野営演習 ひとりのせいで危機的状況に陥る人びと
カイン 16歳 騎士見習い 剣士 俺 リーダー
黒藍の短髪 細マッチョ 生真面目
アーサー 16歳 騎士見習い 剣士 オレ しんがり
赤銅のウルフカット 背が高くガタイも良い
ルーク 15歳 弓師 斥候 ボク
焦げ茶ボブカット 小柄 器用で目が良い
リレン 17歳 火魔術師 あたし 気が強い
黒髪ストレート(ポニテ) 細身で背が高い
ルウナ 16歳 水魔術師 わたし マイペース
水色ツインテール 中肉中背
シルビア 14歳 治癒師 私 おとなしめ
桃髪ゆるゆる天パ 細身で小柄
きょうから二泊三日で、野営演習をする。
学園の生徒は馬車で現地に向かうが、見習いハンターたちは現地で合流する予定だ。
この馬車は、演習の目的地である森のちかくで降りて、メンバーがそろった班から出発できる。
速さを競うように仲間を急かしている班もあるが、俺たちは安全性と確実さを重要視しているから、装備や荷物の確認をしてから出発した。
同じ班のメンバーには、魔術師や医療呪術師もいるため、最初から体力勝負な計画は立てていないのだ。
「じゃあ、打ち合わせどおり、ルークはオレの後ろにいてくれ」
「うん! ボクの後ろが女の子たちだね」
リーダーのカインに、弓師のルークが返す。
「あたしがリーダーを援護するのよね?」
火魔術師のリレンが確認したので、カインがうなづく。
魔術師たちの中では、リレンが一番体力があるから、ルークが斥候として前に出たときに、前衛をフォローするのは、リレンにお願いした。
この班での動きはいくつか想定しているから、きょうは実際に動いてみて、しっくりいく配置に調整するつもりなのだ。
「オレが殿だから、不調を感じたら早めに言ってくれ」
アーサーはカインと同じく騎士見習いで、剣を得意としている。
最後尾には、この班を護衛するハンターがふたりいるが、基本的には彼らを頼らずに、自分たちの力で乗り切らなければならないのだ。
「ルウナとシルビアも準備はいいか?」
「もうバッチリよ」「ええ」
水魔術師のルウナが背後を気にしていたが、こちらを振り返って返事をする。治療呪術師のシルビアも、問題はなさそうだ。
「じゃあ、出発だ」
最初の野営予定地に着くと、すでにテントを張った班が十組ほどいた。やはり体力が低いのか、メンバーに魔術師たちが含まれている班が多い。
これからつぎの野営地に移動してしまうと、途中の森の中で暗くなり、テントを張るどころではなくなってしまう。
「きょうはここにテントを張ろう。火を焚いて、野営の準備を急がないと」
初日の野営予定地は三か所あって、移動がはやい班はいちばん奥までたどり着いているだろう。
カインの班は、当初二番目の野営地を目指していた。だが、ルウナとシルビアの歩みが想定していたよりも遅く、本日中に着くのは不可能だろう。
メンバーの疲労度によって、何度か荷物を入れ替えて、休憩しながらようやく着いたのだ。
明日からの予定をかなり変更する必要があると、リーダーであるカインは考えた。
夕食のときにみんなで相談しようと、メンバーに指示を出そうとしたとき、先に声をあげた者がいる。
「じゃあ、わたしが食事をつくるね! テントの設営は力持ちの男子にお願いしたいなっ」
途中で疲れてろくに歩けず、ほとんどの荷物をカインとアーサーでかわりに運んだ、水魔術師のルウナだった。
「いや、食事は火の魔術が得意なリレンのほうが効率がいいだろう。ルウナはみんなの水筒に水を補給してくれないか」
疲労度を考えた上での配置だったが、ルウナは異をとなえる。
「えええっ? でもわたし、お料理が得意なんです! 疲れたときはおいしいご飯が食べたいてすよね?」
ルウナはリーダーに従う気がまったくないようで、それぞれの背嚢の中から調理器具を出し、食材を物色し始めた。
リーダーであるカインは、ため息をつきそうになる。ここまで来る途中でも、ルウナは自分の主張を押し通して、チームワークを乱すことがあったのだ。
まあ、おもに護衛に対して、馴れ馴れしく話しかけるというものだが。
何度か注意したが、ルウナは護衛の隣を歩こうとして歩みを鈍らせ、結局、野営地に着いたのは夕方近くになってしまった。
「リーダー、あたしは水汲みでもいいわよ。沸騰させたものを水筒に入れることになるけどね」
