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43.

ディアーヌ視点です。

「王太子の妃なんて、将来何人も側室を迎えるだろうから苦労するぞ? 俺にしておけよ」



 わたくしが王太子であるエルネスト様の婚約者と知りながら、いえ、婚約者だからこそこうして声をかけてくる無礼な王立学院の先輩、それがジュスタン・ド・ヴァンディエール侯爵令息の印象でした。



 しかし、わたくしの事を好きだと言うヴァンディエール様の目は、恋を知らないわたくしから見ても恋する者の目ではなかったのです。



 そんな彼が王立学院を卒業して、実家のヴァンディエール侯爵領で騎士になったと聞いた時はホッとしました。

 数年後に王都の第三騎士団に入るまでは。



 幸い近衛騎士である第一騎士団と違い、第三騎士団の敷地は王城から少し離れた所にあったので、滅多に顔を合わす事はありませんでした。

 滅多に、という事で年に数回は夜会などで顔を合わせる事があると、相変わらず声をかけてきて、そして距離が近いのです。



 そのたびにエルネスト様が助けてくださいましたが、ヴァンディエール様が王都に来て一年後、第三騎士団の騎士団長が怪我をして引退となった時、ヴァンディエール様が抜擢されました。

 実力からして当然だと皆様口を揃えておっしゃっていたので、かなりの実力者だとは知っていました……が。



 騎士団長になったせいで、ヴァンディエール様が王城に来る機会が増えた事が問題です。

 王立学院を卒業したわたくしは、すでに王妃教育という事で王城で生活していたのですから。



 わざわざ探してまでわたくしに会いに来る事はありませんでしたが、顔を合わせると言葉は悪いですが、口説き落とそうとしてきました。

 人目をはばからずそのような行動に出るため、その事は周知の事実となって噂が広まる始末。



 騎士道で主君の奥方に心を捧げるという恋愛の形は、物語だけでなく実際にある事だと聞いていましたが、彼の行動は明らかにそれとは別物でした。

 エルネスト様からわたくしを奪い取りたい、というのがひしひしと伝わってくるのです。



 そんな事が続いて、とうとう彼の姿を見ただけで震えるようになった頃、わたくしの実家であるタレーラン辺境伯領に魔物が増えだし、第三騎士団が応援に行く事が決定しました。



 お父様には普段からわたくしの現状を伝えてあるため、ヴァンディエール様の事を(こころよ)く思っていないでしょうから、二人が衝突しないか心配で眠れない日が続いていたある日。

 お父様からの手紙にたくさんの事が書かれていたのです。



 ヴァンディエール騎士団長が意識を失う怪我をしてから人が変わったようだ、スタンピードを未然に防いだ恩人だ、手柄を誇らず部下のおかげだと謙虚だった、もうお前(ディアーヌ)(わずら)わせるような事はしない、と。

 書かれている全てが信じられなくて、何度も読み返しました。



 そしてその事が真実だと知ったのは、第三騎士団が王都に戻って陛下と謁見したあの日。

 これまでのヴァンディエール様であれば、褒美にわたくしを求めてもおかしくない状況で、ご自分の手柄ではないとハッキリおっしゃったのです。



 それどころか、その後の晩餐の前に信じられない事が起きました。

 その……、月の(けが)れで汚れたわたくしのドレスを気遣い、なおかつ、その事を周りに気付かせぬようにしてくださったのです!



 あの時の対応には、これまでヴァンディエール様を警戒していたアナベラも驚いていました。

 街中の書店で会った時はかなり失礼な対応をしてしまったと思いますが、ヴァンディエール様はなんて事はないと言わんばかりに流してくださって……。



 しかもその直後暴漢に遭ったわたくしとアナベラを助けてくださいました。

 それなのに怪我をして戻ったわたくし達を見たエルネスト様は、書店でヴァンディエール様と会った後に拉致されそうになったと聞いた途端に表情を変えてしまわれ、その後はまともに話を聞いてくださらなくて。



 そうこうする内になぜかわたくしとアナベラは軟禁状態になっており、部屋にお茶を運んできた侍女を問いただすと、エルネスト様がヴァンディエール様を拉致の首謀者として裁判にかける事がわかりました。



 確かにこれまでの行動を思えば、そのような疑いをかけたくもなる気持ちもわかりますが。

 しかし、今回は絶対に違うとわかっているはずなのに、まるでそう信じたいと言わんばかりにエルネスト様は(かたく)なでした。 



 その侍女に協力をお願いすると、サロンでヴァンディエール様に治癒魔法をかけてもらったお礼をしたいからと協力を約束してくれたのです。

 わたくし達以外にも助けられた者がいたのですね。



 裁判当日、お茶を運んできた侍女がヴァンディエール様を愛でる会(そんな会があるなんて初めて知りました)の会員という方を数人連れてきて、部屋を出る時にその方達に紛れて脱出する事に成功しました。



 殺気のこもった目で睨まれたい、虫を見るような目で見下されたい、という気持ちは理解できませんでしたが、彼女達にはいつかお礼をしたいと思います。



 馬車の管理者にはわたくしの使いだと言い、使用人が使う馬車で二人の侍女と共に王城を出ました。

 裁判所で(いわ)れのない罪に問われているヴァンディエール様への申し訳なさと、エルネスト様への不信感で胸が締め付けられる思いにかられながら法廷に飛び込み、ヴァンディエール様の無実を訴えました。



 王城に戻った後、その事についてエルネスト様からお叱りを受けましたが、その騒ぎを聞きつけた陛下によって逆にエルネスト様が叱責を受け、軟禁生活を命じられる事に。



 こう言っては何ですが、エルネスト様はこれまで太陽のような明るさと力強さがありましたが、このところ力強さというより強引という印象を受けるようになってきています。

 ヴァンディエール様が認められるたびに明るさが(かげ)り、公正な目で見れなくなっているように見受けられますわ。



 お父様はエルネスト様を信頼して後ろ盾になっていましたが、今回の騒ぎで盤石だった王太子の地位も危ういと囁かれていますし、わたくしから見た現状をお父様にお知らせすべきですわね。



 スタンピードを未然に防げたお祝いを送るために御用商人を呼びましょう、商品を送るついで(・・・)にお手紙をお願いしようかしら。

 商人を通せば、王城の検閲は必要ありませんから……ね?

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