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73.

 翌朝、無事にシモンを斬り刻む事もなく目を覚ました。

 ジェスは朝の内に戻って来るだろうか、もしかしたら久々に母親に会えたから、ゆっくりしたいのかもしれない。



 俺の隊の唯一の従騎士であるマリウスは、建前上俺の世話をするからと同じテントで過ごしているが、普段は特に世話も必要ない。

 そのせいか、今は朝食の準備をするために早々にテントから出て行ったようだ。



 身支度を整えてテントの外に出ると、太陽が山にたち込める朝(もや)を照らす幻想的な風景が視界に入る。

 広場の端では従騎士(スクワイア)達や、聖騎士と聖女が朝食の準備をしていた。



 目が覚めたし、せっかくだから朝食作りの手伝いでもするか、そう思って移動しようとしたら、視界が陰った。

 太陽の方を見ると、旋回するように飛んでいる二体のドラゴン。

 どうやらジェスと母親が来たようだ。



 俺達の真上まで来ると、本来の大きさになっているジェスより、母親の方が二回りほど大きいのがわかる。

 このまま着地されたら騎士達が全員潰されるのでは、と心配になっていると、二体の鳴き声のような呪文が聞こえて再び太陽の光が広場を照らす。



 二()は人化して広場に降り立った。

 逆光でよく見えないジェスの姿が、走って近付いてくるとハッキリ見える。

 人化したジェスの姿を見た俺は、見たモノが信じられずに思わず膝をつく。



「ジュスタン! ボクお母さんに人化の魔法教えてもらったよ!」



 そう言って無邪気に抱き着いたジェスを抱きしめ、俺は溢れる涙を止められなかった。



陽向(ひなた)……っ!」



 二度と見る事はできないと思っていた弟の姿をしたジェスを抱きしめたまま、俺はしばらく動けずにいた。

 どうしてジェスが陽向の姿をしているのかという疑問が言葉になって出て来ず、これは陽向ではなくジェスだと自分に言い聞かせるのにも時間が必要だった。



「坊やはお主の記憶に引っ張られてその姿になったようだな。よく知っている者の姿ではないのか? 従魔契約をしておる場合、(あるじ)の関心を引くために主の記憶にある人物になるというのはよくある事らしい。特に二度と会えぬ者の姿にな」



 ジェスの後からゆっくり歩いて来た母親が話しかけてきた、そしてジェスが弟そっくりな理由がわかった。



「グス……っ、そうだな……、とてもよく知っている姿だ」



 五男の陽向は十歳だった、兄弟の中でも俺と一番似ていたから、前世の俺の小さい頃のようだとも言える。



「ジュスタン、ボクが人化して嬉しい?」



 無邪気な笑顔で笑いかけるジェス、その屈託のない笑顔は正に陽向そのままだ。



「ああ、嬉しいよ」



「嬉しいから泣いちゃったの?」



 瞬きした瞬間流れ落ちた俺の涙を、ジェスが手で拭った。

 俺はジェスの問いに答えられず、微笑んで誤魔化す。

 もしかしてジェスが成長したら、その分成長した陽向の姿も見られるんだろうか。



 頭を撫でると、頭の形も陽向そのままで、再び涙が込み上げてきたところで……気付いた。

 ジェス達が上空に現れた時点で、朝食の準備をしていた従騎士(スクワイア)達だけでなく聖騎士や聖女までジェスと母親に注目していた事に。



 つまりは……俺の人化したジェスを抱きしめたり、泣いたところを全て見られていたという事だ。

 全員がポカンとしたまま固まっている。

 何か言い訳を考えるより先に、俺の口が勝手に動いた。



「貴様ら何を見ている!! さっさと準備を終わらせろ!!」



 怒鳴ると蜘蛛の子を散らしたように全員作業に戻って行った。

 が、しかし入れ替わるように、テントの中からぞろぞろと他の部下達が出て来た。

 どうやらさっきの怒鳴り声が聞こえてしまったらしい。



「うぉっ!? もしかしてジェスか!?」



「あっ、シモン! おはよう! 見て見て! ボク人化魔法覚えたの!」



 ジェスが俺から離れてシモン達のところへ走って行った。

 みんなの視線がジェスに集まっている隙に、濡れた自分の頬を手で拭って立ち上がる。



「ふふ、坊やは他の者とも話せて楽しそうだな。お主の事やあのシモンとかいう小僧達の事も昨夜は楽しそうに話していた。……そうそう、お主が作った菓子も一緒に食べたがなかなかに美味だったぞ。よい魔力をしているではないか」



 ぺろりと舌なめずりをするジェスの母親、やはり菓子本体の味よりも魔力の味の方が重要らしい。

 それにしても、ジェスが俺の魔力を美味いと言うのは、てっきり従魔契約しているせいだと思っていたが違うらしい。



「だったら一緒に王都に来るか? 毎日ではないがジェスのために時々菓子を作っているからな」



「ふむ、それも悪くない……、坊やとも離れずに済むしな。ああ、妾が巣を離れるとなると、この集落に危険が及ぶかもしれんな、定期的にここまで飛んで来るのも面倒だしどうしたものか……」



「決まったら教えてくれ。王都の門番に告げるか、王城に来てくれればすぐに迎えに行く。もちろんジェスと一緒にな。俺達は朝食後に出発してしまうが、王都で待っているぞ」



「ならば本気で考えてみよう。長と少々話し合わねばならないだろうが」



 そう言ってジェスの母親はドワーフの長の家に向かった。

 朝食時、人化ジェスの姿を見て泣いた事を知っている者達が、ジェスのあまりの可愛さに感動して泣いたと勘違いしているのを知ったが、本当の事を言えずにグッと拳を握って耐えた。

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