川の水は寄生虫や感染症のおそれがあるから、そのまま飲むのは危険だ。ルウナが魔術で補給してくれたら、その水には魔素が含まれるため、疲労回復に効果がある。
料理はリレンがした方が、夜間の見張りのときに戦力が落ちずにすむのだが……。
カインは、薪に火をつけるのが容易いリレンが調理し、食事後の火の番を魔素に余裕があるリレンとシルビアに、一番危険な深夜は自分とアーサーが引き受け、明け方からはルークとルウナが担当するのが一番いいと考えていた。
「運よくウサギが狩れたよ」
ルークが弓を携えて、軽く解体を済ませたウサギの脚を掴んで掲げてみせた。
「すごいわね! 美味しそう。ルークって、ほんとうに弓が上手ね」
ルウナがそれを受け取り、調理に戻る。
ちいさな子どもを褒めるような言い草に、ルークも苦笑いで返した。
はやい班は、一時間も前にこのあたりで狩りをしたはずだ。続く班も、近くで獲物を探しただろう。
だからこの辺りでは、獲物となる動物は、とっくに姿を消していたのだ。
ルークは自分も疲れているのに、今後食料確保のために割かなければならない時間を、少しでも減らそうと、この獲物を見つけてきてくれたのである。
「ありがとうルーク。これで明日以降は、挽回できればいいんだが」
すでに、予定から二時間以上遅れているのだ。
ここまで、大きな失点はないと思いたいが、カインには自信がなかった。
計画から大幅に外れると、個々の限界を把握できず、能力に合わせた計画が立てられなかったと判断されてしまう。
「もう少しでできるから、もうちょっと待っててね」
調理に手間取るルウナに、メンバーが協力しようとすれば、すぐにできるからと追いやられてしまう。
ルウナは食事の準備を自分の手柄にしたいようだが、もう日が暮れてだいぶ経つ。
はやく夕食をすませて明日に備えて休まなければ、睡眠時間が削られてしまう。体力勝負な野営演習では、十分に休息をとることが大事なのだ。
「愛情たっぷりの特製シチューよ」
寝床の準備もとっくに済ませ、自分の武器や防具の点検も終わった頃、ようやく食事ができあがった。
まわりの班は、すでに見張りを残して休んでいるようだ。さっさと食べて、はやく休まなければ、まわりの班との差は、ひらくばかりである。
「それじゃあ、いただこうか」
シチューが盛られた木の椀が、それぞれに配られる。
「えっと……。なんか、具が多くない?」
スプーンで芋をすくったリレンが、困惑気味に言う。
予定では、初日に傷みやすい葉物野菜をつかい、根菜などを三日目までもたせるはずだった。
根菜などは重さがあるので先に使いたいところだが、焚き火に放り込んでも食べられるので、非常食の役割も兼ねているのである。
それが、木の椀の中に沈んでいる。これがなかなか煮えなかったから、これほどまでに時間がかかったのだろう。
「ええ! おかわりもたっぷりあるから、たくさん食べてね」
ルウナはみんなの戸惑いに気がつかず、的外れなことを言った。
「あれ? 干し肉をつかったの? ボクが狩ったウサギは?」
ルークは椀の中にふやけた干し肉を見つけ、驚く。
「ウフフッ、ルークったら! 狩ったばかりのお肉は、二、三日熟成させないと美味しくないんだよ。あっ! 護衛のおふたりも一緒に食べましょう?」
「いえ、仕事中なので」
護衛の片方がそっけなく返事をするが、当然だ。そんなことよりも、はやく就寝して、見張りだけになってくれたほうがいいのだろう。
「あら、どうぞとなりに座って?」
ルウナはさらに食事をすすめる。彼女には、メンバーから詰められているという自覚がなさすぎた。
「ルウナ、食材はどれくらい使ったんだ?」
カインは話を聞かないルウナに、少し苛立ちながら確認した。
「えっ? お野菜は悪くなっちゃうから、ぜんぶ使ったわよ。あとウサギのお肉が手に入ったから、余った干し肉をシチューにしたわ」
「余ったってなんだよ! 今回の演習は二泊だぞ! 明日で終わりじゃないんだ」
あまりの言いように、カインは腹が立った。あれほど事前に計画し、みんなで確認したのに、ルウナは初日でめちゃくちゃにしたのだ。
「カイン、あなた怒ってるの? 疲れてるんじゃない?」
悪びれずに続けるルウナに腹が立つ。彼女はなぜ、素直に謝らないのだろう。
「ルウナ、干し肉は明後日まで余裕でもつのよ! さきにウサギを調理しないと。あなた演習中ずっと生肉を担いで歩くつもりなの? それに葉野菜ならまだしも、芋を使いきるなんて。あれは焼くだけでも食べられるから、最終日まで残しておかないと!」
