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三題噺もどき3

動くまで

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくよんじゅうに。

 


 玄関の閉じる音で目が覚めた。


 ついで、鍵を閉める音まで聞こえる。

 すぐに車の発進音も聞こえて、母が仕事に出たことに気づく。

 あの人はエンジンをかけてから発進するまでが早い。一緒に乗っていてもそう思う。こちらがシートベルトをし終わる前に進むから、たまに車から警告が出る。

 父や私は色々と準備をしてから進むから、出るまでにそれなりに時間がかかる。

 あと、父の運転する車は砂利の敷かれているところに停めてあるので、その音がするのだ。

 まぁ、基本通勤は自転車の人だから、朝は聞こえることがない。

「……」

 しかして。

 今は何時なんだろうか。

 母は別に早番とか遅番とか行っていなかったから、たいして遅い時間でも早い時間でもないと思うんだけど……。まぁ、特に用事もないし、時間なんて気にしたところで無駄ではある。ただまぁ、いつもの癖のように時間を確認する。

「……」

 画面を伏せて置いていたスマホを片手に持ち、画面を持ち上げる。

 表示されたのは、今の時刻と、ポケモンが眠っている姿。

 ……ふむ。まぁ、起きてもいいくらいの時間だし。起きよう。

 むしろ、起きた方がいい時間だ。

「……」

 もう一度画面を伏せて置き、体をベッドの右側に向ける。反対側には本棚を置いているので、そちらから降りることは出来ない。以前は布団で寝ていたので、本棚を置いても問題なかったんだけど、ベッドをいれると、下の方が取れなくなるのが問題である。

 もう少し置く位置を考えればどうにかなりそうだが、狭いこの部屋では今の状態が正解なのだ。どうにもならない。

「……」

 そういえば、昨日は結局何時ぐらいに寝たんだろうか。

 割と早い時間に寝たつもりではいたが……まぁ悪癖が治らない限りはすんなりとは眠りにつけない日々である。こんなんもう、ほとんど無意識に始まるから止めようがないんだけど。

「……」

 あれやこれやと。

 考え始める悪癖が。

 昨夜も当然のように襲ってきて。

「……」

 数分前まで、趣味のゲームに興じていたとは思えないほどの落差だ。

 シーソーでもそんな勢いで沈んだりしないだろうに……もう少し、ゆっくりと徐々に落ち込むものだろう。しかもその先、上がることがない、沈んだままのシーソーなんて……何が楽しくてそんなものに乗るやつがいるんだか。

「……」

 良くはない、と分かっていても、止めようのないものだから質が悪い。

 とめるも何も、自分の意思だろうという感じでもあるんだけど……とめたくても止められないは、自分の意思だとは言いたくない。あんなこと、私だってしたくもない。

 考えはじめて、沈むだけ沈んで、そんな気持ちのまま眠るなんて。誰もしたいわけないだろう。

「……」

 物心ついた時から、かどうかは分からないが。

 どうにも、抱え込むことは得意な癖に、捨てたり減らしたりが不得意すぎて、話にならない。この年になって、小学校の頃の記憶を反芻して、後悔したり嫌な気分になることが、自分のしたいことなわけない。嬉しかったことはたいして抱えていないのがまた……。

「……」

 いっそ、鋏で切り貼りして、良い記憶だけでも作れたらいいんだろうけど。

 どうしたって、継ぎはぎで出来るのは、嫌な記憶ばかりだ。

 ずたずたに切り刻んでしまいたいものばかりだ。

 だからたまに。

 いっそ、包丁で刺してくれなんて思ってしまう。

「……」

 そうして、さっさと楽になれたら。

 きっと、どれだけいいだろうなんて思ってしまう。

「……」

 こんなことばかり考えるから、いけないんだろうけど。

 考え始めると止まらないのだから仕方ない。

「……」

 今朝もこうして。

 昨夜のことを思い出して。

 動く気力すらも削いでいる。

「……」

 もう、このまま動きたくない。

 いっそまた寝てしまおうか。

 あぁでも。


 くぅ――


「……」

 腹が減っては眠っても居られない。

 ……何か軽く食べよう。

 寝ている間に死ななかったんだから。

 今日も生きるしかあるまい。








 お題:抱え込む・シーソー・鋏

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