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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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58/218

58.

 広間に戻りたくはないが、ずっと庭園にいるわけにもいかず、渋々戻るとまた挨拶攻めに遭った。

 どこかに聖女を受け入れてくれる心優しい令嬢はいないのか。



 今夜来ているのは、令嬢よりも聖女見たさに来た子息が多いせいか、聖女のお友達になってくれそうな人物は探せなかった。

 聖女に一番興味を持っていそうなのはエルネストだったし、どうしようもないな。



 顔の筋肉の限界がきたのか、聖女の笑顔が不自然になってきた頃、やっと夜会の終了が告げられた。

 俺の方は愛想笑い自体は日本人の特性で余裕だが、(ジュスタン)がこれまで笑って来なかったせいか、頬の筋肉が悲鳴を上げている。



 身体だけじゃなく顔の筋肉も鍛えておいてほしかった。

 だがまぁ、これで俺の役目も終わりだ。

 聖女をエスコートして広間の階段を上がっていくと、ほとんど王族専用の休憩室から出て来なかったエルネストが階段の上で待ち構えていた。



 嘘だろ、まさか今から絡まれるんじゃないだろうな。

 そう思ったが、エルネストの視線は聖女に向いている。

 護衛という俺の立場はまだ続いているんだよな? 結局相手しなきゃいけないんだろうか。



「聖女よ、少々話したいのだがいいだろうか」



 こいつ、こうやってキリッとした顔してればちゃんと王子様なんだよな。

 俺と違って悪人顔していないから、それだけでも得しているというものだ。

 聖女が話すと言ったら、先に帰っていいだろうか。……やっぱりダメだろうな。

 そう思っていたら救いの手が差し伸べられた。

 


「申し訳ありません、王太子殿下。聖女様は慣れぬ環境に少々お疲れのようでして、本日はこれにて下がらせていただきたく存じます」



 柔和な笑顔でキッパリと断る神殿長、どうやらエルネストを聖女に近付けたくないようだ。

 微妙な立場だから妙なマネはしないと思うが、婚約者のディアーヌ嬢がいるのに聖女に声をかけている時点で、ある意味妙なマネをしていると言える。



「そ、そうか……。聖女が疲れているのなら仕方ないな」



 そう言いながらも聖女が許可を出さないか期待しているかのように、チラチラと視線を送っている。

 俺はとどめを刺してやれと聖女に目配せした。



「申し訳ありません。お城はどうしても緊張してしまって……。神殿ですらやっと慣れてきたところですから」



 聖女はまるでエルネストの視線が気持ち悪いと言わんばかりに、羽織ったままの俺の上着の前を閉じて身体を隠す。



「そうか……、そうだな。今夜はゆっくり休むといい」



 さすがに拒否されている事が伝わったのか、悲しげな表情を浮かべて(きびす)を返した。



「王太子様はいったい私に何の話がしたいんでしょう……、なんとなく嫌な感じがするから関わりたくないんですけど、また誘われたらどうしよう」



「その時は二人きりで会わなければいい。神殿長に同席をお願いするとか、聖騎士を二人以上同伴させる事を条件にするとか。婚約者のいる男性と二人きりでは会えませんって言えば問題ない。どうしても二人きりと言われたら断るんだな、聖女であればそれが許されるだろう。ですよね? 神殿長」



 聖女の立場は特殊だからこそ、王族ですら自由にはできないはず。



「そうですね、ヴァンディエール騎士団長のおっしゃる通りです。ふふふ、噂には聞いていましたが、以前のヤンチャぶりから随分成長されましたねぇ。あなたが第三騎士団に入ったばかりの頃はそれはエドウィンも手を焼いていましたから」



「ごふぅっ! ゲホゲホッ! ちょ、ちょっと待ってください。どうして先代の名前が……」



 予想外の人物から予想外の名前が飛び出てきた。



「おや、知りませんでしたか? 私と先代の第三騎士団の団長であるエドウィン・ド・メーストルは、王立学院の同級生だったのです。なぜかウマが合って今でも交流してますしね。私の役職で五十一歳は普通ですが、騎士団長の職はさすがに続けられないと何年も前から言っていたので、ヴァンディエール騎士団長が継いでくれて私も感謝しているのですよ」



 これで神殿長が俺を見透かしたような目で見る理由がわかった。

 先代の団長から色々聞かされて、俺の事をよく知っているせいだったんだ。

 しかも友人である先代を役職から解放した事で、俺に好感を抱いてくれているらしい。



 しかし、こんなエピソード小説になかった気がする。

 もしかしたら設定だけ作られて、書かれなかった内容があるのかもしれないが。

 そうだとしたら、小説の中の神殿長や先代のエドウィン団長はジュスタンが闇堕ちした事を悲しんでいたかもしれない。



 変な言い方かもしれないが、そう思うと少しだけ、ほんの少し小説の中のジュスタンが救われる気がした。

 ちゃんと見ていてくれる人がいた事に気付かなかったのは、どうしようもないと思うけれど。



「感謝するのはこちらの方です」



 色んな意味で。



「ふふっ、では我々も退散しましょうか。この歳になると夜会に参加するのも厳しくなりますね、それでは出口まで聖女様のエスコートを頼みましたよ」



「はい、お任せください」



 公爵家の馬車が全て出発したせいか、出口にはすでに神殿の馬車が待機していた。



「ジュスタン団長、上着をありがとうございました。……おやすみなさい」



「ああ、おやすみ。神殿長も今日はお疲れ様でした」



「ヴァンディエール騎士団長も。今後も聖女様をよろしくお願いしますね、お友達だそうですし」



 最後にニッコリと意味深に微笑んで馬車に乗り込む神殿長。

 やっぱり油断ならない人物だな、そう強く思った。


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