見ながら顔を青ざめ固まっている。



そう言えばさっきから地を踏むような音も聞こえてくるな…そう思いティアは思い切って後ろを振り返った。




「なんだ、ただの木じゃないですか。もう、脅かさな…」



「ヴォアアア!!」



「きゃあああああ!?」


そこにいたのは正真正銘…『喋る木』だったのだ。



「ティア、大丈夫か!?」




どうやら驚いた時に足を捻ってしまったらしい。



「いたたた。これでは逃げられませんね…」



「本当に…木が喋るとはね…。ティア、武器…あるんだよな?」



二人は木の化け物と睨み合う。


「一応ありますけど…獣除けの煙玉と…護身用のナイフくらいしかありません。あんな大きい相手には絶対効きませんよ」



(ナイフか…家の田舎剣法では専門外だけど…時間稼ぎくらいにはなるか?)



「ナイフ…貸してくれ!俺があれを引き付けるから、少しの間安全な所見付けて隠れてろ!」



だが、ティアは逃げようとしない。それどころか彼女の眼からは戦う意思が現れていた。



「この森に安全な場所なんてありませんよ?私だって…戦います!」



「無茶だろ!そんな足で!そもそもナイフは一つしか…」



「ならばこの勝負、俺に任してくれないだろうか?」



二人は声のした位置をたどりその主を確認した。



そこにいたのは、無造作に伸ばされた髪を後ろに束ね、いかにも修行帰りのような使い込まれた袴を着用し、両肩両腰に装備された四本の刀。少々形は違えどそのなりは日本の剣客を連想させる。



「少年!」



男はそう言ってタツミに右肩に担がれていた太刀を投げ渡した。



「それをやる!お前はそいつでお嬢ちゃんを守ってやれ!」



タツミは男から刀を受け取るとすぐさま抜刀した。


(この重さ、形状…間違いない…本物の刀だ。)



「よし…これなら専門分野だ!」





タツミが抜刀したのを見届け、男は大木の前に立ち、右腰に差した刀の剣先を蠢く大木に向けた。


「大木如き…一太刀で」



勢い良く大木の幹を狙った刃は流れるような軌道に沿って大木の右腹部に吸い込まれた。



「終わりだっ!」



かけ声と共に男は柄を振り切った。男の余裕に安心仕切ったタツミは、あの大木の断面はどうなっているのだろう。そのような事にがわいていた。



しかし、その断面図は観ることも事も虚しく大木は平然と立ちはだかっていた。



「え…どうして?」



ティアは自分の目を疑った。確かに刃は大木の胴に吸いこまれ、男はそれを振り抜いた。今だって男の手には…



「刀身が…無い…」



タツミの言葉でティアもそのことに気づいたようだ。確かに男の持つ柄には、鍔から先にあるはずの刀身が見えない。ティアは肉眼では見えない刃なのだろうか…と考えるも、大木の脇腹にめり込んだ刀身がそれを否定してくれた。



「グヴォアアアア!!」



先の男の攻撃は大木を悪い方向に刺激してしまったようだ。頼みの刀身の無い柄を持った男は青ざめ、


「あ…あの商人めぇぇぇぇ!名刀だからと言うから買ってみたものの…ただの偽物か!せっかく格好までつけて登場したのにこれかよ!」



刀身の無い太刀を睨みながら男は喚いていた。今はそんな事を言っている場合では無いだろう。




(そう言えばさっきから頭の中に歌のようなものが流れてくる。どこか心地良く懐かしいような…。一体何なんだろう?…ってマズい!)


「おい!危ないぞ!」


大木が太い枝…大木の腕になる部分を振り上げ、男を叩き潰そうとしていたのだった。



「何!?」



男が気づいた時には大木の腕が振り下ろされる所だった。怪我ぐらいで済めばいいが…そんなことを思いながら男は覚悟を決め目を瞑った。



…しかし、振り下ろされる筈の腕は降りてない。しかもあるはずのない爆音と爆風のようなもの、木の焦げた匂い。


男は目を開き、今の状況を頭に伝える。



先程まで自分を潰そうとしていた腕が、根元からごっそりと無くなっていた。


(どういう事だ…。それにさっきの爆風は…まさか、PSE?一体誰が…。あっちの男はまだ現状すらも理解していないようだし、となるとあの娘が?しかしPSEを使うには兵器が必要なはずだ。あの娘はそれらしいものを持っていない。)



しかし、男は一度こんな話を聞いたことがあった。適合者の中には兵器を使わずともPSEを使用する事が出来る『オリジナル』と呼ばれる者も存在するという話を。


「まだ!まだ木は生きてます!」



男は大木に向き直り左肩の太刀に左手を、左腰の太刀に右手を添えた。



「そう何度も遅れはとらないさ!」



そして二つの剣を同時に抜き、そのまま大木を切り刻んだ。



「二刀流居合『風車』ってか?」



男の放った二つの太刀で大木は三つに分断されていた。今度こそ大木に留めをさしたのだ。


(こいつら…すげぇ強い…)



「ふう、助かったぜ。お二人さん。」


男は二本の刀を鞘にしまい、二人の所に歩いてきた。



「こちらこそ。俺たちだけじゃどうにも出来なかったよ。そうだ、ティア、足は大丈夫か?」



「足は…もう…平気…です…でも……気分が……」


ティアは言葉を最後まで言い切る事なくタツミの身体にもたれ掛かるように倒れた。



「おい!ティア!」



グォォォォォ!



「マズいな…さっきので大木の怒りに触れちまったらしい。お前、その子を担いで走れるか?」


いつの間にかタツミ達の周りは大木の群れによって囲まれていた。


「ああ、でも周りはあの大木だらけ。どうする気だ?」



「突っ込むさ!俺が先行する。だからお前は付いて来るだけでいい」



そう言うと男は正面の大木目掛けて走り出した。




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