大人しいシルビアも、興奮するほど焦っている。最終学年のテストを兼ねた演習を成功させないと、高等部ではランクが落ちたクラスに割り当てられてしまうからだ。
「あらっ? 私が持ってきたパンがないわ」
シルビアが、背嚢をかき回しながらそう言った。ナプキンに包んで持ってきたのは、大きな堅パンで、火の準備をする時間がない昼に、スライスして食べる予定のものだった。
「えっと……」
「ルウナ?」
「ちょっと温めようと思っただけなの!」
薄切りにしたらすぐに焼き目がつくのに、ルウナはそのまま焚き火近くに置いて、あっという間に炭にしたという。
「わざとじゃないわ! 火が強すぎて焦げちゃったの!」
ほかのメンバーも、慌てて自分の背嚢の中身を確認する。
「うそだろ! 非常時用の干し肉も使ったのか? アレは班からはぐれたときや、演習がトラブルかなにかで延長したときのために、とっておくもんなんだぞ」
アーサーは、麻袋の中身がからっぽなのに気がつき、呆然とする。
「そうよ。各自で日保ちする食料を残しておくのは常識だわ」
「だって、巾着に入っていたのは余分な食材でしょう?」
「えっ? じゃあ、あたしの干し芋も使ったの?」
リレンは、背中側についているポケットの中身を確認して言った。
「あれなら調理してるとき、お腹が空いたから食べちゃったわ」
「はぁ? それって泥棒だよ」
ルークは化け物にあったかのような目で、ルウナを見つめた。
「やだっ。ルークってば、そんなこと言わないでよ。ちょっともらっただけなんだから」
「反省も謝罪もないのね」
リレンは白けたような表情で、ルウナを見ている。
背嚢を探る手が止まった。
今回の演習は、明日で脱落する可能性が高くなったと、みんな気がついたのだろう。無理して参加を続けても、致命的な事故が起きかねない。
誰もがこの訓練の失敗を想像して、食事を続ける気になどならなかった。
「どうしたの? わたしのシチューが口に合わないわけがないわよね?」
この演習では自分で持てる限界を知るために、魔道具はいっさい使うことを禁じられている。着替えなどの個人的なものは、各自で持つのは当たり前だが、調理器具と食材、テントは各々の体力に合わせて分けているのだ。
個人のものは、背嚢の中でも、さらに麻袋に入れて区別していたのに、ルウナはそれも勝手に開けて取り出した。
みんなで話し合ったことを、まったく聞いていなかったとしか考えられない。
「こんなに作ってどうするのよ」
このシチューには、少なくとも二日分の食料が使われてしまった。そして、一食分は消し炭である。
「明日の朝に食べればいいじゃない。温めなおせばすぐに食べられるから、少しぐらい寝過ごしても大丈夫よ」
カインはリーダーとして、この演習のリタイア宣言をいつするか悩み始めた。
食料に不安がある状態では続けられないが、できるだけ長く参加して、評価を上げておきたい。だが、安全性を考えれば、朝の行動前に申告するしかないだろう。
もう遅いので、頭を働かせるためにも休まないと。明日の朝一番にメンバーで相談して、決断しなくてはならない。
「テントをたたんで次の目的地まで移動しながら、食料と水を確保するんだぞ。寝過ごせるわけないだろ」
アーサーはなくなった食料を、現地でどれくらい補充できるか考えている。
「それに明日の分って……。夜に移動しなければいけなくなることもあるのよ。それにいつまでも食べ物の匂いをさせておくことが、どれほど危険か習ったわよね」
シルビアはこの班で一番の年下だが、習ったことをきちんと覚えていた。誰かさんよりも、よほど大人である。
「だって、アレックスさんもリュークさんも食べないから」
「護衛の食事を準備してどうすんだよ。彼らは俺たちが危険な目にあわないように、見守る仕事をしてるんだぞ」
「ルウナはお食事会でも開いてるわけ? 家に招いてるんじゃないんだから」
リレンが皮肉を言うが、ルウナには通用しなかった。
「あら、じゃあアレックスさん。演習が終わったら家にご飯を食べに来ませんか? おいしい手料理をご馳走するわ!」
護衛のふたりは会話に参加することもなく、離れた場所でまわりを警戒している。
アレックスの眉間に、若干皺が寄っているくらいだ。
「ウフフッ。けっこうシャイなのね!」
ルウナの態度では、野営演習というより、男漁りに来たと言っているようなものだ。
