歯車は回り出す
───痛み、それは人生において避けることのできないものである。
───苦しみ、それは生きているからこその感情であり、それを表現するのは至って当たり前である。
そして、それはオネェみたいな顔してるおじさんみたいなチビ女にも言えることであり、苦しみの表現の仕方は人それぞれである。
つまり─────
「イテッ!」
体の芯まで響き渡るような重低音ボイスが森からした。森の木々は揺れ渡り、木に止まっていた鳥たちは大きな鳴き声を出しながら急いで木から離れ、木の葉は宙を舞う。
その声は大通りまで響き渡っているようだ。
これはミリヴィアの声か?
正直この程度の重低音は前世で重低音強化スピーカーを爆音量で流しててたから慣れてる。
だからこそ、この声の分析ができる。
こんな低い声聞いたことないし、何より、さっきミリヴィアが出て行った方から声がしてるんだ。
一旦向かうしかないか。
木々を掻き分け中に入っていく。
あいつはちっさいからスルスル入れたんだろうな。
服貰ってなかったらこれダメージ入って死にそうじゃねぇか?
そう思いながらも、進んでいくと、横に倒れている大木があった。
危ねぇなぁと思っていたら、その奥にぶっ倒れているミリヴィアがいた。
「えっと……大丈──────
「大丈夫じゃないよ!見たらわかるでしょ!」
は?こいつなんでキレてんの?
こっちは心配してあげてんのにこいつありえねぇだろ。
「おい!しっかりしろ!何があったんだよ!」
近づき、声をかける。ここで怒られるからといって逃げるのはあまりにもダサすぎる。
「そこにある木に足ぶつけてこけちゃったんだよ!」
「えっと……?どうしたらいい?」
足と頭を押さえてうずくまって説明されても何も分かんないし、何よりそんな痛いか?
顔面からこけたとはいえ、血が出るようなほどでもないっぽいし。
「立てますか?」
そっと手を差し伸べる。我ながらに優しすぎる行動だ。女性慣れはしてないが、こいつを女として見ることはないだろ。よく見てオネェだ。
「ごめんなさい。ちょっと落ち着きました。ありがとうございます。」
えっ?こいつ二重人格なの?
さっきまで赤ちゃんみたいに泣き喚いてたのに、急に冷静になるやん。
「大丈夫ならいいんですけど。」
「もう大丈夫なので、迷惑かけました。」
「あっ、はい。」
足を引き摺りながら早歩きで森の奥へズカズカと進んでいった。ここで着いていくのが漢というものなんだろうが、あいつ明らかに早く離れようとしてたからな………着いていくべきだろうか……
「あ、あのー着いて…………
あれ?そういやもうどこにいるか分かんないじゃん。
というか、ここどこ?
この街に来た時に周り見回したけど、壁に覆われてて森なんてなかったし、草原のど真ん中にあるのになんでこんな森があるんだ?
一旦まぁさっきの路地裏に戻って商店に向かうか。
プリカースでマップを確認しつつ、森から外に出る。
マップにはこの森は表示されてないんだ………
今いる場所はマップではビルの中になってて、そのビルの名前は「鳳雷総本部」と書いてある。
こわっ!?この世界ってホラー系だっけ?!
存在しない森にズカズカと入っていくミリヴィアって何?妖精なのあいつ?
それに、鳳雷って何?なんかパーティーとかか?
考えても無駄か。
いずれわかると信じて今は、商店に向かうしかないな。
路地裏から大通りに出る。
マップを見る限り、結構近くにありそうなんだよな……
「おい!お兄ちゃん!変なの被ってるけど、どうした?」
「ちょっと色々あって………」
「そうか…オラん店よってくか?」
「えっ……?」
170センチある俺よりも明らかにでかくて、タンクトップを着てサングラスをつけたマッチョが目の前に来た。金髪角刈りでいかにもヤクザって感じの人だった。
「店って……?」
「オラな、商店やってんの。」
は……?組長の間違いじゃね?
この見た目で商店してるなんてありえないだろ。
まさか………新手の詐欺か?
このまま誘拐してそこで射殺………………………
考えるだけで背筋が凍るわ。
「いや………ちょっといいです。」
決めた!先に鍛冶屋に行こう!そうしよう!
こんなヤクザに連れてかれないように逃げよう!
「ならええよ!別に無理に連れていくほど経営難なわけじゃねぇからな!」
えっ……?このおじさん好き!
めっちゃ優し!えっ!まじか、やっぱ着いていこっかな………………
あっぶねぇー!こうやって気づいたら殺されてんだろ。お前らの手口は分かりきってんだよ!
「ごめんなさい。じゃあそういうことで。」
「おう!あとでオラん店来てくれてもいいんだよー!」
返事はしない。
その答えを準備する暇なんてなく、俺は人混みの中を走り出した。
はずだった───────
夢というものは叶えようとするからこそ、価値があるものであり、価値があるからこそ叶えようとするものだ。
それはもし、姑息な手段を選んだとしても変わるものではない。
「ほんとにこれでよかったのか?」
「ああ、そっちの人間なんて殺しても蘇ってくるんだ。そしたらこれしかないだろ。」
セクディアはこの大陸の中で最も栄えており、スーツケースを持った人たちも少なくはない。
さらに、これだけ栄えているということは、路地裏も多く人目につきにくい場所だってあちらこちらにある。
だが、人目につきにくいだけだ。
「こいつらは俺たちの復讐するべき相手だ。そのためならこの命だって捧げてやる。」
「そうだよね……僕は兄貴についていくよ!」
「よし!そしたらこいつを─────
「そうか………なら、死ね!」
大きな人影が2人を覆う。
神は残酷だ。
路地裏に残る血の香りは虫以外気づくことはなかった。
ただ1人を除いて。
最初の方何言ってんだろ?




