表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/217

63.

『昨日はね~、ジュスタンもボクみたいによしよしされてたんだよ! ボクもいっぱいされたけど。シモンは誰にもされてないからボクがしてあげるね』



「うわっ!? なんだ!? 団長! ジェスは何て言ってるんだ!?」



 連休二日目の朝、部屋を出たらタイミングよくシモンと顔を合わせた。

 シモンを気に入っているジェスは、俺の背中からシモンの頭に飛び移り、グシャグシャと髪を撫で回している。



「ジェスと違ってお前は誰からも撫でられないから、ジェスがなでてやるんだと」



「そういう事だったのか……、お前はいい奴だな~」



 俺の事を抜かして説明すると、自分の頭を撫でるジェスの頭を手を伸ばして撫でるシモン。

 まぁ、普通大人になってから頭を撫でられる事なんてないからな。



「シモン、お前は装備品の手入れは終わっているのか? そろそろ研ぎに出すとタレーラン辺境伯領からの帰りに言っていたと思うが?」



「えっ、まぁ……、まだいけぃてぇっ!!」



 緊張感のない答えだったせいで、反射的に頭に拳を振り下ろしていた。



「馬鹿者!! これから行く先はドラゴンの住むような秘境だぞ!! 物見遊山(ものみゆさん)のつもりなら貴様は置いていくからな!!」



 ドラゴンは山奥や、断崖絶壁の小さな島など基本的に人が足を踏み入れないところに住むと言われている。



 実際今回ジェスに聞いた話から推測すると、下手をすれば数ヶ月かかってもおかしくない山や岩山をいくつも越える場所だ。



 つまりはどんな魔物が生息しているのかもわかっていない。

 小説の中にはかなり強い魔物も出てきていたから、その魔物が今回の遠征で出ないとも限らないのだ。

 そんな場所に行くというのに、夜遊びを優先していたという事実に思わずカッとして手が出てしまったのは仕方のない事だよな。

 


「朝食が済んだらすぐに鍛冶師の工房に行くぞ」



「はいぃ……」



『シモン痛い? 痛いのここ? よしよし』



「うわ、ジェスやめてくれ、そこ痛いから!」



 涙目になりながら返事をするシモン、俺が殴ったところを小さな手で撫でているジェスにほっこりするが、今触ったら痛いだけだぞ。

 実際シモンも痛がっているが、それも罰になるならまぁいいか。



 食後、何かあると大変なのでジェスは留守番させ、シモンだけを連れて鍛冶師の所へ向かった。

 第三騎士団と第二騎士団の敷地の間には、国のお抱えという職人集団が住んでいる。

 王族の住居以外の公的な備品の多くはここで造られているというわけだ。



 そんなわけで、俺達が使っている防具や武器、馬具などもここで造られているため、メンテナンスもここに持って来る。

 ちなみに俺の剣は昨日総長の屋敷に行く前に出してあるので、シモンを連れて行くのは受け取りのついでだ。



 そういえばこの世界には、伝説として語られているエルフやドワーフが実在する。

 今は王都にいないが、小説内では主人公(エルネスト)達が旅の途中で出会って手助けをしてくれるようになるが、もしかして探せないと邪神を倒す武器を造ってもらえなかったりするのか?



 小説に地図とか載っていたら、どの辺りに行けばいいかわかっただろうに。

 現在ドワーフが造ったと言われる武器は、オークションなどに稀に出てくるお宝レベルの物しかない。

 数百年前にスタンピードで千体以上の魔物を(ほふ)ったと言われるとか、滅んだどこぞの王家の宝だった物とか、嘘か本当かわからない物が多い。



「そんなに焦らなくても、アイツなら一日でなんとかしてくれるだろ?」



 一応状態確認をするために鎧をフル装備しているシモンが、隣を歩きながらブツブツ言っている。



「お前と同じ事を考えている奴が何人いると思う?」



「あ……。い、いや~、それにしてもアイツはいつも二言目には、『ワシはドワーフの弟子だ』って言ってるけどよ、本当なのかって思うよな~。そりゃ鍛冶師の中でも腕前は飛びぬけてるとは思うけどよ~」



 ジトリとした視線を向けると、シモンは目と話を逸らした。



「……恐らく本当だろう、実際ボスコが所属してから腕を上げた者が増えたらしいからな。それに……ボスコの腕が確かなのは事実だ」



 噂の鍛冶師のボスコは、確か五十三歳だったはず。

 その歳で自分の事をワシと言うのも、ドワーフ()の口癖が移ったんだと言っているらしい。

 つまりはボスコに聞けばドワーフの国、または集落の場所がわかるかもしれないという事だ。



「だけど『ワシは強い奴にしか剣は打たん』とか言って、気難しい職人のフリするのがなぁ……」



「ククッ、だが一昨年からお前も打ってもらえるようになったじゃないか。あの時飛び跳ねて喜んでいたのは誰だったかな?」



「そ、そりゃあ……、あの時はやっと周りから一目置かれるようになるって思ったからさ……」



 ボスコは大体小隊長以上の実力がないと、宝の持ち腐れになるからと言って剣を打とうとしない。

 使う者の重心のクセや間合い、戦闘スタイルに合わせて微調整するのだが、これが確かに凄いのだ。



 専用の作業場があるのはボスコだけ、という事実がその実力を物語っている。

 そしてその作業場を訪ねると、ボスコはシモンを見た瞬間笑い出した。



「わはははは! いつもギリギリに来てはワシに怒鳴られているお前さんが余裕を持って来るとは! やっぱりヴァンディエール騎士団長には弱いと見えるな!」



 どうやらシモンはギリギリ行動の男だと認識されているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