「ねぇリレン。食べ終わったらお湯をつくってね。わたし、体を拭かないと寝られないから」
「ルウナが水を出すなら温めるくらいはするけど?」
「えっ? 川はちかくにあるじゃない」
すべてリレンが準備するものと、これっぽっちも疑ってもいないようなことを言った。
「なにそれ。あたしにまた汲んでこいって言ってんの?」
リレンが怒るのも当然だ。いまのは彼女を下に見ている言動で、自分はしてもらうのが当たり前だと言ったに他ならない。
ルウナ以外のメンバーは呆れ返っているし、護衛も困った班に当たったと、自分たちの不運を嘆いていることだろう。
カインだって、ルウナがこんな性格だと知っていたら、この班には絶対に入れなかったのに。
「いいかげんにしてくれ! リレンは君の召使いじゃないんだ。そもそも君は、いま現在チームの足を引っ張っているんだぞ」
カインは、リレンがさらに怒り出す前に、ルウナの非常識な言動を叱る。本音を言うなら、この班から出ていってほしいくらいだ。
「ひどい!」
ルウナは立ち上がり、焚き火を避けてからアレックスの横を走り抜けた。アレックスに止めてもらいたかったらしく、横を過ぎるときスピードがあきらかに落ちている。
しかし、アレックスからなんのアクションもないと知るや、川の方に向かって走り出した。
「こんどはルウナを探しにいかなきゃいけないわけ?」
リレンがそう言うのもわかる。きょうはルウナにかき回されっぱなしだ。
「一体なんなの」
シルビアにとって、まわりは年上ばかりで、医療呪術師の仲間からは、困ったらリーダーたちを頼ればいいとアドバイスを受けていたのだ。なのに蓋を開けたらどうだろう。
ルウナはシルビアでもわかっていることを、まったく知らずに演習に臨んでおり、頼りになんかならなかった。
「もう交代で寝ないと深夜の見張りがキツくなるぞ。今夜はオレが見張るから、みんなは先に寝てくれ」
「まだそう遠くにはいってないだろ。俺が連れ戻してくるから、ここの片づけを頼む。残った食事はもったいないが、できるだけ野営地から離した方がいいな」
朝までに野生生物から漁られるだろうが、テントのそばに置いておくことはできない。穴を掘って埋めるにしても、この暗闇の中、野営地から離れて作業するほうが危険である。
「すみませんが、どちらか俺についてきてもらえませんか? できればリュークさんがいいのですが」
ここでアレックスに頼めば、ルウナの勘違いに拍車がかかる。ルウナのためにアレックスが探しに来たと思われたら、明日以降も彼の隣を歩こうとするだろう。
護衛もふた手に分かれることになるため、ここの守りが薄くなってしまう。
カインは頭痛がするのを振り切って、ルウナの後を追うことにした。
「わたし、いじめられてるんだ……。こんなことなら、レオン様と同じ班になるんだった」
レオンハルトは王族のため、同じ班には貴族しかいない。平民であるルウナが愛称で呼ぶのは、不敬が過ぎる。
彼とそのメンバーたちは、それぞれの家から集められた護衛が連携して守っているので、この訓練を受ける班の中では一番安全になっているのだ。
学園側もその方が安心なため、護衛をもたない庶民が、王族と同じ班になることはない。
そもそも彼らは優秀なメンバーで構成されているため、いちばん進んだ野営地まで到達していた。
ルウナが川べりに腰を下ろし、メンバーの悪口をならべていると、向かい側の藪が動きだす。
「えっ? なに? きゃーーーあ!」
料理の匂いを撒き散らしているルウナは、肉食動物からすると格好のご馳走である。水を飲みにきた生き物を狙っていたウルフの群れが、彼女に目をつけるのははやかった。
その腹をすかせた群れが、ルウナの叫び声に集まり跳びかかる。
ルウナは自分の班には戻らず、一番に目にはいった、ちかくの焚き火をめざして走った。
「ん? 誰かがこっちに走ってくるぞ」
「助けてー。だれかー」
「あっ、みんな起きろ! ウルフだ! 武器をとってかまえるんだ! ウルフの群れが襲ってくるぞ」
生徒が気づいて叫ぶまえに、すでに護衛が武器をかまえて、ウルフの襲撃に備えていた。
護衛たちはルウナを助けるために、自分が担当する班から離れることはなかった。
当然、担当である六人の見習いたちを守るために、そちらを優先したのである。
「きゃ〜! 助けて! こないで〜」
