表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/217

85.

「今度来る時は第三騎士団で食べられている料理のレシピを持って来てやる。ちょっとした手間でかなり美味くなるからな」



 帰り際、エレノアに乗ってそう告げると、ロドルフはニヤニヤと笑って口を開いた。



「へぇ、前は飯なんて食えればいいって感じだったのに、やっぱり随分変わったな。ああ、そうそう。花街の(おんな)達が最近ジュスタンが来ないって嘆いていたぞ。たまには遊びに行ってやれよ」



 花街、という言葉が出た瞬間、とっさにジェスの耳を塞いだ。

 ジェスはキョトンとしていたが、まだ子供のジェスには聞かせたくない話だからな。



「ジェスがいるんだから言葉に気を付けろ。しばらくは部下達やジェスの相手で手いっぱいだと伝えておいてくれ」



「ククッ、その姿を娼達(あいつら)に見せてやりたいぜ。随分過保護じゃないか」



「…………もう少ししたらジェスの母親が王都に来ると言っただろう。その時妙な事を教え込んだと知ったらどんな行動に出るか俺にも予想はつかないからな?」



 ジトリとした目を向けると、ロドルフはキュッと口を引き結んだ。

 どうやらジェスはともかく、まだ見ぬジェスの母親の事は恐いらしい。

 成体のドラゴンだもんな、普通の神経であれば間違いなく恐怖の対象だろう。



「なぁに~? どうしたの~?」



 耳が塞がれているせいか、いつもより大きな声で聞いてくるジェス。



「いや、ロドルフが悪い言葉を使ったから、ジェスに聞かせたくなかっただけだ。さぁ、宿舎に帰って食事にしよう」



「うん! じゃあね、ロドルフ!」



 耳を塞いでいた手をどけて帰宅を告げると、ジェスは嬉しそうに頷いた。

 そういえばまだ陛下にジャンヌとドワーフの一団が王都に来ることを報告してなかったな。魔物騒ぎも一段落した事だし、明日にでも報告しておくか。



 王都に戻って来てから魔物の討伐を優先したせいで、騎士団内でしか連絡のやり取りをしていない。

 第一騎士団を通じて俺達が王都に戻っている事は陛下も知っているだろうが。



 とりあえず殲滅完了の報告は第二騎士団からされているだろうし、今日はゆっくり休ませてもらおう。

 宿舎に戻ってエレノアの世話をし、平服に着替えて食堂に向かった。

 食堂には魔物の回収作業を終えたばかりの部下達がひしめき合っている。



「あっ、団長おかえり! 冒険者ギルドに話は通ってたけど、随分帰りが遅くないか? 貧民街(スラム)の方へ向かうのを見たって第二の奴らが言ってたけど、まさか一人だけ楽しんできたなんて事は……」



「…………」



 シモンがジトリとした目を向けてきたが、俺は無言のゲンコツで答えた。



「ぐあぁぁぁっ」



 コツッという骨と骨がぶつかる音がして、シモンは頭を抱えて身をよじる。

 音こそ小さいものの、いつものように第二関節を立てて殴ったからさぞかし痛いだろう。



「ジェスがいるんだからバカな事を言うんじゃない。ロドルフと情報交換してきたに決まってるだろう」



 俺の隊の部下たちは全員ロドルフを知っている、あとは貧民街(スラム)出身の部下達も。

 ロドルフの名前が出てソワソワしているカシアスもその一人だ。

 ジェスになぐさめられているシモンを放置して、料理を取って来てカシアスの前に座る。



貧民街(スラム)は何の被害もなかったから安心しろ。ロドルフも相変わらず元気そうだったぞ。今度こっちの食堂で作られているレシピを届ける約束をしたから、カシアスが届けてくれるか?」



「もちろん! きっと美味くて驚くだろうなぁ」



 新しい調理法の料理を食べたロドルフを想像しているのか、カシアスは天井を見てニマニマと笑っている。



「これだけ活躍したんだから、騒ぎが収まったらまた休養日ももらえるだろう。もらえなきゃ交渉するつもりだけどな」



「頼んだぜ団長! できれば一週間くらい休みたいなぁ」



 俺達の話を聞いていたロッシュ隊のアルバンが通りがかりに要望を口にした。



「何を言っている。俺達が山の中を延々と移動している間、お前達は平和な領地でのんびりできただろう? 実質それが休養みたいなものじゃないか?」



「それこそ何言ってるんだよ! 俺達が派遣された領地なんて名ばかりの騎士ばっかで、冒険者に舐められていたせいで大変だったんだぜ! 暴れてる冒険者に何も言えずに見て見ぬふりしてたから、俺達まで腑抜け扱いされて」



「ちょっと待て、まさかそれで騒ぎを起こしてないだろうな」



 あれだけ事前に面倒を起こすなと言い含めてあったのに、やらかしたのかとアルバンを睨むと慌ててロッシュが駆け寄って来た。



「大丈夫ですよ! ちゃんと近くにいた現地の騎士に鎮圧の許可をもらったので! なんというか……、第三の中では弱いという認識だったロッシュ隊(我々)ですが、向こうではその……、随分と上位実力者扱いをされてみんな自信を持てたようです。数日でしたが領主の依頼で現地の騎士達の指導までしてきましたし、領主からの印象はいいはずです」



 実際ロッシュ隊は魔熊が複数いたら苦戦する程度の実力だが、騎士全体からしたらかなり上位だろう。



「それなら大丈夫か、ご苦労だったな。一週間の約束はできかねるが、数日の休養日はもぎ取ってきてやろう」



「やったね! さすが団長!」



 俺達の話を聞いていた周りの部下達も、数日の休養日と聞いて喜びの声を上げた。

 しばらく騒がしかったから、一喝して黙らせたけどな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