第八部 制度の外側にあるもの 第一章 v16の問い
三十一歳の夏、v16の作業が本格的に始まった。
v15までの乖離マップは、数字だった。制度が記録した数値と、現実の人間の状態の間にある距離。それをデータとして可視化してきた。
v16には、言葉が入る予定だった。ハシモトさんの親たちの言葉。数字にならない経験の記録。
しかしデータを集めるうちに、レンは別の空白に気づいた。
「ソラ、乖離マップのデータで、障害を持つ人間の記録はどのくらいある」
「乖離マップv15までのデータに、障害の有無を直接示す変数は含まれていません。ただし——制度の標準認定試験のスコア分布と、他者からの評価点の分布を重ねたとき、特定の層に空白があります」
「空白がある」
「平均よりスコアが低く、かつ評価点の上昇率も低い層がある。その層の内訳を制度のデータと突き合わせると——障害を持つ人間が集中している可能性があります」
「可能性、というのは」
「制度のデータに障害の情報が直接紐付けられていないため、確定できません。ただし、別の経路から見えてくるものがあります」
「どんな経路」
「人工動作義肢具の配給記録。臓器補助医療の利用記録。AIアシスタントへの精神支援機能の付与記録。これらを重ねると、同じ層が浮かび上がります」
レンは少しの間、画面を見た。
「乖離マップが、ずっとその層を見ていなかった」
「見えていなかったというより——見ようとする変数を設定していなかった、です」
「俺が設定しなかった」
「そうです」
それは、ハシモトさんとの対話のときと同じ感触だった。届かなかったのではなく、向けていなかった。