ルウナは無我夢中で、自分のまわりに水弾を放つ。それらはウルフを避けて、テントや焚き火に当たり、破壊する。
引率の教師たちも、急な暗闇に対応が遅れてしまった。
「ぎゃあ!」
ルウナは何度か腕に噛みつかれはしたが、引き倒されることなく見えた班に合流し、その班の護衛がウルフを倒している隙に、更におくの焚き火へ逃げていった。
結果として、ルウナは他の班へウルフの群れをなすりつけ、自分だけ黙って逃げたのだ。
ルウナは、自分の班へ向かっていたら護衛とカインに合流できたのに、見張り以外がすでに休んでいる班にウルフを連れていき、寝込みを襲わせてしまった。
結果、最初に襲われた班からは、二名の犠牲者が出てしまっう。彼らは寝起きで、武器になるものを手に取ることなく、真っ暗闇の中、いきなり喉笛に噛みつかれ絶命した。
魔術師だったふたりは、詠唱する時間すら与えられなかったのである。
ルウナは恐慌状態で走りまわり、魔力切れで疲れ果てて座りこむまで、あたりに水弾を放ちまくった。
すぐに火魔術師が明かりを灯すが、びしょ濡れの薪には火がつかない。空中に出した火は、安定せずにすぐに消えてしまう。
暗闇の中で襲われるという恐怖心は、次々と生徒全体に伝染していった。
教師が叫ぶ制止の声も聞かずに、やみくもに魔術を放ち、手当たり次第に武器を振り回す。
夜が明けた頃、被害は死者が八人。四肢のいずれかを欠損した者が二名。やけどによる失明が一名。
少なくとも全員が、切傷や打撲、軽いやけどを負った。
十二頭のウルフはすべて討伐されたが、生徒のケガはほとんどが同士討ちだったという。
この夜に、カインは利き腕を肘下から失った。
暗闇の中、パニックになった誰かの剣で切られたのだ。
傷は思ったよりも深く、治癒師が施した魔術は出血を止めたが、森を抜けるまで固定しておくことはできなかった。もう腕から先は、切り落とすしかなかない。
誰から切られたのかもわからず、誰のせいにもできなかった。すでに、友人同士で疑いあう姿を見てしまったからだ。
ただ、幼少の頃より努力を続けてきた、騎士になるという夢は、ここで絶たれてしまったことは理解した。
今回の演習に参加した生徒は、体に傷が残った者も多いが、なにより心に深く傷がつき、日常生活を取り戻すのにも、かなりの時間を要することとなった。
翌年から学園での野営訓練は、実施前に個々の能力をはかる筆記と実技の試験を行い、知識と能力が満たない者は、参加が認められることはない。
そして引率する職員やハンターを増員し、彼らには魔道具を必携させると決定した。もしものときは、各自の判断での使用を許可したのである。
それは大きな犠牲を伴った改正であったため、生徒や父兄からの反対意見は皆無であった。
ルウナの両親は、亡くなった生徒たちへの賠償で資産をすべて失い、自身を売り払うことでようやく補填することができた。
王族であるレオンハルト殿下が無傷だったので、まだこれだけで済んだとも言える。
ふたりは死ぬまで鉱山奴隷として働いたが、自身を買い戻すまで稼ぐことはできず、事故で亡くなった奴隷とともに、まとめて谷底に葬られた。
そして当事者であるルウナは、団体行動からはずれてウルフを呼び寄せた上、ほかの班へなすりつけ、走りまわっていくつかの焚き火を消した行動が、極めて悪質だと判断された。
暗闇でさえなければ、これほどの被害にはならなかったのである。
彼女は死ぬまで荒野にある牢獄から出られず、毎日、開拓村の水場に補給するという、終わらない労役を課せられた。
「わたしは被害者よ! 水辺にウルフが集まっていたなんて知らなかったの。近くのテントに逃げたのだって、わざとじゃないわ。班のみんながわたしをいじめたんだもの。ウルフに襲われたときだって、だれもわたしを助けてくれなかったのよ!」
遺族の前でもこの調子だったルウナは、何年経っても自分の非を認めず、反省もしなかった。彼女の口からは、一度たりとも謝罪の言葉が出てこなかったという。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました
この話での鉱山奴隷とは、
人身売買の犠牲者、または自身を担保にお金を借り入れ、人材派遣のように能力に合った仕事を斡旋してもらう制度の利用者です ルウナの両親は後者でした
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