繋がる世界2
−異世界−
「おーい、アレク!何処だー?」
大声を出してアレクを呼んでいるのは、アレクと同じ騎士団に所属しているロイ・エルフィールドだろう。
騎士団所属と言っても、ここ『エルニス』は比較的戦いも少なく、それにアレク達は仕事の殆どをパトロールで占める警備兵だ。なので詰め所も小規模な造りであり、大声を出さずとも直ぐに気付く。
「…そんな大声で呼ばなくても俺はここにいるぞ?」
「悪い悪い。っと、それよりもだ。今日だな、今日!」
ロイはいつになく上機嫌だ。いつもであれば「暇だ!」とか言いながら仮眠室に行く時間の筈なのに。これで警備兵が勤まってしまうのだからこの国もお気楽なものだ。
「今日?何かあったか?」
「お前…今日は噂の巫女様が来る日だぞ!?それにモーセ神殿で祭りもやるらしいじゃないか。忘れてたのかよ…」
今日は10年に一度だけ行われる謳神の儀式の日だ。祭りとは言えども、モーセ神殿には謳神の巫女の関係者と騎士団から派遣される護衛兵だけしか入れない。
「今回の護衛兵、ブレイブハーツが引き受けるらしいな」
ブレイブハーツとは騎士団最高ランクの兵が集められた精鋭部隊だ。その中には二人の幼なじみでもあるリエリアも選ばれていた。
「なんだよ、ちゃっかり知ってんじゃんか。リエリーも昨日張り切ってたぜ。しかし、随分と差を付けられちまったなぁ。まあ、本当だったらアレクだってあの中にいてもよ」
「…そんな事はないさ。それに、ろくに剣も振れない騎士なんか隊のお荷物にしかならない」
アレクは視線を落とし、自分の掌を見つめる。心なしかその部分は大きな恐怖に怯えるように小さく震えていた。
「悪い、思い出させたみたいだな」
「いや、いつまでも引きずってる俺が悪いんだ。それよりロイ、お前まさか神殿に行くつもりじゃないだろうな?今回からあそこは関係者以外は立ち入り禁止だぞ」
「当たり前だろ?だからお前を呼びに来たんだよ。午後は俺達非番だし、良いじゃんか!ちょっと忍びこんで巫女様眺めるくらいで罰なんか当たるかっての」
「はは…俺も共犯にする気なのな…」
「バレなきゃ良い話だろ?じゃあよろしくな。後で迎え行くから、ちゃんと準備しとけよ!」
ロイは大きく手を振り、詰め所から出て行った。
「さて、俺も上がるか…」
アレクは自室に戻ると、10年前の謳神の儀式を思い出していた。
10年前の儀式は民間の立ち入りも許可されており、アレク達は初めて巫女の謳を聴いたのだった。
「アレク、準備出来てるか?」
「ああ、それよりも何で装備まで着けていかなきゃいけないんだ?」
見に行くだけなら私服でも構わないだろう。だが、ロイは仕事で使う兵装一式を装備していくよう促したのだ。
「念の為さ。10年に一度の儀式だぜ?何が起きるか分からないからな。それに、もしもの時は警備中だって言い訳出来る。さあ、もう巫女様と護衛兵はとっくに神殿へ行ったみたいだ。俺達も急ごうぜ?」
「お前、気合い入りすぎだから…」
「そりゃあ当たり前だろ?巫女様の謳が聴けるんだぜ?懐かしいな、前に聴いた時はまだガキだったもんな」
「ああ、10年も前だしな。そういやあの時もお前、すげぇ興奮してたっけ」
その時聴いた声は心に響くような綺麗な謳声で皆、衝撃を受けたのだった。
そしてこの時、アレク達は
『絶対、みんなで巫女様を護れるくらい強い騎士になろう』
と誓ったのだった。