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88.

 そういえば事前に話すつもりだったが、エルネストとの話し合いが長引いたせいで陛下に報告できていない事があったな。

 今を逃すとズルズル先送りになりそうだから、ここで言ってしまおう。



「陛下、今回の魔物騒動とは別に報告があります」



 魔物騒動とは別に、と言うと陛下の眉がピクリと動いた。

 王都に戻って来てからドラゴン探しの件の報告を受けていない事に気付いたのだろう。

 優先順位的にそんな事話している余裕もなかったしな。



「ほぅ、朗報が聞けると期待していいのか?」



「はい。ジェスの母親と接触し、従魔契約をしました」




「なんと! 協力だけでなく従魔契約とな!? でかした!!」



 再びどよめく謁見の間。

 ジェスと従魔契約した時ですらあれだけ騒がれたんだ、そりゃ驚くよな。

 だがもう一つの報告もかなり驚かれるだろう。



「それから……、ジェスの母親の鱗という素材目当てのドワーフ達が数名……ヘタすると数十名王都に移住してきます」



「は……?」



 かろうじて声を出したのは陛下、他の者は全く予測していなかった内容のせいか、ポカンと口を開けて言葉を失っていた。

 そりゃそうだろう、エルフと並んで伝説級の種族な上、素材の鉱石を求めて山奥に住んでいるせいで出会えるのは奇跡的な事なのに、集団で移住しに来るというのだから。



「彼らには職人として働いてもらうとして、ジェスの母親含めて住む場所を提供しなければなりませんが、いかがいたしましょう」



「ま……、待て待て! ジェスの母親とドワーフの集団が王都に住むだと!? そんな前代未聞な事が……」



 こんなに動揺している陛下の姿は初めて見た。

 俺はすでにドワーフ達と顔を合わせているせいで感覚がマヒしているが、そうだよな、普通はこれくらい驚く事だよな。



「邪神の復活が近いというのなら、武器も強化する必要があるでしょう。彼らはその大きな助けとなります。……それで住居はいかがいたしますか?」



「ふむ……、ドワーフを平民の職人達と同じ扱いにするわけにもいくまい。以前より第三騎士団の見習いを第二騎士団で世話をしているのはおかしいという意見があっただろう。そのために第三騎士団の敷地内に見習い用の宿舎を建設しようという計画があったが、ちょうどいい、予定より大きくしてドラゴンやドワーフ達がそこに住めるようにすれば問題ない。ジェスが母親に人化を習って人族の姿になっているのは聞いている、という事は母親も人の姿になれるのだろう?」



「お待ちください! 見習い達を第二騎士団に預けてあるのは、第三(我々)が頻繁に遠征に行くために面倒を見きれないからです。それにまだ幼い見習い達がドワーフ達と一緒に生活というのはどうかと思いますが」



 できれば勘弁してほしい。

 俺達が遠征に出てしまった時に放置されてしまう見習い達が可哀想だ。



「ドワーフ達が来るのならば工房を拡張せねばなるまい、となれば住居を新しく建てる場所が足りんのだ。その点第三騎士団の敷地には余裕がある上、元々建築予定の場所があるのなら少々大きく作るだけで済むだろう。それに第三騎士団であれば工房から場所も近い、ドワーフ達を毎日馬車で送迎するわけにもいくまい? 見習い達の世話に関しては、第三騎士団の人員を増やして交代で王都に常駐させればよい、今回の騒ぎで反対する者はおらんだろう」



 いっそドワーフ達は王宮に住まわせて毎日馬車で送迎してやってくれ、そう言いたかったが王命であれば拒否はできない。

 見習い達に関しては、人員が増えるのであれば怪我のリハビリ中の者達が世話役というか、指導役という役目ができるからそれはそれでアリなのだが。




「安心せよ、食堂はともかく普段の生活場所に関しては区分けをすればよいだけだ。ジェスの母親はドラゴンとはいえ、女性を現在の宿舎に住まわせるわけにはいかんだろうが、すぐに会える距離の方がよいだろう。それに将来自分の武器を打ってくれる職人と仲良くする事は、見習い達にとってもよい事ではないか? 重心や動きのクセを知っている一流の職人なんぞ、出会えるだけで幸せというものだ」



 陛下のいい分は尤もで、ぐぅの音も出ないほど正論だ。

 俺の言いたい問題点を先回りして潰すなんて、さすが名君と呼ばれるだけはある。

 オレールはすでに観念して受け入れた顔をしているしな。



「陛下の仰せのままに」



 その後はジェスがいたら寝てしまいそうな退屈な報告会となり、解放されたのは昼前だった。

 第三騎士団に入る事を諦めてなさそうなエルネストに捕まる前に、俺とオレールは早々に王城を出発した。

 俺が徒歩なため、オレールも馬の手綱を引いて歩いて帰っている。



「まさか……、王太子が第三に入りたいなんて言うとは思いませんでしたね」



「ああ、俺も耳を疑った。だが魔物と戦う戦力としては問題ないどころか、第三の精鋭部隊と同等の実力があるのは認める……が、入れるのはごめんだな」



「ただでさえ遠征から戻ったら聖女様が第三で訓練するとか言ってましたからね、そこへ王太子まで受け入れたら絶対に面倒な事になるじゃないですか」



「あ……、そういや聖女が鍛えてほしいって言っていたな。急いでいるだろうし、明後日くらいには王都に到着するか? 第三の増員もしなきゃならないし、休養日が終わったらなんだかんだ忙しくなりそうだな、ハァ……」



「そうですね、ですが……まずは束の間の休息をしっかり味わいましょう」



 俺達は面倒事から全力で目を背け、休みに何をするかという話をしながら宿舎に戻った。

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