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45.

 小説では(ジュスタン)がドラゴンと共に王城を襲い、王太子が第一騎士団と第二騎士団を率いて王城を守っていると、ピンチになった時に聖騎士団と共に聖女が現れて神聖力でドラゴンと(ジュスタン)を鎮静化させ、その隙に王太子率いる騎士団と聖騎士団が討伐成功させたはず。



 その後でドラゴンを操っていた魔石を聖女が浄化していたら、ドラゴンを殺さずに済んだかもしれないと聖女が悲しむシーンがあったような。

 結構前に読んだ小説だったから、聖女の名前も忘れたんだよなぁ。

 実際自分の事も、ストーリー展開と名前の響きでなんとかわかったくらいだったし。



 という事は、ドラゴンを操っている奴の身体に埋め込まれている魔石を浄化できれば、ドラゴンと無駄な戦いをしなくていいというわけか。

 確証はない、しかし俺には確信があった。



「お前ら! 少しの間だけコイツを抑えておけ」



「「「「はぁぁぁ!?」」」」



 見事に驚きの声をハモらせる部下達に背を向け、俺は愛馬から飛び降りると聖女の方へと身体強化を使って走った。

 正確にはその隣にいる神官長の元へ。



「あんた聖女様だろう!? ちょっと浄化してもらいたい物があるんだが……」



「えっ!? は、はいっ! なんでしょ……」



 聖女が答えている最中に、俺は神官長の上半身の服を下から袈裟懸けに斬り裂く。

 俺の動きに誰も反応できなかったが、直後に聖騎士達が俺を取り囲んだ。



「聖女様! あのドラゴンを操っているその神官長の胸の魔石を浄化してくれ!」



 俺に向けられた剣を弾き返しながら叫ぶと、聖騎士達と聖女の視線が神官長の胸に集中する。

 そこにはドラゴンと同じく、赤黒い魔石が埋まっていた。



「なにをする……! これは世界に必要な事なのだ! 邪神が復活するまでに聖女の力を認めさせねば!」



「邪神の力を借りてか!? 神官長のくせに邪神の手を取ったお前は神官である資格を失っているだろう!」



 俺と神官長のやり取りに戸惑う聖騎士と聖女。

 早くしないと俺の部下達が大変なんだよ!!

 聖布で作られた祭服で隠れていた間は誰も気付かなかったようだが、神聖力の素養がある者が見ればわかる禍々しいオーラを放っているのだろう、皆俺の事より神官長を警戒しているように見える。



 俺は神官長を蹴り倒すと、足で身体を押さえたまま胸の魔石を鷲掴んで無理やり引きちぎりにかかる。

 何をされるかわかった神官長が俺の腕を掴んで抵抗したが、身体強化をかけてブチブチと癒着した肉ごと引き剥がした。



「やめろぉぉぉぉぉ!! ぎゃあぁぁぁああぁ!!」



 断末魔のような悲鳴を上げ、神官長は意識を失った。

 死んだかどうか確かめる暇はない、すぐに神官長の肉片が付いたままの魔石を聖女の前に突き付ける。



「ひぁ……っ! な、何を……!」



「何をじゃない! さっさと浄化しろ!! チッ、『清浄(クリーン)』、ほら!! 浄化しろ!」



 神官長の肉片が付いているせいか、怯えて使い物にならない聖女にイラつきつつも、清浄魔法で魔石を綺麗にしてやった。



「は、はいぃっ! 『浄化(ピュリフィケーション)』!!」



 先ほど聖女から放れた仄かな光と違い、今度は閃光が走った。



「く……っ」



 思わず腕で目を覆い、光が収まってから魔石を見るが、目がチカチカしてちゃんと見られない。

 目をギュッと瞑り、首を振るものの変わらず、何度も瞬きを繰り返してやっと視力が回復した。



 そうして見た物は、先ほどと同じ物なのかと疑いたくなるほど青みがかった透明な魔石。

 ドラゴンはというと、魔石が同調しているせいか、ドラゴンの魔石も浄化されて、まるで寝起きなのかと思うくらいぼんやりしている。



 部下達もどうしていいのかわからず、取り囲んで様子を見ているが、ドラゴンはそんな部下達をただ見ているだけだ。

 あ、もしかして俺がこの魔石を持っているから、俺と同調しているんだろうか。



「おい、神官長が生きているか調べなくていいのか? まぁ、邪神の手下に惑わされた時点で神官としての資格はないと思うがな」



 聖騎士の一人にそう告げると、悔しそうにしながらも神官長の身体を調べ始めた。



「ハァ……。あのドラゴンは……どうすべきかな」



 手にしている魔石に軽く魔力を通すと、驚く事にドラゴンと意識が同調した。

 正確に言うと、いわゆるテイムした状態になったのだ。



「は……? いやいやいやいや、ありえないだろ!!」



「キュウ……」



 ドラゴンはコテンと首を傾けて上目遣いでこちらを見ている、正確には見下ろしているんだが。

 コイツ同調した時に俺の記憶を見たのか、そのしぐさが前世の弟達にそっくりだった。



「うぐ……、いや、しかし……」



 こんなにデカいドラゴンを飼うとか無理だぞ、そう思った瞬間、ドラゴンが空に向かって吠えた。



「『ギャウルルル』」



 ドラゴンを取り囲んでいた部下達は慌てて剣を構えたが、テイムしたせいか俺にはわかった。

 今のはドラゴンの呪文なのだと。

 その証拠にドラゴンは今、馬と同じくらいの大きさになっている。



「ドラゴンはもう大丈夫だ! 心配しなくていい!」



 落ち着いた事がわかったのか、愛馬が俺のところまでやってきた。



「よく頑張ったな、偉かったぞ、エレノア」



 ドラゴンに追いかけられる、という恐怖体験を頑張って耐えてくれた愛馬(エレノア)を優しく撫でる。



「そ、そんな……、ありがとうございます」



 ん? エレノアが話した!? ドラゴンをテイムしたから動物と話せるようになったのか!?

 一瞬そう思ったが、声が聞こえたのはエレノアの方からじゃないかった気がする。

 声が聞こえた方を見ると、なぜか聖女がもじもじしながら顔を赤くしていた、まさか……。



「あの、どうして私の名前を知っていたんですか? その、あなたのお名前を教えてもらっても……?」



 忘れていた聖女の名前に、気が遠くなりそうになった。

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