72.
「とりあえず自己紹介をしよう。改めてジェスの母上にドワーフの長よ、俺はラフィオス王国第三騎士団の団長でジュスタン・ド・ヴァンディエールという。あ……、ジェスというのはそのドラゴンの子供に俺がつけた名前だ」
「ほぅ、おぬし蒼のの息子と従魔契約を交わしたのか」
ドワーフの長は、俺とジェスを交互に見て言った。
「なぜそれを……」
「ふっ、儂くらいになればそれくらい……」
「これ、嘘をつくでない。長には坊やを探すために、妾がドラゴンの能力を一部使えるようにしてあるのだ。そうせねば坊やを見つけても会話ができぬであろう?」
ジトリとした目を長に向けると、長はサッと目を逸らした。
もしかしてドワーフの長はお調子者なのか?
「なるほど……、だから俺にしかわからなかったジェスの言葉がわかったんだな。俺達はジェスの母上、あなたに話があってやって来たんだが、時間をもらえるだろうか。こちらの大神殿から来ている聖騎士団長と聖女も一緒に」
「よかろう。では長の家の一室を借りようかの。よいか?」
「ああ、かまわんよ。さすがにここにいる全員は入れんがな。家に来ない者達は、この集落に宿屋はないからそこの広場で野営の準備でもするといい」
そう言って長は俺達に顎でついて来いと促した。
「全員そこの広場で野営準備を始めるように! 俺とアクセル団長と聖女はジェスの母上達と話し合いをしてくる! ……マリウス、愛馬を頼んだ。ここまでよく頑張ってくれたな、ゆっくり休むんだぞ」
後方の聖騎士達からはジェスの母親は見えていない、そのせいか妙にソワソワと動いているのが見えたが、改めて聖騎士達にはアクセルが指示を出したのですごすごと広場の方へと向かった。
アクセルも馬を部下に預けたので、俺達は歩いて長達について行く。
聖女が自分も褒めてほしいとばかりにこちらをチラチラ見ていたが、俺が褒めたのは馬の方のエレノアだ。
そっちはそっちの騎士団長に褒めてもらえ。
石造りの家の中は意外にもこじゃれた小物が飾ってあったりして、とても落ち着く内装だった。
てっきり質実剛健的な、殺伐とした武器とか飾ってあると思っていた。
応接室のような部屋に通されると、長はお茶を持って来ると言って部屋を出て行った。
『お母さん、ボクに人化の魔法教えて!』
「ああ、では夕食の後にでも教えてやろう。今夜は巣に戻って休むか?」
『う~んと、え~っと……』
ジェスが俺を気遣っているのか、母親と交互に俺を見ている。
「久しぶりに会えたんだ。今夜くらいゆっくり甘えてくるといい」
『うん、わかった! だけどね、ボクもう赤ちゃんじゃないからそんなに甘えないよっ』
「そうか、ジェスはもう十歳だもんな」
内心、少しは甘えると白状しているじゃないかと思いつつも、気付かないフリをして頷いてやった。
その後、長が戻って来てから二人に邪神の復活の話をし、ジェスの訴えもあって協力してくれる事を約束してくれた。
やはり聖女の存在は邪神の復活の予兆として認識していたようで、あっさりと信じてもらえた。
話し合いの後はジェスとジェスの母親が離れてからのお互いの状況を報告し合い、このドワーフの集落には以前からジェスの母親が自身の鱗を対価に、色々と必要な物を手に入れに来ていたらしい。
どうやら王都のボスコが滞在していたのも、この集落だったようだ。
俺の剣を見てそれなりの剣だと評価したので、ボスコの事を話したら長が覚えていた。
他にも雑談ついでに情報交換をし、俺達は広場の野営場所に向かう事になった。
「それじゃあ、明日の朝にな。この中に菓子が入っているから、一気に食べるんじゃないぞ?」
『うん! ジュスタンありがとう! お母さんに食べさせてあげるんだ! これを食べたらお母さんもボク達と一緒に王都に行くって言ったりして、うふふふ』
「その場合は歓迎しよう」
ジェスは満足そうに笑うと、菓子の入った袋を抱えて母親の所へ飛んで行った。
…………朝にはちゃんと戻って来るよな?
広場に到着すると、すでに野営の準備は終わっていた。
聖女がいなかったというのに、どうやら聖騎士達の食事の準備も終わっているように見える。
「団長お帰り! さっきドワーフ達が来てさぁ、俺達の武器チェックしたり、料理手伝ってくれたりしてたんだぜ。そんで……、エリオット隊のエリオット以外は剣を持って行かれちまった。聖騎士なんか全員持って行かれたんじゃないか? 手入れするって言ってたけどよ」
ガスパールが説明しながら肩を竦めた。
恐らくボスコの腕ならともかく、一般の人族の職人のレベルでは粗悪品にしか見えなかったのだろう。
まさか俺達のより質がよくなって戻ってきたりしないよな。
「まぁ、この集落の中であれば安全だろう。食事が済んだら早々に今夜は休もう、ジェスは母親のところだし、久々に静かな夜になりそうだ」
「えっ!? ジェスは母ちゃんのところなのか!? 団長~、今夜は寂しくて眠れないんじゃねぇの~? オレが添い寝してやろうか~?」
会話を聞いていたシモンがバッとこちらを見たかと思うと、ニヤ~っと厭らしい笑みを浮かべ、クネクネと身体をくねらせた。
「命が惜しくなければ今夜、俺のテントに来るがいい」
「はい、ごめんなさい」
真顔で答えてやると、シモンは九十度に腰を折って頭を下げた。
別にちょっと寂しかったからムキになったワケではない。