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拾ったノートに書き込まれている秘密

作者: 八雲ヒイロ

都市伝説風の短編ホラー、第2話目です。

 三学期の終わりが近い、ある寒い日の昼休みのことだった。

 中学2年生のB君は、教室に戻る途中、窓際の隅で薄汚れたノートを見つけた。表紙は薄汚れていて名前も書かれていないけど、誰かに何度も触れられた形跡がある。ページをめくると、クラスメイトの名前と、その下に一行ずつ秘密めいた文章が書かれていた。


「Cさんへ あなたがテストでこっそりカンニングしたこと、知ってるよ」

「D君へ 放課後、君はKさんに告白してフられたね。よく知ってるよ」


 真偽の程は分からないが、どれもが、当人しか知らないような秘密情報のようだった。B君は背筋がひやりとした。ノートを閉じて、すぐに机の奥へと隠した。友人に見せようとも思ったが、誰かに話すのはなぜか怖かった。

 放課後になり、ノートのことが頭から離れないB君は、誰もいなくなった教室でノートを再び開いてみた。すると新たな書き込みがあり、それは自分宛に書かれていた。


「B君へ 昨日、廊下で独り言を言っていたね。知ってるよ」


 本当に、そんなことをした覚えがあった。誰もいなかったからついやってしまったのだけど、誰かに見られていないはずだった。B君は震える手でノートを閉じて、先生に相談することにした。だが―


「そういうものはね、教室に戻しておきなさい。単なる落とし物かもしれないでしょ」


 ノートを一瞥してから、先生は少し顔を曇らせつつ言った。それ以上は話を聞いてくれない。やむを得ず、B君は教室に戻ると、空きロッカーの奧へとノートを押し込んだ。

 翌日の早朝、昨日のことが気になるB君が早めに教室へ入ると、ノートが彼の机の上に置かれていた。開いてみると、新しい文章がまた増えている。


「B君へ 君は昨日、夜遅くまでドラマを見ていたね。タイトルは○○○で、シーズン2の第3話をようやく見れたところだ。知ってるよ」


 誰もが知るはずのない秘密が、またひとつ書かれていた。誰もいない早朝の教室には朝日が差し込んで明るいのに、空気がひどく重苦しいように感じられた。

 放課後になってから、Bくんは学校新聞部のAさんに声をかけた。Aさんは都市伝説系の情報が好きなこともあり、この地域の怪談や噂話にも詳しいことで有名だった。

 B君がノートを見つけた話をすると、Aさんは真剣な顔になった。


「それ、見せてくれない?」


 校舎裏の部室に移動し、B君はノートを差し出した。Aさんは慎重にページをめくりながら、小さく息を吐く。


「やっぱり……。これってさ、昔からこの学校にあるって噂の『影写し帳』ってやつかも。噂では知ってたけど、マジであったのね……」


 この学校が建つ前には、大きな寺があったという。明治時代に近隣の寺と統合されてしまったが、校内にある古めかしい石垣に、その痕跡が残っている。そんな歴史もあるためか、Aさんが語るところによれば、さまざまな言い伝えが古文書にも記録されているということだ。


「……それで、『影写し帳』には、どんな言い伝えがあるんだい?」


 B君が恐る恐る聞くと、Aさんは顔を少ししかめ、


「この地域に伝わる中でも、特級の『呪い系伝説』だろうね……」


 そう言いながら、Aさんは自分のカバンからスマホを取り出した。校則で学校内に持ち込んではいけない物だけど、情報を何よりも重視する彼女にとって、データベースへのアクセス端末は必須のアイテムらしい。


「○○寺ってのは、修行の厳しさで有名なところだったんだって。肉体的な厳しさはもちろん、精神的にもかなり追い込まれるくらいの、ね。詳しいことは私にも分からないけど、まあ、今の時代だって心を病むまで追い込まれる会社員とか学生がたくさんいるわけだから、いろいろあったんだろうね」

「な、なるほどね……」

「それでね、帰る家も無いような若い僧侶が、追い詰められた上に始めだした儀式が『影写し帳』ってやつなの。僧侶が自分の苦しみを誰かに移すために、秘密を巻物に書いていたことが始まりなんだろうね。時代に合わせて形を変えたのか、今はノートになってるけど……」


 Aさんは、眉をひそめてノートを見ている。


「儀式として『影写し帳』に書かれた秘密はね、『影』として持ち主に憑いて回るんだって……」


 そこまで説明すると、Aさんは首を傾げた。

 不思議そうな目でB君の顔を見ている。


「僕の顔、どうかした?」

「あなた、今は何ともないの? 呪いの言葉で夜も眠れないとか、体調が悪くなってきたとか、いかにも呪いを受けているような感じは?」

「……別に無いけど。このノートをどうしようかと悩むくらいかな……」

「そっか……。噂通りなら、『影写し帳』の今の持ち主であるあなたは、これまでに書き込まれてきた秘密情報の負のオーラに包まれて、その呪いで大変な目に合ってるはずなんだけど……」


 不思議そうに言うAさんに対して、B君はきょとんとした顔で、


「僕が持ち主? でも、僕は何も書き込んでないよ」


 その言葉に、Aさんは納得する顔でうなずいた。

 そうして、ノートを改めて開いている。


「なるほどね……」


 そう呟くと、ノートの最後のページをAくんに見せた。

 そこには、


―ねえ、今度は君が知っている秘密を書いてよ


 と、赤い文字で書かれていた。


 週末の土曜日、B君はAさんに連れられて学校近くにある寺へとやってきた。とても大きな寺院であり、かつては学校の土地にあった寺も、ここに統合されたという。


「この寺の住職はさ、うちの家の遠縁になる親戚さんがやってるんだよね。だから、『影写し帳』のこともすぐに受け入れてもらえたんだ」


 そんな説明に、B君は納得していた。影写し帳についてAさんがやけに詳しい理由も分かったし、なんと言っても、適切な人物に相談できたことにほっとしている。

 いわくつきの「影写し帳」であるノートは、住職が厳重に封印した上で、お祓いをしてくれた。これから先、誰にも公開されることがないように管理するという。そうして、B君とAさんもお祓いを受けてから、寺を後にした。


「それにしても、あなたは運が良かったね。私に相談する前に、ノートの最後に書かれた、『今度は君が知っている秘密を書いてよ』という指示に従っていたら、今頃はどうなっていたことか……」


 Aさんは意地悪げな笑みを浮かべながら言った。

 影写し帳という言葉の意味を知れば、当然かもしれない。

 呪物とも言えるこのノートは、一度でも書き込んだ人物を新たな持ち主とみなして、影のようにつきまとう。そうして、ノートに書き込まれてきた秘密が持つ『負のオーラ』で持ち主を取り囲み、その生気を吸い続けるということだ。


 この呪いは、次の持ち主が現われるまで終わることはないと言い伝えられている。

最後までお読みいただき有り難うございます。奇譚的な短編ホラーの第二話目、お楽しみ頂けたようなら幸いです。これからも投稿を続けますので、よろしくお願いします。

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