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61.

「と、いうわけで、遠征が決まった」



 全員が揃った夕食時、食事が済んだ部下達にそう告げると、食堂内が振動しているかのような歓喜の声が上がった。

 どれだけ訓練だけの日々が嫌だったんだ、お前ら。



『ボクのお母さん探しに行くの!? やったぁ!! ジュスタンを紹介するね!』



 シモンの頭に掴まって、肩の上に立っているジェスがパタパタと翼を動かした。

 ジェスは俺の頭に掴まったりしないから、シモンの事は手下くらいに思っているのかもしれない。



「ジェスも嬉しいのか、よかったなぁ、きっと母ちゃんに会えるぞ」



 キューキュー鳴いているようにしか聞こえないはずだが、どうやらシモンもジェスが喜んでいるのはわかるようだ。

 


「今回は討伐ではなくジェスの母親を探して、できれば味方になってもらうためにも、あまり大人数で行くのは得策ではないと思っている。だから森に面した各領地に一個小隊、もしくは二個小隊配置するつもりだ。万が一ジェスの母親でなくともドラゴンが暴れた場合、魔物達も逃げ出すだろうから担当した領地の民を護るように」



「団長! もし魔物が来なかったらどうするんだ? まさか担当した領地で訓練三昧なんて事……ないよな?」



 エリオット隊のカシアスが挙手をして発言した。



「勘を取り戻すためにも、森に入って討伐する分には問題ないぞ。むしろその領地の領主から依頼があれば、積極的に受けてかまわない。その代わり、そこでの滞在費用は領主に受け持ってもらう事になっているから、せいぜい行儀のいい番犬になってやれ。問題を起こしたら……俺がじっくりと躾け直してやるから覚悟するように」



 笑みを浮かべると、部下達がヒエッと息を飲んだ。

 人の笑顔を見てする反応じゃないだろう、失礼な奴らだ。



「準備も色々あるから出発は五日後となった。明日から三日間休みをくれてやるから、各自装備と心身の手入れをしておくように!」



「さすが団長わかってるぅ~!」



「やったぜ!」



「花街が俺を呼んでるぜ~!」



 部下達が口々に喜びの声を上げている。

 滞在先の領地でヤンチャをさせないためにも、一旦ここでガス抜きさせておかないとな。

 休みに関しては騎士団総長の許可をもらっているので、当然俺も三日間の自由時間ができた。



 一日だけ総長からの呼び出しがあって潰れるが、あとの二日間は何をしよう。

 前回の連休は実家に帰ったから、休みのようで休めてはいなかったからゆっくりするか。

 きっと連休中はほとんどの奴らは宿舎にいないだろうから、その隙にジェスのお菓子でも作ってやらないと。






 翌日、多くの者が泊まりで遊びに行っているせいか、閑散とした宿舎を出て総長の屋敷へと向かった。

 貴族の平服にコートを羽織っているが、コートの中にはジェスが隠れている。

 ジェスを連れて行くのも総長の意向だ。



 愛馬(エレノア)とジェスと一緒に、雪が降りそうな分厚い雲が空を覆う中移動する。

 貴族街の一画にある、小さな村なら入ってしまいそうな敷地の門に到着すると、以前第二で見かけていた元騎士達が立っていた。



 騎士としては現役を続ける事は難しい年齢になった者を、総長は積極的に自宅の警備として雇っているのは有名な話だ。

 当然実力が(ともな)っていないと雇ってはもらえないらしいが。



 門番の二人は、心なしか俺の事を興味津々に見ている気がする。

 あ、もしかしてジェスを連れて来ている事を聞いているのかもしれない。



「ヴァンディエールだ。総長に呼ばれて来たのだが、取り次ぎを頼む」



「ハッ、聞いております! 中へどうぞ」



 二人の前を通り過ぎると、背中に視線が突き刺さる。

 ピッタリ張り付いてはいるものの、明らかに背中に何かが隠れているのがわかるくらいには盛り上がっているからな。



 シンメトリーに造られている広い庭を通り、玄関前まで行くと馬番が愛馬を預かってくれた。

 玄関のドアの前に立つと、中からドアが開かれて家令が出てきた。



「いらっしゃいませ、ヴァンディエール様。お寒かったでしょう、どうぞ中へ。コートをお預かりします」



 流れるような動作で、コートを脱ぐのを手伝う家令。

 途中で不自然に動きが止まったのは、背中にいるジェスのせいだろう。



「ジェス、こっちにおいで。抱っこしてやろう」



『うん!』



 パタパタと翼を動かし、俺の腕の中に収まると胸元に頬擦りをするジェス。

 まだ子供なせいか、こうした甘えるしぐさをよくする。

 家令は我に返ってコートを玄関脇のコート掛けに片付けると、俺達を応接室に案内した。



「旦那様、ヴァンディエール様がいらっしゃいました」



『来たか! 通せ!』



「失礼いたします」



 家令がドアを開けると、応接室にいたのは総長だけではなかった。

 中にいた人物達を見た瞬間、俺の本能が今すぐ帰れと警告をする。



 実際回れ右で帰りたかったが、この人達相手にそれは許されない事だった。

 なぜなら総長と一緒にいたのは、先代の第三騎士団長と神殿長だったからだ。



「来たか。ククッ、どうして俺がここにいるんだ、という顔だな。俺が呼び出しても嫌がって来ないから総長に頼んだんだよ」



 五十歳を過ぎ、騎士団長も二年前に引退したというのに全く体格が変わっていない白髪混じりの男は、イタズラが成功した子供のような顔で笑った。

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