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1. 魔大陸消滅

 晴れゆく空が伝えている。


 闇で世を覆い、一切の光を奪い去った邪悪の失墜を。


 人はあまりの眩しさに目をくらませ、獣は懐かしい暖かさに喉を鳴らし、木々は降り注ぐ恵みをたらふく貪った。


 闇の軍勢が本拠地【魔大陸】、その中心部に立つ王の居城にて。




 大魔王メイザーは勇者アリアル率いる一行(パーティー)によって倒された。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


  優しい陽光が差し込む廊下を、勇者アリアルは歩いていた。


 世界樹を戴く王国クギエシロタの王城、そこにおわすダスミラ王に招集を受けたためだ。


 アリアルの足は重い。

 魔王軍に勝利した後、力を持つ勇者は過酷な仕事をこなし続けていた。魔王軍残党の掃討を主に、魔獣やはぐれ竜の討伐。その他も命の危険が伴う任務ばかり。


 休息は十分与えられてはいるが、大魔王を倒せば平和になると信じて戦っていたために、死地へ赴く激務の数々にはため息が漏れ出てしまう。


 今回の招集も十中八九それだろう。休息日の急な呼び出しに、勇者とはいえすこぶる気が滅入っていた。


「勇者殿!お疲れ様です!」


「ああ、君たちも」


 玉座の間へ続く扉を守護している警備兵たちと挨拶を交わすと、重々しい扉が開かれる。そして一歩を踏み出し、アリアルは、おや?と思い動きをとめた。


 いつもは国議を重ねている文官たちが見当たらない。それどころか、玉座に座っているはずのダスミラ王の姿もない。


 呆然としているアリアルの後ろで、勢いよく扉が閉められた。アリアルは素早く駆け寄り扉を押すが、扉で隔てた向こうに余程の怪力自慢でもいるのかビクともしない。


 しまった、嵌められたか。


 玉座の間という重要な場所を用いた大胆な目論み。奇を衒った行動に、いよいよ暗殺の計画でも立てられたかとアリアルは冷や汗を流す。


「仕方がない、ここは強行突破をするしかないか」


 心の内で王へ謝罪をしつつ、腰の聖剣へ手を伸ばしたそのとき。


 トンッと軽い衝撃とともに背に重みがかかり、途端に視界が真っ暗になった。


 目を塞がれた!?やられる!


