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71.

「ふわぁ……」



「お、団長がアクビするなんて珍しいな」



『昨夜お母さんが来たから起きちゃったもんね! でもボクは眠くないよ!』



「ん~? もしかしてジェスが夜中に騒いで団長を起こしたのか~?」



 野営場所を引き払っての移動中、ジェスの訴えを勘違いしたシモンが俺の背中に顔を近付け、揶揄(からか)うように話しかけた。



『ちがうもんっ! シモンはボクの言う事全然わからないよね。わかる魔法があればいいのに』



「ははっ、ジェスは違うと言って怒ってるぞ。そうだなぁ、ジェスも人化魔法を使えたら普通にみんなと話せるかもしれないな」



『じゃあボク、お母さんに人化魔法教えてもらうね!』



「ああ、楽しみにしてるよ」



 シモンは俺の背中でピーピーと鳴くジェスを交互に見ながら、パチクリと瞬きを繰り返した。



「え? え? どういう事? もしかしてジェスって魔法で人間になれるとか!?」



「そういう事だ。だが母親に魔法を教わらないといけないらしいがな」



「うわぁ……、ジェスが人間になったらどんな見た目なんだろうな。髭面のオッサンだったりして」



 勝手に想像してシシシと笑うシモン。



「ジェスは十歳だぞ。声も子供のものだから、恐らく子供の姿だろう」



 十歳か……、弟達も十歳までは素直で可愛いんだよな。

 ちょうど十歳だった五男の陽向(ひなた)は素直だったけど、四男で十三歳の悠斗(ゆうと)は生意気だったもんなぁ。



 ジェスはやっぱり昨夜の母親のように、美形な子供になるんだろうか。

 大体物語に出てくる人化したドラゴンって美形なのがお約束だもんな、どんな姿になるのか楽しみだ。

 昼の休憩も終わり、移動を続けていると、ある事に気付いた。



「魔物が出ないな……」



「本当だ、確かに今朝くらいから魔物を見なくなったね。昨日まではそれなりにいたのに」



 アルノーがキョロキョロと辺りを見回す。



『お母さんの気配が濃いからだと思うよ! 巣にいた時も魔物なんか来なかったもん』



 見えていないが、ドヤ顔で言っているのがわかる。



「なるほど、ドラゴンの気配が濃いと魔物が寄って来ないのか……ん?」



「はははっ、じゃあジェスはドラゴンじゃないって事になるじゃねぇか!」



 あっ、ちょっと思ったけど言わなかったのに。



『それはまだボクが子供だからだもん! 百年して成体になったら来なくなるもん!!』



 シモンの言葉にひときわ大きく主張するジェス。



「おお? いっちょ前に怒ってるのか?」



「百年して成体になったら変わるらしいぞ。ドラゴンは百歳が成体になる年齢なんだな」



 そういえばドラゴンの詳しい生態なんて知らなかったな。家庭教師からも、学院の授業でも聞いた事がない。

 恐らく知っているのは学者くらいだろう。



「百年……、ってことはオレ達が生きている間に大人になる事はないのか。だけど今でも本来の大きさに戻ったら、かなりの大きさだよな? 成体のドラゴンってどれだけ大きいんだ?」



 確かに昨夜見たジェスの母親はかなり大きかったように思う、すでに上空にいたから正確な大きさはわからないが。

 それにしても……、そうか、俺はジェスの成体を見る事ができないのか……。



 しんみりとそんな事を考えていると、不意に視界が変わった。

 さっきまで鬱蒼(うっそう)とした山道が続いていたはずなのに、いきなり丸太の外壁がある集落の前に出ていたのだ。

 その門の前に(たたず)む一人の美女。



「待っておったぞ。ドワーフ達には話を通してあるゆえ、そのまま集落に入るがよい」



「誰だ……? すっげぇ美人」



 シモンがポカンと口を開けたままになっている。



「ジェスの母親だ。妙な考えは起こすなよ」



「へ? え? えぇっ!? ジェスの母親!? って事はこの美人はドラゴンなのかっ!?」



「ジェスちゃんのお母さん!? どこですかっ!?」



 シモンの無駄に大きな声は、後方の聖女の耳にも届いたようだが、第三の騎士達に隠れて姿は見えていないようだ。

 ジェスの母親は小さく笑っただけで、そのまま集落の中に入って行った。



「とりあえず入るぞ」



 第三の騎士達が進んだからか、聖騎士達もちゃんとついて来ているようだ。

 門を越えた瞬間、カーンカーンと槌の音があちこちから聞こえ、建物も百軒以上ありそうだった。

 そして何と言っても、そこにいる人達……本物のドワーフが普通に歩いている。



 ドワーフの集落なのだから当然なのかもしれないが、授業で習った通りのずんぐりむっくりした体型。そして男女の区別が俺達にはつかない、つまりは女性にも胸元までの長い髭が生えているのだ。

 確か髭が生えていないのは子供だけだったはず。



「おお、蒼の! そいつらが言っていた奴らか!」



 辺りを観察していると、一人のドワーフが声をかけてきた。

 蒼の、というのは恐らくジェスの母親の事だろう、ドラゴン姿の時は綺麗な蒼だったからな。



「そうだ。坊や、ドワーフの(おさ)に顔を見せてやっておくれ。いなくなった坊やの事を一緒に探してくれていたんだ」



『はぁい!』



 ジェスは返事をすると、俺の背中を離れて母親の隣へ飛んで行った。



「なんだ、随分小さいじゃないか。坊主は人間と一緒にいたくて小さくなっているのか?」



『うん! ジュスタンの背中にくっつくの好き! シモンの頭も悪くないけどね!』



「ははは、そうか! 楽しそうにしているようでよかった! 坊主の母ちゃんが心配していたからな!」



「すまないが説明してもらえるだろうか」



 ジェス達のやり取りにほっこりしていたら、聖女を前に乗せた聖騎士団長のアクセルが騎乗したまま隣に来た。

 聖騎士達だけじゃなく、第三の奴らもわけがわからないという顔をしているから、説明してやらないとな。

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