お嬢様の仰せのままに
異世界転生したならば、魔法が使える。
「そんな事を思ってた時期が俺にもありました」
どうもこの世界じゃ、魔法が使えるのは貴族様だけらしい。
そして残念ながら、俺は平民として生まれた。
「あなた、私のパーティに入りなさい!!」
平民が金を稼ぐ方法は基本的に農業、または冒険者業。当然、俺が選んだのは冒険者の方。
魔法は使えなかったが、異世界転生したのならそれっぽい事はしたかった。冒険者はまさに"異世界っぽいこと"だったのだ。
冒険者をする人達は基本的に平民だ。
「公爵家の娘である私のパーティに入れること、誇りに思いなさい!!」
しかし、何事も例外は存在する。この世界じゃ、平民が貴族に逆らうことは許されない。
つまるところ、五年間ソロを貫き通してきた俺の冒険生活は今日終わりを告げたのである。
「あなた、名前は?」
「シンバと言います」
「良いかしら、シンバ? 私のパーティに入った以上、私の指示は絶対よ」
「お嬢様の仰せのままに」
「理解が早い人間は大好きよ。今日からよろしくね、シンバ」
こうして新しい俺の冒険者生活が始まったのだが、最初からお先真っ暗状態だった。
「お嬢様、他のパーティメンバーは?」
「気に入らないから解雇したわ。私という優秀な魔法使いと敵のヘイトを受けるシンバがいれば問題ないでしょ」
問題は大アリだった。だったのだが、なんやかんや上手く行ってしまう。
お嬢様は口と態度は悪いが、魔法使いとしてはあまりにも優秀だったのだ。そして、お嬢様は調子に乗った。
「シンバ、今日はワイバーンを狩りに行きましょう」
ワイバーン。空を縦横無尽に飛び回る、巨大な竜だ。
お嬢様の魔法を数回当てれば倒せるかもしれない。だが、数回当たるまでにこちらがやられないと言う保証は無かった。
「お嬢様、流石にワイバーンは二人では無理です。せめてあと二人、いや三人は」
「シンバ、私に口答えするの?」
「......お嬢様の、命のためです」
「なら、あなたも解雇よ。私一人で行くわ」
「っ!? そんなのもっと無茶です!!」
「うるさいわよ、シンバ!! 私は公爵家の娘として、ここを引くわけには行かないの」
この頃には、お嬢さまが置かれた境遇を何となく理解できていた。お嬢様は確かに公爵家の娘だが、元公爵家の娘だ。
父親である公爵家の当主が敵国に本国の内部情報を渡す代わりに金を受け取っていたことが、明るみになった。その結果、当社とその妻は即刻処刑となって公爵家は没落した。
一人娘であったお嬢様は処刑を免れたが、当然周りからの扱いは酷いものとなった。極悪人の娘と揶揄され、通っていた貴族学園からは強制退学。
お嬢様を保護してくれるような親戚もおらず、冒険者業で稼ぐ他に手は無かった。しかし、平民にも公爵家の噂は知れ渡っていた。
どうにか噂を知らなかった冒険者達とパーティを組むことができたが、すぐに噂を聞きつけられパーティを抜けられてしまう。
結局残ったのは、最後まで噂に疎かった俺1人という訳だ。