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69.

「団長、料理までは手伝わなくてもいいですよねぇ?」



 調理に悪戦苦闘している聖騎士達をチラッと見ながら、マリウスが言った。

 テント張りの手伝いを終えて、調理を手伝いに来たエリオット隊の従騎士(スクワイア)の二人も頷いている。



 どうやらテント張りの手伝いを申し出た時に、最初は自分達でできるからと突っぱねられたらしい。

 しかし外套一枚分の温度調整の付与魔法では、馬車にいた時とは比べ物にならない寒さで震えていた聖女を指差すと、大人しく手伝われていたとか。



 俺達と違って筋肉がほとんどないもんな、むしろ俺達ですら鎧とマントの二段階の温度調整魔法があってちょうどいいくらいだから、聖女からしたらかなり寒いだろう。



「マズければ聖女が自分で作らせてほしいと言い出すだろう。向こうが手伝ってくれと言って来ない内は放っておけ」



「ですよね!」



「ガスパール、シモン! お前らは途中で狩った角兎(ホーンラビット)を解体しておけ。今回は使わないが、調理よりは気楽にできるだろう? 後で清浄魔法使ってやるから汚れは気にしなくていい」



「「了解」」



「団長~、野菜切れたよ~。ソーセージも切っておく? それともそのまま入れるの?」



 指示された分を切り終わったアルノーが聞いてきた。

 シモンやガスパールに比べたら器用な方なので、安心して任せられる。



「半分に斜め切りしておいてくれ。…………恐らく聖女も食べる事になるだろうからな」



 最後にポツリと独り言のように呟く。

 聖騎士達は基本的に遠征に行く時は、各地にある神殿で食事や宿を提供されるのが普通だ。

 テントを張る手際を見ただけで、野営慣れしていないのは明らかだし、それで料理だけは上手いなんて事はないだろう。



 料理の腕前より剣の腕前を優先して選んでいるだろうし。

 聖女以外が倒れても、聖女に回復してもらえるが、聖女本人が倒れてしまってはどうしようもない。



「『水球(ウォーターボール)』」



 スープ用に寸胴鍋に水魔法で水を入れ、液体コンソメとうろ覚えの手作りブーケガルニを放り込む。



「アルノー、根菜をブチ込め。マリウス達は鶏肉に下味を付けたな? 玉葱とキノコ類の準備もできたらこっちも調理を始めるぞ」



「「「「はい」」」」



 スープの方は沸騰するまで放置でいいから、更に二つの魔導コンロを使って俺とマリウスで鶏肉のフリカッセを作る。

 塩味を馴染ませたぶつ切りの鶏肉を、皮目から焼き色が付くまで両面焼く。



「ああ……、もうこのまま焼いた肉でも十分美味しそう」



 従騎士(スクワイア)のユーグが俺とアルノーの間に立って、スンスンと匂いを嗅いでいる。

 確かに鶏の脂が焼ける匂いって暴力的に美味そうだもんな。

 一度鶏肉を取り出して休ませておいて、脂を捨ててバターをひと欠片入れてキノコ類と薄切り玉葱を塩で炒める。



「団長、次は何を?」



 隣で俺のマネをして作っているアルノーが手順を聞いてきた。



「次は小麦粉を足して馴染むまで炒めたら、多めの白ワインでフランベして、水とコンソメを加えて鶏肉を戻すんだ」



「ああっ、そんなの絶対美味しいやつじゃないですか!」



 下拵えが終わって暇なもう一人の従騎士(スクワイア)、アシルがゴクリと喉を鳴らした。



「煮込んだあとは生クリームを入れて、塩で味を調えるだけだ。物足りなければ胡椒を使え」



 角兎(ホーンラビット)を木に吊るして解体をしていたシモンとガスパールも、いつの間にか手を止めてこちらを見ている。

 どうやら向こうが風下らしい。



「団長、沸騰したから灰汁取ったよ。ざく切りキャベツとソーセージ入れちゃうね」



「ああ。よし、あとは両方煮込むだけだな」



 魔導コンロの火を弱めていたら、何かが焼ける……いや、焦げる匂いがしてきた。



「バカッ、何やってんだ!」



「ですが、まだ中まで火が通ってなくて!」



 あいつら火加減ってものを知らないのか?

 どうやら聖騎士達は予想通り、聖女には調理をさせなかったようだ。

 どうせ次から頼る事になるんだろうな、むしろ聖女が我慢できずに手を出すってところか。



 そうこうしている内に、辺りは段々暗くなってきて作業は更にしづらくなるだろう。

 こっちはもう解体はほとんど終わっているようだし、あとは俺の清浄魔法で綺麗にして魔法鞄(マジックバッグ)に放り込むだけだ。



「団長! もう食べられるんじゃない!? いいよね!? フリカッセを器によそうから!」



「ああ、その間に解体組に清浄魔法かけてくる。エリオット、遠征用の魔法鞄(マジックバッグ)からパンを出しておいてくれ」



「了解」



 よほど早く食べたかったのか、その後の部下達の動きはとても機敏だった。

 そして予備の器にフリカッセとスープをよそうと、ついでにジェスが食べ尽くした菓子の詫びにチーズケーキもひとつトレイに載せて聖女へ持って行く。



「ヴァンディエール騎士団長、どういうつもりですか? こちらの食事は我々が準備する事になっていたはずですが」



 聖騎士団長のアクセルが、俺の行く手を(はば)んだ。



「だがそちらの調理は上手くいっていないように見えるが? 聖騎士達はともかく、聖女に妙な物を食べさせて体調が崩れては困るからな。心配なら毒見でもしてから渡せばいい。パンくらいはそちらも持って来ているだろうから、そちらの物を出してくれ」



 俺が毒見と言うと、アクセルがゴクリと唾を飲み込んだのがわかった。

 お前も食べたいのか。だがウチの食いしん坊達のお代わりがなくなるから、聖女の分しか分けないぞ。



「わかった……。ありがたくいただこう」



「貴殿がしていいのはあくまで毒見だぞ、毒見。つまみ食いじゃないからな」



「も、もちろんわかっている!」



 薄暗くなってきた中でもわかるくらい赤くなるアクセル。

 きっと全部食べたいと思ったのだろう。



 その後、食後のチーズケーキを食べている時にトレイを返しに来た聖女が、美味しかったといいながらも打ちひしがれていたのはなぜだろうか。

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