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75.

エルネスト視点です。

 タレーラン辺境伯領にて、ヴァンディエール騎士団長率いる第三騎士団がスタンピードを未然に防いだ。

 そんな報告が届いたあの日から、このラフィオス王国の王太子である私の人生が歪み始めたと思う。



 最初に王である父上が、ヴァンディエールを叙爵すると言い出した。

 私は学院時代からの奴の行動を見てきている、それらを並べて反対すると、父上も褒美だけにすると考え直してくれて胸を撫で下ろした。



 ヴァンディエールは初対面の時からなぜか私に敵意を持っており、ことあるごとに突っかかってくるせいで顔を合わせる事が多い。

 ただでさえ傍若無人な振る舞いをしているというのに、爵位まで得てしまっては手が付けられなくなるのは目に見えていた。



 実際私の婚約者であるディアーヌは、学院時代から奴に付き纏われて困っているが、これまで貴族の子同士という対等な立場だから毅然と断る事もできたのだ。



 それが爵位を持った相手となると、あくまで婚約者という立場で、まだ王族となっていないディアーヌでは強く出られなくなってしまう。

 そう心配していたというのに、タレーラン辺境伯領から戻って久々に登城したヴァンディエールを見て驚いた。



 以前の荒んだような、わかりやすい私に対する悪意を向けてこなかったのだ。

 だが王である父上の前だから演技をしているのだろう。

 奴が邪神の欠片だという石を持って王都に戻ると報告を聞いた時、私と同じくヴァンディエールをよく思っていない神官長に連絡をして鑑定を依頼した。



 それなのに、神官長は邪神の欠片が本物だと言う。

 これでスタンピードを未然に防いだというのは、偽りではないと証明されてしまった。

 しかもヴァンディエールは手柄は自分ではなく部下のものだと主張した。これまでの奴なら、部下の手柄であろうと間違いなく勝ち誇った顔で自分の手柄のように言ったはずだ。



 確かに父上に宛ててタレーラン辺境伯から届いた報告書には、ヴァンディエール騎士団長が変わったと書かれていた。

 ディアーヌにも同様の手紙が届いたらしい。だが我々を油断させるために演技しているに違いない、信用させたところでまたディアーヌにちょっかいをかけるのだろうと確信していた。



 その日、晩餐に招待されたヴァンディエールと副団長が謁見の間を出て行ってすぐに、サロンにいるとあたりをつけて向かうとヴァンディエールが侍女の手を捕まえているのが見えた。

 奴は時々ああして難癖をつけては無理やり侍女や令嬢に手を出していると聞いている、私はサロンに飛び込んでヴァンディエールから侍女を引き離した。



「あ、あの、王太子……」



「心配しなくていい、私が来たからにはもう大丈夫だ」



 おずおずと話す侍女を安心させるように微笑んだ。

 しかしそんな私を見て、ヴァンディエールはバカにしたように口を歪めていた。



「何がおかしいっ!?」



 何の反省もしていない様子に、カッとなって思わず声を荒げてしまった。

 いつもなら睨みつけながら嫌味のひとつも言ってくるところだが、なぜか落ち着いた様子で淡々と私に意見してきた。



「いえ、人の話をきちんと聞かない為政者に未来はない……と思ったまでです。思い込み、独りよがり、都合の悪い話を聞かない、これらの条件を満たす王は独裁者と呼ばれるのですよ? 状況判断は確認が大切です、思い込みで行動すると取り返しのつかない事になりますからね」



 この後も奴は私がいかに間違っているか、侍女に優しく語りかけた私の物言いが、私の望む答えを強要しているなどと言い出した。

 確かに一理ある事を言っているとは思う、普段なら私の意見に同調してくれる側近ですら言い返す言葉を失っている。



 今この時だけを見れば、正論を言っているのはヴァンディエールだった。

 だがこれまでがこれまでだ、何か企んでいるに違いない。

 これからも見張っていると宣言してサロンから出た。



 なぜだ、なぜヴァンディエールはああも人が変わったようになっている!?

 まるで以前と立場が逆転したような先ほどの状況に、恐怖のようなものを感じて動揺した。

 そんな私に追い打ちをかける事が、その日の晩餐の前に起こった。



 ディアーヌの侍女が先ほど見たヴァンディエールの上着を大切そうに持っていたのだ。

 奴が侍女に上着を貸すはずがない、となればディアーヌが上着を借りたという事になる。

 実際食堂でディアーヌがヴァンディエールにお礼を言っていた。



 その光景に頭を殴られたような衝撃を受けた。

 あれほど嫌がっていた、むしろ嫌悪していたヴァンディエールに上辺ではない笑顔を見せている。

 晩餐の間もヴァンディエールが話題の中心で、両親を始めその場にいる全員に好意的な印象を抱かせる話ばかりだった。



 あれだけ私が反対した叙爵の話も再び父上から出たほどだ。

 しかしこの時も謁見の間と同じように、手柄は部下のものだからと辞退した。

 みんなを騙せても、私だけは騙されないぞ、人の本質がそう簡単に変わるはずはないのだから。



 学院に入学した十二歳のあの日から八年間、何度邪魔され、嫌がらせを受けてきたのか数えられないくらいだ。

 みんな以前のヴァンディエールを忘れたかのように笑顔で話している姿を見て、早急に手を打たなければ危険だという焦りが生まれた。



 そんな時、ディアーヌと侍女が拉致されそうになったという報告が届いた。

 同時に神官長からヴァンディエールがその場にいた(・・・・・・)という情報が、証拠と共にもたらされた。

 ディアーヌ達からはヴァンディエールは犯人ではないという言葉が出たが、そんなもの自作自演で恩を売ろうとしたに決まっている。



 今後のためにも、ディアーヌを護るために、この機会に王城から消えてもらう必要がある。

 そう思って確実な証拠は無い状態で裁判に持ち込んだ。

 騙されているディアーヌは、申し訳なく思いつつも邪魔をされないために軟禁させてもらったが、抜け出すという無茶をするくらいならきちんと説明すべきだった。



 結果的に拉致に関しては騙されたのは私の方で、ディアーヌが言っていた事が正しいとわかったのは裁判が終わった時。

 その後私に待っていたのは、両親からの説教と軟禁生活というものだった。



 軟禁した裁判の日以降、謝罪を受け入れてくれたものの、ディアーヌが私に対して妙に事務的な態度を取るようになったと思う。

 もしやヴァンディエールはここまで計算して行動していたのだろうか。

 ヴァンディエールに(おとしい)れられた、この時の私は本気でそう思っていた。


エルネスト視点数話続きます。

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