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9.

 安静にしろと言われている三日目、タレーラン辺境伯との面会申請が通って会う事になった。

 きっとめちゃくちゃ警戒してるんだろうな、これまで前半ヒロインの令嬢の事でイチャモン同然の脅しをかけたりしたし。



 ただ王太子に嫌がらせしたいだけで、好きでもない令嬢とその周囲を脅して手に入れようとするなんて、我ながらかなり歪んだ性格してたよなぁ。

 とりあえず、今回はその事も含めて心配ない事をアピールしておかないと。



 非番なので普段の騎士の服装ではなく、貴族の服装で訪問した。

 安心させるために愛剣も置いて来たのだが……。



 招かれた執務室に入ると、辺境伯領の騎士団長を含めた騎士達が辺境伯の後ろに五人もズラリと並んでいる。

 おいおい、そんなに危険人物と思われてるって事か!?



「失礼します。タレーラン辺境伯、時間を取っていただき感謝します」



 そう挨拶すると、辺境伯だけでなく、後ろに控えている騎士達も瞠目した。

 そりゃそうか、こんな礼儀正しい俺なんて初めてだろうから。

 これまでは自分の力がないと領地も守れない奴ら、なんていう態度を隠してなかったもんな。



「ああ……、それで今回は何の話だ?」



 サッサと帰れ、そんな心の声が聞こえてきそうだ。

 だが今回はこれまでの俺と違って、ちゃんと領地に有益な事を話しにきたのだ。



「昨日少々買い物にでかけたのですが、その時領地の改善すべき大きな問題点を目の当たりにしたので報告しようと思いまして」



「領地の問題点? フン、君が?」



 鼻で笑ったよ。

 そうか、そういう態度を取るのなら遠慮なく論破してやろう。



「ええ、そのせいで領都の治安が悪化していると言っても過言ではないでしょうね。領民はタレーラン辺境伯の事を領民を使い捨てにする非情な領主だと認識しているようですし」



「なんだと……っ!?」



 (いきどお)って剣の柄に手をかけたのは騎士団長。

 この男、悪い奴じゃないけど、幼い時に助けてもらったとかで、辺境伯に心酔してて面倒なんだよな。

 しかし、辺境伯は軽く手を上げて騎士団長を制した。



「聞かせてもらおうか」



「はい。領民に召集をかけて魔物を退治した時、騎士や兵士も含めて後遺症が残る怪我をした者をどうしていますか?」



「それはもう戦力にならないのであれば外すに決まっている。怪我人を無理やり駆り出したりせんぞ」



 まるで何を言っているんだ、と言わんばかりの態度だ。

 俺はこれみよがしに大きなため息を吐いてやった。



「はぁ~……。それを使い捨てにしていると言っているのです。その怪我をした者達がその後どうやって生活をしているのかご存じですか? 元の仕事にも戻れない怪我をした者達が、です」



 今初めてそんな事を考えたのだろう、辺境伯の動きが止まった。

 騎士達も顔を見合わせている、こちらは俺がそんな事を言い出すなんて思ってもみなかったのだろう。



「それは……家族に養ってもらっているのだろう」



 目を泳がせながら答える辺境伯。



「ほぅ、家族を養っていた者がある日突然仕事ができなくなるのですよ? 私が見た者は職人だったのに怪我のせいで仕事をなくし、妻が夫と子供達を養うために働いて身体を壊した家族でした。魔法薬を買いたくても代金が足りず、薬屋の店主に追い払われようとしていましたね」



 この世界に保険会社なんて物は当然ない、社会福祉なんかも全然ないし、生きていけないなら野垂れ死ねといわんばかりに命の価値が軽いのだ。



「それで?」



「騎士や兵士なら退役(たいえき)する時にある程度の慰労金が渡されるでしょう、しかし一般の領民には何の救済措置もないのです。それでやさぐれて周りに迷惑をかける者がどれだけいることか。せめて貧民街(スラム)に無料で治療を受けられる施設を作るなり、タレーラン(・・・・・)辺境伯の都合で(・・・・・・・)後遺症の残るような怪我をした者には、後遺症があってもできる仕事を斡旋(あっせん)するとか、考えられる救済措置はいくらでもあるでしょう?」



 半分説教になってしまった気もするが、ツラツラと考えをぶちまけた。



「そ、それはヴァンディエール騎士団長の考えかね?」



「? そうですが。まぁ、他領の事に口を出すなと言われればそれまでですが、この先タレーラン辺境伯領の治安が悪化の一途をたどるのが目に見えていたので進言させていただきました。今回の用件はそれだけです」



 全て言いたい事は言ったので、最後にペコリと頭を下げたのだが、タレーラン辺境伯は変な顔をしている。



「それだけ……? 娘に関する話はないと?」



「はい、今後は私から令嬢に関わる事はないでしょう。ですが……、いえ、なんでもありません」



 将来聖女が現れたらパワーバランス的にあんたの娘が側室になりますよ、なんて余計な事は言わなくていいか。

 小説だと王太子と聖女の結婚の障害にならずに済んだから、令嬢が純潔を散らされていてよかった、なんて言う貴族もいたからな。



 実際ヒロインが二人そろった状態だと、きっと聖女が正妃で令嬢が側室にされると思うんだよな。

 王太子(主人公)もあっさり聖女に惚れてたしさ。



「なんだね、何か言いたい事があるのなら言いたまえ」



 犯人は俺であって俺でないけど、小説の中で大変な目にあった令嬢には幸せになってほしいとも思う。

 今から正妃のポジションを守れるようにタレーラン辺境伯が動けば、もしかしたら何とかなるのだろうか。



「……ここ数年で魔物の数が異常だと思いませんか? もしかしたら聖女が現れるかもしれません。正確には聖女が必要な状態に(おちい)るというべきでしょうか」



「まさか……!」



「まぁ、魔物は我々がどうにかするとして、問題はご令嬢の事です」



「聖女と娘に何の関係があるというのだ! 我が娘が聖女だとでも!?」



 執務机を拳でドンと叩くタレーラン辺境伯。

 それだったら何の問題もないんだけどな。



「いえ、聖女が現れたら王太子の正妃とすべく王家は動くでしょう。ご令嬢を側妃という立場にしたくなければ、今から根回しをしておく事をおすすめします」



「いったい何を企んでいる!?」



 これまでの俺の行動のせいだけど、段々面倒になってきた。



「ここ数日色々ありまして、これまでの行動を反省したのですよ。信じられないのも仕方ありませんから、今後の行動を見て判断していただければと。では失礼します」



 俺の反省している宣言にポカンとした隙に、そそくさと執務室から脱出した。

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