 扉へ意識を向けすぎてしまったからか、背後から忍び寄っていた者に気が付けなかった。覚悟を決めた勇者は、次に閃く刃の音……ではなく、透き通った声が鼓膜を揺らした。


「勇者様?あなたの目を塞いだのは誰でしょうか」


 とても悪意など感じられない、綺麗な声だった。アリアルは強ばった肩から力を抜き、剣へ伸ばしていた手を下ろした。


「その声、キツヨネだろ」


「ありゃりゃ、バレちゃったね。私のことなんて忘れていると思ってたのに」


「忘れるわけがないだろう。一緒に、魔王軍と戦った仲間なんだから」


 目から手をどけて後ろを振り向けば、そこには意地悪な表情を浮かべた魚人族の少女がいた。

 青い衣装を身にまとった小柄な少女だが、侮るなかれ。戦闘能力に突出したサメの魚人であり、大魔王と魔法の撃ち合いを繰り広げた大魔法使いである。


「おいおい、ここまでしてやることが『だ〜れだ?』ってか?扉を押さえてやったんだからもっと面白いことしやがれよ」


「お前だったのかオーグレイ!扉を押さえてた馬鹿力の持ち主は!」


 開かずの扉が開かれ、窮屈そうに入ってきたのは屈強な大男。

 その怪力は巨人族を捩じ伏せドラゴンと張り合う剛力無双の戦士。あまりの力の強さに共に戦った兵士の間では人間なのか疑問死されている。


「このような事に新開発した魔法を使いたくはなかったんですが…」


「そう言いながらノリノリで隣に現れるのはやめてくれフィーネ。透明魔法ってやつかなそれ?」


 新開発したであろう透明化の魔法を解除し、アリアルの隣に現れたのは賢者フィーネ。

 華奢な体をローブで包んでいる彼女は、あらゆる魔法に精通し一行(パーティー)を支え続けた。


「まさかまた俺たちが招集されるなんてな」


「魔王軍の残党はあらかた片付けたし、今さら私たち全員が集まって事に当たるような事態になんてならないと思っていたけどね」


「それは、わしから説明しよう」


 サプライズに合わせて隠れていたのだろうか、玉座の後ろからひょっこりと頭を出す老人が一人。

 彼こそ、この王国クギエシロタを統治する国王にして、世界樹に宿る女神の言葉を受ける神託者。


 ダスミラ王その人であった。


 王の姿を目で捉え、アリアルたちは膝をつく。玉座に座ったダスミラ王は一息つくと、いよいよ招集の理由を語り始めた。


「勇者一行よ、これまでよく働いてくれた。魔王軍の残党はそのほとんどが倒され、今や国の復興を残してこの戦争は終わりとなった」


 そこでじゃ。と、王は笑顔で頷く。


「大役を任せ続けてきたそなたたちには褒美をとらせたい。褒賞授与の式典を開きたいが、準備に幾分か日にちがいるのだ。ゆえに…」



「向こう1ヶ月の休みをやる。どこへなりとも好きな所へ行き、好きなように羽を伸ばすが良い」



 その時、玉座の間の扉を守護する兵士たちは、中から発せられた大歓声にビクリと肩を震わせるのだった。




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 決戦の地。

 魔王によって二度と太陽の光が届かないはずであった魔王軍の総本山。


 極北に位置する魔大陸、その中心部にある魔王城にて。

 誰も寄りつかなくなり、瓦礫ばかりとなったその無残な跡地に足を踏み入れる者たちがいた。


「見ろテメェら!思った通りここは手付かずだ!金になりそうな物はじゃんじゃんかき集めろ!」


「うっしゃああ!さすが頭だぜ!」


「おいおい、瓦礫に混じって金塊が顔を出してやがる!こいつはガッポガポだぜぇ!」


 魔王城は大魔王の居城であったのもあり、金銀財宝や煌びやかな装飾品が揃っていた。たとえ破損していても、宝石類が散りばめられた財宝たちは素晴らしい値打ちを誇るだろう。


 人間たちにとって忌み地であるからこそ、彼らにとっては聖地となるのだ。


「あ?なんだこれ」


 次々と喜びの声が上がる中、しばらく無言で掘り進めていた団員が暗く輝く球体を発見した。

 どの財宝にも見られない複雑な紋様が刻まれた球体は、硬い黒鉄の内側に結晶体が埋め込まれているようで、それが淡い光を発しているらしい。


「へへへ、こいつも高値で売れそうだ」


 次々と出てくる球体を袋に詰めつつ、彼は売値を想像して笑みをこぼした。


「お?今度はやたら真っ黒だな、黒曜石か何かか?」


 しかし、忘れてはならない。彼らもまた人間であり、ここは聖地などではないのだ。


 一人の盗賊が何かを掘り当てた。

 黒くとても硬いそれは鋭く尖った部分もありとても危ない。さらに周囲の瓦礫をどかしてから取ろうとするも、すぐに同じような黒い表面が瓦礫の下から顔を覗かせた。


 魔王城の床材か?と盗賊は軽く叩く。



 その時、黒いそれはグリンと動き、翡翠色に輝く巨大な瞳が現れた。



「へ?」


 残念ながら、その情けなく漏らした声が彼の最後の言葉だった。


 瞳が怪しい光を瞬かせたのを起因とし、先ほど掘り出された黒い球体が一斉に紋様を赤く輝かせ、結晶体にヒビが入り始めたのだ。


 それに気がついたのはそれぞれを掘り出していた当人たちだけ。

 結晶体は次々と割れ目を広げていき、次の瞬間。




 魔大陸は眩い光とともにこの世界から姿を消した。





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